コーヒー
目の前にあるのはコーヒー。何の変哲もないコーヒーだ。ミルクと砂糖が一緒に運ばれてきたから、どうやらこの星はそれなりに文明が発達しているらしい。以前ミルクも砂糖もなく、ただただ苦くて不味いコーヒーを出されたことを思い出す。自分は苦虫を噛み潰したような顔をしたが、目の前にいる人間はただ面白いものを見るように笑っていた。
「うん、いい匂いだ。このレベルのコーヒーは久しぶりだね」
「最近訪れた星の中だとかなりマシな味」
「素直に美味しいっていえばいいのに。君は素直じゃないなぁ」
「生まれつきだ」
話しながらコーヒーを啜れば特有の苦味と酸味が口の中に広がり、コーヒーを飲んでる実感が湧く。久しぶりの味に思わず口元が緩みそうになるが、目の前の人間を前にしてそれはしたくない。口元に力を入れて無表情を装う。それすらもきっと見透かされているのだろうけど。
「お客さん達、ここら辺では見ない格好だね。『星跨ぎ』かい?」
コーヒーを飲んでる2人に話しかけて来たのはこの喫茶店の店主だ。年季の入ったエプロンを付けて彼女の顔は、喫茶店と同じくらい味のある顔をしていた。
「はい。そうです。この星は初めて来ましたが、美味しいコーヒーを飲めてとても嬉しいです」
「そりゃ良かったよ。コーヒーはこの店の売りだからね。それが不味かったら商売できなくなっちまう」
「商売はまだ続きそうだな」
ぶっきらぼうの顔のままコーヒーを飲む青年に店主はカラッとしたあかるい笑顔のまま彼らに話しかける。彼等以外客もいないし、暇なのだろう。そうでなくても『星跨ぎ』は多くな
い。物珍しさもあるのだろう。
「にしてもあんた達良い時期に来たね。最近ようやっと落ち着いてきたのさ」
「おや何かあったんですか?」
「デモって言って通じるかい?お国に対して文句のあるやつらがいるんだが、行動が危なくなってねぇ…怪我人とかも出始めてたのさ」
「それはそれは…大変でしたね」
コーヒーを飲みながら魔法使いは店主の話を聞く。青年の方も聞き耳は立てているようで、静かだった。
「この国は民主主義でね、国の代表は皆で決めるんだ。デモが起こる前に代表が変わってね、この人が今までの人よりずーっと若くて、色んなことをやり始めてるんさ。あんた達『星跨ぎ』を受け入れたのもその人の案さ」
「なるほど…だから皆さんの反応が初々しかったんですね。久しぶりの感覚でしたよ」
魔法使いの言葉に青年は眉を顰める。この星に来て最初に感じたのは好奇心の中に混じる異物に対しての視線。好奇心の中に混じるそれは気持ちが悪く、青年の機嫌を急降下させていた。
店主は青年の表情に気づいた様子はなく話し続ける。
「そうだろうね。私も実は初めて『星跨ぎ』を見たもんだからさ。うちの店に来てくれて嬉しいよ。でも私みたいなのは少ないだろうね。うちは丁度都市部と田舎の中間地点で喫茶店をやってる。だから色んな人間の話を聞くんだけど…やっぱり昔は閉鎖的な国だったからね、急に『星跨ぎ』を入れるなんて案を通したから、それに対して受け入れられない人達が多くてねぇ…」
「さっき言ってたデモの話ですね」
「あぁ、そうさ。おっかなかったもんさ。みんな目をギラギラさせてね、この店はそんなんお断りだったけど、店によっては集会みたいなことをしてたみたいで」
「入れなかったのは懸命でしたね」
「そりゃそうさ!常連の人達にも褒められたけど、みんなの憩いの場だからね!私が守んないと!」
話している間に熱が入ったのだろう。店主の声は熱く、その言葉には自信が満ちていた。実際、店主が言ったことは事実なのだろう。2人は先程まで歩いてきた道を思い出す。そこには壊れた看板などが落ちており、地面には落ち切れていない血痕などがあった。
「では我々は本当に良い時に来たんですね」
「最近国がそいつらをふん縛ってね、ようやく落ち着いたもんさ。強引な気もするが…怪我人も出始めてたからね……仕方なかったんだろうよ」
店主の声は先程と変わり弱々しい。その様子を間近で見てたのだろう彼女の声は諦めに似た声色だった。
「ま!私としては常連が来て店が繁盛すればいいさ!」
「常連ばっかじゃ繁盛しないと思うけどな」
「はっはっは!言うねぇ!今後はあんたらみたいな『星跨ぎ』も来るだろうしね。そいつらを歓迎するさ」
にんまりと笑って店主は言う。2つのカップは既に空いていた。




