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魔女の憂鬱

 昔から私は周囲から疎まれていた。 

 幼いころから死とか人間の存在する意味だとか、ある意味答えのないことについて考えるのが好きだった気がする。そのせいか、集団にいるよりかは一人で考え事をしていたほうが、自分の性にも合っていた。もちろん周りからは『変人』と言われていたけど。

 でも、1つの出来事が私の全てを変えた。

 10歳の誕生日だった。両親が殺された。街を襲った盗賊だった。子供がリンチされているのを助けようとして。殴られ、蹴られ、刺され、死んでいった。私の目の前で。

 昔から死について考えるのが多かったけど、それと別の感情が湧き上がっていた。両親が死んでしまった悲しみ、殺した盗賊に対する怒りだった。そして、私は『復讐』に憑りつかれるようになっていった。

 どう殺すかいつも考えていた。ただただ盗賊が憎かった。殺せるようになるまで何度も修業した。1人で何度も何度も。

 そして私は奴らを殺した。12の時だっただろうか。盗賊のリーダー格を森に誘導してロープで手足を拘束した。ナイフ、槍、斧、弓、ありとあらゆるもので奴らを痛めつけた。奴等は皆命乞いをしてきたが、報いるはずなどなかった。

 全員無残な死に方をさせた。頭蓋骨をかち割り、腸を引きずり出して。でもそんなことで私の心は満たされていなかった。そして気づいた。

 殺すことに快感を覚えていた。

 興奮していた。 

 それから、私は奴らを殺した森に籠り実験を始めた。いろんな人間を連れてきた。老若男女誰でも連れ去ってきた。私は彼らに対して自分で調合した薬を投与したり、腹を開いて内臓を引きずり出して研究し毒薬を作ったり。

 時には死んでしまう者や手足が不自由になってしまう者もいた。私は実験で使えなくなった人間を自分の興味本位でさらに殺していった。そのうち、街では大騒ぎになって私に近づいてくるような人は誰もいなくなった。挙句『魔女』だとか『死神』みたいな物騒なあだ名さえつけられたらしい(魔女というのはあながち間違いじゃないけど)。

 結局人体実験はしなくなったが、とある疑問が脳裏をよぎった。

 人間ってどんな味がするんだろう。

 人間だって生き物だ。牛や豚のように食べられるんじゃないのか。明らかに異端者の考えであることはわかっていた。でも知りたくて知りたくて仕方がなかった。好奇心が(くすぶ)られていた。

 これで最後だと思って私は再び街へと降りた。夕暮れ時、お使いを頼まれたと思わしき男の子をさらった。森に連れ帰って彼の泣き叫ぶ声が響いていたが、かまわず殺した。

 私は興奮していた。心臓の高鳴りを感じていた。少年の透き通った青白い肌。大きく裂けた傷口から流れる紅い血。

 私は興奮を抑えきれず、死体から流れている血を舐めた。味わったことのない味だった。少年の体温で暖められた血は、甘く、柔らかい鉄の味がした。私は飢えた獣のようにそれを飲み続けた。

飲み終えた後、私は体に変化が出ていることに気づいた。だるさと頭痛、吐き気が押し寄せて来た。私はそのうち、倒れて眠ってしまった。

 目が覚めたのは夜中だった。普段と違って意識ははっきりしていた。むしろ自分なのかと疑うくらい体が軽く感じた。違和感はそれだけではなかった。一番喉の渇きがひどかった。

 何かがおかしい。そう思い、私は近くにあった井戸の水面(みなも)に顔を映した。私は驚いた。

 深い緑色だった眼は鮮やかな紅色に変わり、完全な八重歯になっていた。吸血鬼になっていた。人の生き血を吸う化け物に。 

 私は、明らかに高揚していた。人間ではなくなった。怪異になれた。その実験の成功が私にとってたまらなく嬉しいものだった。私は手に入れたんだ。不老不死の体と人間の比にならないほどの身体能力を。

 私の人生は一変した。

 毎晩、街に降りて色んな家に忍び込んで人間を手あたり次第襲い、血を吸った。再び飲むために殺さなかった人間もいたが、大抵は一回で吸い殺した。

 そのうち吸血鬼が毎晩街を襲っているという噂が流れ、警邏に捕まった。殺された人間の恨みといういわれで沢山の拷問を受けたが、吸血鬼に生まれ変わった私には全く効かなかった。勿論そのことは誰も知らなかった。

 幾分か時間が経ち私は脱獄をした。その最中で看守に発見されたが、体に無理をさせ一気に2つの山を越えて逃げた。

 しかしそんなに現実は甘くはなかった。吸血鬼ハンターに捕まり、私は処刑された。その時のことはあまり覚えていない。また生に対して執着があったわけでもなかったし、死に対する恐怖もなかった。

 神様は残酷である。

 私は完全には死にきれず、内臓だの血だのをを抜かれて実験に使われることになった。だからこうして今も亡霊として生きながらえている。


 亡霊になってからロクなことはなかったけど、彼の体の中にいれることはこの上なく嬉しかった。彼の骨も、内臓も、血もすべて私と触れていられるのだから。

 いつか彼は、この現実を知ることになるだろう。でも彼は絶対に死なせない。誰にも奪わせない。だって私の愛する人だから。


 


 

ご覧いただきありがとうございます。今回はただ伏線を張るだけの回です(笑)登場人物の中では一番好きなキャラなんですよ。でも、なんか書いてて微妙な気持ちになって来て(笑)まあそんな回です。またペース通り更新できるように頑張るので、よろしくお願いします。

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