久々の神がかり行者
「ウソ偽りの大海深く沈み、腐臭に包まれ日々を過ごす一般大衆諸君! 世はなべて虚飾に満ち、真実の光は背信と悪徳に満ちた黒い雲に覆われている!!」
神がかり行者の特徴的な甲高い声が、公園に響いた。
「無知蒙昧な大衆諸君! 耳ある者は聞くがいい、近くばよって目にも見よ!! 凶悪かつ邪悪な豚の魂は、糞尿の海に湧くウジ虫に囲まれてともに滅びるのだ!!!」
相変わらず意味不明だけど、神がかり行者がこうして声を上げるたびに、唯一神教の教祖様であったクレアが、「そうだ」とか「そのとおり」とか、神がかり行者をアシストしている。しかし、聴衆の……、いや、聴衆などいない、公園を行く人の反応はサッパリで、足を止めようとする人もいなければ、神がかり行者に振り向く人もいない。つまり、完全に無視されているという状況。
ちなみに、プチドラは小さな腕を組み、「なんだかな~」という顔つき。神がかり行者の基地外ぶりはいつものことで、彼にとっては今日もエンジン全開絶好調といったところだろうか。
そして、これも以前に何度かあったパターンで……
「見よ、愚鈍な大衆ども! 豚の中の豚、ウジ虫の中のウジ虫が、ここにいる!!」
神がかり行者は、わたしを指さして叫んだ。
ただし、クレアは、「あ~」とか「う~」とか「え~と」とか……、唯一神教の事件の際に知り合ったわたしに遠慮しているのだろう、どう反応してよいか分からず、少々混乱を来している様子。
わたしはプチドラを抱いて馬車を降り、
「相変わらずね。よくもまあ、無反応な民衆相手に、自己満足のためだけの無意味な演説会が続くものだわ」
「何を! この『豚ウジ虫娘』が、減らず口をたたきおって!!」
相変わらず口の悪い爺さんだけど、「豚ウジ虫娘」って、一体、なんなのだろう。微妙に韻を踏んでるような気も……
「わしは聞いている、見ている、知っている! 豚ウジ虫娘よ、おまえの悪行はいずれ白日の下にさらされ、おまえは糞尿の海に沈むであろう!!」
わたしは、思わず苦笑……する以外ないだろう、ここでは……
口が悪いだけではなく品も悪い、だからこそ神がかり行者とも言えるわけだが、今はクレアが傍らにいることも念頭に置いて喋るべきではないだろうか。彼女は恥ずかしそうに、神がかり行者の後ろに隠れるようにして下を向いている。
わたしは、神がかり行者に対し、(意味があるわけではないが)おもむろにニッコリと微笑みかけ、
「今日は馬鹿馬鹿しいお笑いを堪能させてもらったわ。じゃあ、そういうことで……」
と、プチドラを抱いて神がかり行者にくるりと背を向け、帰ろうとした。ところが……




