問題は絶えないもの
帝国宰相は、どういう意味だか知らないが、チッと舌打ちして、
「まったく、何かにつけて……、問題というものは、絶えないものじゃな……」
「問題ですか? それは、どのような??」
すると、帝国宰相は、わたしをギロリとにらみつけ、
「わが娘よ、おまえは、分かっていて、とぼけているのではあるまいな。問題とは、先般ドラゴニア侯に就任したローレンス・ダン・ランドル・グローリアスのことじゃ」
わたしは、内心、ドキッ! グローリアスの正体は、これまで再三述べてきたように、あのスヴォールなのだ。問題が発生しないはずがないし、現にアース騎士団長から、話は聞いている。
わたしは、とりあえず「あはは」と適当に愛想笑いを浮かべ、
「ああ、あの新ドラゴニア侯のことですね。噂によれば、大地の精霊に地中深く引きずり込まれて、人が変わってしまったとか。その新ドラゴニア侯が、何か?」
「わが娘よ、本当に何も知らんのか?」
帝国宰相は、わたしをジロジロと頭の上から靴の先まで、まるで警察官が容疑者を見るように、なめるように視線を移動させると、
「本当に……、本当に、何も知らんと言うのじゃな」
と、慣用表現で言えば、穴が空くくらいにわたしをじっと見つめた。
多少の沈黙を経た後、わたしは、あくまでも「知らぬ存ぜぬ」を貫き、「知らない」という意味でニッコリと無言でうなずいた。
すると、帝国宰相は、もう一度チッと舌打ちして、
「ならば、仕方がない。グローリアスの件は、しばらくは様子見じゃな」
一体、なんなんだか…… ちなみに、新ドラゴニア侯が(グローリアスからスヴォールに入れ替わって)おかしくなったのはドラゴニアに赴任する前からで、より詳しく言うと、わたしとグローリアスが連れだって晩餐会会場を出た後の事件に起因する。この事実は、多分、帝国宰相が本気になって調べれば、すぐに分かるだろう。あるいは、既に知っているのかもしれない。これは直接的に犯罪を構成するものではないが、そのすぐあとでグローリアスがおかしくなった(つまり、スヴォールに入れ替わった)ことから考えれば、わたしがなんらかの関与をしている可能性は、容易に想像ができるはずだ。ただ、その「なんらかの関与」を示す証拠は、関係者(わたしやツンドラ侯等)が口を閉ざせば発覚しないはずなので、今のところは問題がないはずで……
そうしているうちに、帝国宰相は、不意に「ふぅ」と短く息を吐き出し、
「わが娘よ、それはそれとして……、マーチャント商会と、また、もめておるのか?」
「はい? マーチャント商会とですか?? この期に及んで、もめるような話はないと思いますが……」
少々唐突感があるけど、今度はマーチャント商会とは…… でも、今のところは、彼らと「もめる」までには至っていないはずだ。




