討ち入り
アース騎士団長は、広場に武装して整列した騎士たちを前に、
「では、おのおの方……」
と、何やら非常に意味ありげに真剣な表情。「おのおの方」の次が「ご油断めさるな」なら、それは忠臣蔵。もしかして、ドラゴニア騎士団は、本当にドラゴニアン・ハート城に討ち入りするつもりだろうか。
そんなことを考え始めた矢先、アース騎士団長も、わたしたちに気付いたのだろう、
「ああ、ウェルシー伯、丁度いいところで!」
と、大きな声を上げ、手を振った。
でも、わたしはアンジェラと顔を見合わせ、「なんなんだ」みたいな…… いきなり「丁度いい」と言われても、意味が分かるはずがない。
アース騎士団長は、駆け足でわたしたちのところに歩み寄ると、
「ウェルシー伯、実は、今し方、結論が出ました」
「結論…… ですか?」
「そうです。手短に言うと、これから実力行使です」
ということは、要するに「討ち入り」だろう、多分……
アース騎士団長の説明によれば、騎士たちによる話し合いの結果、ドラゴニアン・ハート城の外観が、あのように巨大な〇〇〇をいただいた形に改変され(なお、「〇〇〇」は筆者の自己規制)、騎士団が城内から言わば閉め出されている状況を打開するため、これから、この広場にいる騎士たちが城内に進入し、新ドラゴニア侯(実は正体はスヴォール)に会い、直に談判しようということが決まったという。なお、新ドラゴニア侯側からなんらかの抵抗があれば、騎士団の実力でもってその抵抗を排除することも合意されたとか。ということは……
「つまり、早い話が『討ち入り』です」
と、アース騎士団長。そうであれば、先刻の「おのおの方」の続きに来る言葉は「ご油断めさるな」で結果的に正しいこととなるが、それはそれとして……
わたしは騎士団長を見上げ、
「では、騎士団長、先ほどの『丁度いい』とは、一体、どのような意味でしょう?」
「ああ、それですか…… その意味につきましては……」
アース騎士団長は、一瞬、眉をひそめると同時に顔をしかめ、
「実は、こういうことを申し上げるのもなんですが……、もし、差し支えなければ、ウェルシー伯にも御同道いただければと思うところがあるのですが……、いや、これはもちろん……、単なる私の願望でして……」
と、騎士団長は、恥ずかしそうに肩をすぼめた。
わたしは、愛想笑いとも苦笑ともつかない笑いを浮かべつつ、「了解」の意味で首を縦に振った。アース騎士団長側の事情はよく分からないが、わたしとしては、新ドラゴニア侯であるスヴォールと直接対面できる可能性が転がり込んでくるのだから、その申し出を断る理由はないだろう。




