元スヴォール、現グローリアス
大口を開けて驚くニューバーグ男爵の一方で、スヴォールは、自由に身動きが取れない中、
「ドラゴニア侯だとぉ!? ウキキ、なんだぁ、金になるのかぁ!!!」
と、コミカルな体勢で床に押しつけられている割には、意外と理性的な話ができそうな雰囲気。
わたしは特に意味なくニッコリと笑みを浮かべ、スヴォールに対し、ドラゴニアの大領主様が現在行方不明であること、実はスヴォールがその大領主様にソックリであること、この際、合法性の問題は度外視するとして、スヴォールが大領主様になりすませば、労せずしてドラゴニアが手に入り、領地の収入・公金を自由にできる立場になることについて、ウソも誇張も交え簡単に説明した。
話の間、スヴォールは不自由な姿勢のまま、「そうか」とか「分かった」とか「ウキキッ」とか何度か相槌を打ち、ひととおりわたしの話が終わると、
「ウキキッ、了解! これで研究も完成だ!! ウキキキキィーーー!!!」
と、本当に分かっているかどうかは定かではないが(ただ、結構前の話だけど、パターソンによれば、スヴォールは「能力的には帝国で十指に入るくらい有能な某錬金術師」という触れ込みだから、「一を聞いて十を知る」くらいのことはあるかもしれない)、獣かモンスターのような雄叫びを上げた。
わたしはホッとひと息ついて、パターソンたち駐在武官(親衛隊)にスヴォールを解放するよう促した後、ニューバーグ男爵に向き直り、
「御覧になっていたと思いますが、以上のように、問題は決着しました。この『元』スヴォールという男は、今後、ローレンス・ダン・ランドル・グローリアスです」
すると、ニューバーグ男爵の顔からは、見る見る血の気が引き、
「なっ、なっ、なっ、なあぁぁーーー!!!」
と、男爵はその場で卒倒した。常識人には多少刺激が強すぎただろうか。
ちなみに、ツンドラ侯は、「はて?」と首を右に傾けたり左に傾けたりして、目の前で起こっている現実がよく理解できていないように見える。この人には、「いずれこの『クソチビではないチビ』とドラゴニアで勝負できますよ」と言っておけば、問題ないだろう。
こういうわけで、新ドラゴニア侯ローレンス・ダン・ランドル・グローリアスを宮殿で殴り殺すというツンドラ侯の不始末は、関係者(ツンドラ侯、ニューバーグ男爵、パーシュ=カーニス評議員、わたし)各員の努力ではなくラッキーな成り行きの結果、事態が大問題にならないうちに闇の中に処理されることとなった。
元スヴォール(これからはグローリアスあるいは新ドラゴニア侯)は、しばらく後に意識が戻ったニューバーグ男爵により、とりあえず宮殿まで護送された。多少……いや、非常に不安はあるが、宮殿では(ドラゴニアに出発するまでは)、パーシュ=カーニス評議員あたりが多分なんとかしてくれるだろう。
なお、本物のグローリアスの死体の処理などのいわゆる汚い仕事は(詳細は省略するが)、パターソンなど駐在武官が率先して行ったことは言うまでもない。




