ブラックシャドウの目的
わたしとアンジェラが振り返ってみると、そこに立っていたのは、昨日の夜中に続いてのブラックシャドウドウだった。相変わらず神出鬼没なヤツだが……
「お嬢さん方、ご機嫌いかがかな。昨夜はよく眠れたかい?」
と、ブラックシャドウは、例によって目は笑っていないが、ニヤリ。
すると、アンジェラはわたしの背後にサッと身を隠し、プロトタイプ1号機はわたしたち(厳密にはアンジェラ)を守るように「ガガッ」と身構えた。
わたしは、抱いているプチドラの口をブラックシャドウに向けながら、
「あなたは、この前からコソコソと…… 一体、何が言いたいの?」
「それは、昨日も申し上げたこと。私としては商会会長の代理人として、ウェルシー伯には、当方で『完全自動殺人機械』と呼んでいるところのものについて、技術やノウハウ等を含め、速やかな引き渡しを願いたい。それだけのことだ」
ブラックシャドウは涼しい顔で言った。今回わたしたちがドラゴニアに来たのは、新ドラゴニア侯(正体はスヴォール)をなんとかするためだけど、この微妙なタイミングに、更に面倒なヤツが、もっと面倒なことを……
わたしは、しばらく、無言でブラックシャドウを見上げた(にらんだ)。
ちなみに、今現在、ニコラス(及び青年ドラゴニア党)とアース騎士団長(及び騎士団)は、喧々諤々とした果てのない議論の最中で、わたしたちの間には少々の距離(ただし、大きな声を出せば、何を言っているか聞き取れる程度)があることもあり、ブラックシャドウのことには気付いていない様子。
ともあれ、ブラックシャドウの人格的・人間的な面(これは、完全に信用ならない)はさておき、ヤツが今言った話の内容については、おそらく、基本的にウソはないと思う。今回の(こちら的には)「重武装人造人型兵器」の件では、マーチャント商会への具体的な回答・返答をとにかく先延ばしにして(延ばしまくって)きたので、マーチャント商会会長はそろそろしびれを切らしているのだろう。そのため、凄腕のエージェントであるブラックシャドウを送り込み、こちらの様子を探るとともに、場合によっては、(こちらで言う)「重武装人造人型兵器」そのもののほか、その技術やノウハウ等(イメージ的には設計図など)の強奪も視野に入れていることも考えられる。
わたしは思わず視線を空に向け、「ふぅ」とため息。
「どうされたかな? ウェルシー伯、少々お疲れのようだが」
と、口を開いたのはブラックシャドウだった。ただ、その話しぶりからは、彼の内心は全く読めない。
ニコラスとアース騎士団長の一種の怒鳴り合いは、(昔ながらの表現では)ぶっ壊れたラジオのように依然として続いていて、、
「今日こそ申し上げる! 父上は臆病だ!! 城内にどんな敵がいようとも……」
「だからお前は浅はかなのだ! あの機械のような正確無比な攻撃は……」
と、あちらはあちらで、わたしにとっては別にどうでもいい話で忙しいようだ。




