騎士団長の驚き
アース騎士団長は気持ちの整理がついたのか、おもむろに咳払いをして、
「これまで何かとお世話になりましたウェルシー伯ですから、お話ししないわけにはまいりますまい。ただ、私にも、事情……あるいは全貌が、まだよく把握できていない部分があるので……」
と、前置きを置いて語るところによれば、要するに、アース騎士団長がしばらく前に帝都に訪問する前後で、状況が更に急激に変化したように思われるとのこと。具体的に言うと、新ドラゴニア侯(正体はスヴォール)がドラゴニアに赴任して以来、城の最上階を居室に定め、怪しげな道具を運び込み、夜な夜な「ウキキ」と奇妙な声を挙げ、最上階に続く廊下に悪臭が立ち込めるなど、異常なところは多々あったが、その程度なら、今となっては思い返せばまだ序の口で、数日前にアース騎士団長がドラゴニアン・ハート城に戻ってみると、城の形状まで、あのようなグロテスク、あるいは前衛芸術チックな、なんとも言えない形に変化していたので、騎士団長自身も(当然であろうが)マジで目の玉が飛び出るくらいに驚いたとのこと。
ここまで聞かされたところで、わたしは思わずうなずき、
「やっぱり、そうですよね。アレは……」
「ええ、常軌を逸してますからね。自分の目がおかしいのかと思ったくらいですよ」
と、アース騎士団長もわたしと同じ感性らしい(普通は、そうだろう)。
「え~、アレの話はアレとして…… とにかく、それだけではないのです」
アース騎士団長は、話を続けた。それによれば、騎士団長がドラゴニアを留守にしている間、どういう脈絡からか、町に住む10歳以下の子供たちに登城命令が出され、その結果、町の子供は一人残らずドラゴニアン・ハート城に連行されたという。のみならず、その後、騎士や町の役人たち(使用人も含む)に対して城からの退去命令が出され、そのため、現在は、城の中で何が行われているのか、城内の様子が全く分からなくなっているらしい。
わたしは「う~ん」と腕を組み、
「子供を城に集めて、騎士などは退去ですか???」
「そうです。分からないでしょう。私にも理解不能です。前のドラゴニア侯……かつては『わが君』だったお調子者も、理解しがたい趣味をしていましたが、今のドラゴニア侯は、まるで、別の世界から現れた未知の生命体のようです」
アース騎士団長にとっても、現状はまったく「お手上げ」といった状態のようだ。ただ、前のドラゴニア侯と言えば……
「前のドラゴニア侯……御曹司は、確か、座敷牢に押し込められたそうですが、その後、どうなって?」
「ええ、そうでしたね。厳密に言えば、『座敷牢』ではなく『地下牢』ですが…… それはそれとして、ハテ、あの人は今、どこで何をしているのやら…… 少なくとも、この場にはいませんね」
アース騎士団長は、首をかしげた。演技ではなく、本当に知らないっぽい。わたしにとっても御曹司がどうなろうと知ったことではないし、まあ、いいか……




