再び怪しい男
わたしたちは、「こちらへ」というアース騎士団長の案内にしたがって、歩き出した。騎士団長によれば、ドラゴニアン・ハート城がアレな状況なので、町にある騎士たちの屋敷のうち、最も広くて清潔そうな屋敷の部屋を確保したとのこと(なお、その屋敷は騎士団長のものではなく、配下の騎士の所有らしい)。そういうことなら、今回は、今までとは違って、ドラゴニアン・ハート城の「大安室」でいわゆるひとつの美少女フィギュアに囲まれて寝る必要がないということだから、この点は、ラッキー。
さらに、騎士団長に続いて歩くこと、数分間……
わたしたちは、それなりに広い通りが十字路を形成しているところに差しかかり、
「では……」
と、アース騎士団長は、ここでなんの前触れもなく歩みを止め、わたしたちに向き直った。そして、連れていた騎士の一人を示し、
「ウェルシー伯、ここから先、宿舎には、この者が案内します」
すると、騎士団長の指名を受けた騎士は、「よろしくお願いします」というように、わたしたちに向かって体をかがめた。
ふと気がつくと、日は既に西に傾いている。今日はこのまま、めいめいの屋敷に戻って休もうということだろう。
と、その時……
「お姉様!」
アンジェラが、不意に、わたしの耳元に口を近づけ、小声で言った。
「先程から、誰かに追跡されているような気がします」
「追跡? 怪しい人が後ろについてきてるの??」
「いえ、なんと言いますか…… 姿はハッキリと見えないのですが……」
アンジェラによれば、(ドラゴニア騎士団がドラゴニアン・ハート城に討ち入る前)わたしたちが街中を散策した際に目にした黒装束の怪しい男が、先程から、わたしたちの後方につかず離れずの距離を保ちつつ追ってきているとのこと。
わたしは思わず、「ふぅ」とため息をつき、
「なんなんだか…… 一体、何者かしら?」
「気味が悪いです。本当に……」
アンジェラは、ブルッと身震いした。彼女によれば、その怪しい男の姿をハッキリと明瞭に視認できたわけではないが、後方に目をやるたびに、とにかく黒ずくめの怪人物の姿が何度も視界の片隅にササッと入ってきてはすぐに消えていくので、怖くて仕方がないという。
わたしは、アンジェラを安心させる意味で、彼女をそっと抱き寄せ、
「でも、相手が一人なら、なんのことはないわ」
すなわち、わたしたちにはプチドラ(つまり、隻眼の黒龍)やプロトタイプ1号機が用心棒としてついているので、ここでアース騎士団長と分かれても(ちなみに、ぶっちゃけ話としては、アース騎士団長がどれだけ頼りになるかということもあるが……)、たいていの相手には対処できるだろうということ。




