品のない冗談
怪しい男の話はともかく……
「では、ウェルシー伯、本日はこれにて」
と、アース騎士団長は一礼すると、十字路を(わたしたちから見て)左方向に向きを変え、歩き出した。騎士団長のすぐ後ろには、一人、別の騎士が続く(これは単に、帰る方向が同じというだけだろう)。
「では、我々も、まいりましょう」
と、これは、先ほどアース騎士団長から、わたしたちのことを任された騎士。これから彼の屋敷に案内してくれるようだ。
わたしたちは、この騎士の先導により、十字路を右に曲がり、そのまま、まっすぐに進んだ。なお、他の騎士たちは、帰る道が違うのだろう、さっきの十字路で別の道に進んだようだ。
道すがら、わたしは(特に意味もなく)周囲をクルリと見回してみたが……
「なんだか、ねぇ……」
もう夕方だからかどうか知らないけど、通りにはあまり人の気配がない。町の人たちも自分の家に帰って、夕食の支度でもしているのだろうか。
「お姉様……」
と、その時、アンジェラが心細げにわたしを見上げた。
「どうしたの? まだ怪しい男が追ってくるの?」
「いえ、そうではないのですが……」
アンジェラによれば、アース騎士団長と分かれてからは、怪しい男の気配は感じないらしい。とはいえ、やはり気にはなるのだろう。
こんな時には…… わたしはプチドラを顔の高さまで持ち上げ、
「プチドラ、あなた、魔法を使えるわよね。なら、魔法でアンジェラの言う怪しい男を……」
すると、プチドラは小さい両腕で「×」の形を作り、
「無理だよ。いわゆる索敵の魔法だよね。残念だけど、ボクには専門外だよ」
ちなみに、索敵あるいは感知魔法については、ウェルシーに残しているエルフ姉妹のマリアが大いに得意とするところ。この場にいてくれれば、怪しい男などすぐに発見できるだろう。でも、プチドラに声をかけたのは、そういうことではなく、
「索敵じゃないのよ。プチドラ、あなたは攻撃魔法なら得意よね」
「攻撃魔法なら任せといて。100メガトンくらいの核爆発でもなんでも。でも、どうして?」
わたしは、ここで、おもむろにニヤリとして、
「町に100メガトンの核爆発をお見舞いしてやるのよ。怪しい男ともども、あのアレなドラゴニアン・ハート城も含めて、一瞬にして消し去ってしまいましょう」
すると、プチドラは「は?」と大きく口を開け、また、アンジェラは、更に顔を曇らせ、
「お姉様、あまり品のない冗談は、やめてください」
そうこうしているうちに、左右に高い壁が続く立派な門を前にして、
「お疲れさまでした。ここが宿舎となります」
先導の騎士が言った。どうやら彼の屋敷に到着したらしい。




