ヤツの目的は?
一体、なんだか……、というより、まったくもって意味不明という方が精確だけど、ともあれ、ブラックシャドウが風のように立ち去り、わたしたちはホッとひと息。
わたしは、アンジェラを抱き寄せ、
「一応、危険は去ったわ。目が冴えて眠れないかもしれないけど、とりあえずベッドで横になりましょ」
すると、アンジェラは何も言わず、言われたように体を静かにベッドに横たえ、目を閉じた。プロトタイプ1号機は、アンジェラのことが心配なのか、壁に背を向け三角座りの姿勢のまま(アンジェラに「フリーズ」を言われた時からずっと、この姿勢だったようだ)、音を立てずに首だけを動かし、アンジェラを見つめた。重武装人造人型兵器の分際で、アンジェラのことを心配しているのだろうか。
そして、数分後……、アンジェラは、緊張感から解放され安心したからか(理屈付けは心理学者の領分だけど)、スヤスヤと寝息を立て始めた。
わたしとしてはアンジェラのメンタルが気にはなるが、それはそれとして……
「プチドラ、まだ起きてる? ……というか、眠ってるなら起きなさい」
わたしは両腕でプチドラの脇腹をつかみ、顔の高さまでむんずと持ち上げた。
「心配しなくても、まだ起きてるよ。あれっぽっちのお酒じゃ、アルコール大王の燃料タンクには、まだまだ余裕があるんだから……」
「余裕って……」
ちなみに、プチドラの言う「あれっぽっちのお酒」の意味は、夕食の際に出されたアルコールがグラス1杯しかなく、「アルコール大王」を自認するプチドラにとっては甚だ不満だったということ。でも、今は、そんなこと言ってる場合じゃないだろう。
わたしは、プチドラをベッドの上に降ろし、
「また面倒なのが現れたわね。ブラックウィドウだっけ? ヤツは今更なんのために現れたのかしら。まさか、さっき言ってたみたいに、本当に、マーチャント商会会長の代理人として、約束の履行を催促しにきたのかしら」
「どうだろう。彼の目的は、今のところ、ボクにも皆目見当がつかない。ただ、それはそれとして、彼は『ブラックシャドウ』だよ。本人もそう言ってたでしょ」
「もう…… 名前はどっちでもいいわ」
わたしは、思わず「ふぅ」とため息を一つして、体を後ろに倒してベッドの上で大の字になった。まさか、プチドラに突っ込まれるとは……
ブラックシャドウが何を考えているのか、気にはなるが、ヤツの内心はヤツにしか分からないのだから、今ここであれこれと推しはかってみても意味はないだろう。とはいえ、やはり気になることには違いなく……、と、わたしは横になりながら、頭の中では堂々巡りを繰り返していた。
そして、そのうちに……
コーケコッコー! コーケコッコー! コーケコッコー!
朝を表現するライトモチーフは、万国共通のようだ。この鶏は、時を告げる特技ゆえに、食糧事情の悪いこの町でも食されずに済んだのだろう。




