二人の使者
程なくして、コンコンとドアをノックする音が聞こえ、「どうぞ」と入室を促すと、パターソンの先導により、男が二人、部屋に入ってきた。
何故に今日に限って二人なのか知らないけど、うち一人は、身体的には中肉中背、金貨の山と頭蓋骨を図案化したマークがあしらわれた黒っぽい衣服に身を包んでいる。
残る一人は、黒いレザーアーマーの上に黒いマントをまとっていて、歳は30前後だろう、背は高いがやや痩せている。ただ、その鋭い眼光による眼差しは氷のように冷たく、油断できないであろう相手といった印象。でも、この黒いマントの男、どこかで見たような気も……
「ウェルシー伯、本日は、お目通りを許していただき、恐悦至極に存じます」
中肉中背の男が、うやうやしく身をかがめて言った。
「挨拶はいいわ。まずは座りなさい。見下ろされてるみたいだイヤだわ。用件は、大体想像がつくけど、簡潔に分かりやすく説明してもらおうかしら」
「はい、それはもちろん…… では、失礼をば……」
中肉中背の男は、机を隔ててわたしと向かい合う形でソファに腰掛けると、何やら要領を得ないくどくどとした話を始めた。マーチャント商会も人をよこすなら、もう少し気の利いた人にすればよいのに……
そして、十数分間、やや意味不明な話が続いた後、結語として、
「……というわけで、重武装人造人型兵器……、弊社代表取締役は完全自動殺人機械と言っておりますが、それにつきまして、前回ウェルシー伯から言及がありましたところの『良心回路』なるもの改修が、どこまで進んでおられるのかという確認でございます」
中肉中背の男は、持っていたハンカチで額から汗を流れる汗を拭いた。最初にこの結論めいた部分だけ言ってくれれば、話は1分で終わったのに……
わたしは「ふぅ」と小さく息を吐き出し、
「進捗状況につきましては、現在鋭意進行中でありまして……」
と、今度はわたしも、別段張り合っているわけでもないが、読経のような調子でいこう。
そして……
結論的な話としては、この日のマーチャント商会の使者の来訪は、大過なく終わった。中肉中背の男と黒マントの背が高い男は、わたしの自分でも何を言ってるか分からない答えでも満足したのか、1時間程度の滞在の後、会社への帰途に就いた。
連中の意図は不明だけど、今回は、わたしにリマインドを促すといったところだろうか。「良心回路」みたいな、言ったわたしでさえ忘れかかっていたものを持ち出されても、それは現実には存在しないのだから、「御苦労様」という以外ない。とはいえ、いつまでも今みたいな適当な対応で済お茶を濁し続けるわけにいかないだろう。なんとか方法を考えなければ……
「ふぁ~、マスター、おはようですかぁ? 朝になりましたかぁ?」
その時、わたしの膝の上で丸くなって寝ていたプチドラが、目を覚ました。




