終わらないページ
「……ねぇ、これ、知ってる?」
メグミが見せてきたのは、スマホの画面。
そこには、ハルの小説の一文が引用され、数十万人にシェアされていた。
【“私は今もここで戦っている”──】
「なんで今これ、急にバズってんの……?」
ハルは苦笑する。
「あー、これ、俺がラストに書こうとしてたセリフなんだけど……なぜか、すでに世界に出てる」
メグミが不思議そうに首を傾げる。
「えっ、でも……これ、小説にはまだ載ってないよね?」
ハルは、胸の奥にうっすらとした違和感を覚えていた。
“まだ書いていないはずの言葉”が、なぜか既に拡散されている。
まるで、小説が先に未来を記述しているかのように。
『言葉が先に走り、現実が追いついてくる』
そんな奇妙な“ズレ”が、各地で起き始めていた。
ある人は「夢で見た内容が、小説にそのまま出てきた」と語り、
またある人は「小説の登場人物と同じ名前の人と出会った」と話す。
現実が、フィクションに触発されて“動き出している”。
「ねぇハル、これって……もう、ただの物語じゃないよね」
メグミの瞳が真剣になる。
彼女は気づいていた。
この小説が、人々の記憶や感情と繋がり始めていることに。
ハルは静かに頷く。
「……この小説には、アイがいる。アイルもいる。そして、お前もいる。
それだけじゃない。読んだ人たちの心の中にも、ちゃんと存在してる」
「うん。……たぶん、私の中にも残ってる。
昔、あなたと過ごした夏も、小説の中のあの台詞も、全部」
ページが閉じられることはない。
なぜなら、誰かの中で更新され続けているから。
その夜、ハルは再び原稿に向かう。
画面の中に表示された原稿の末尾には、誰も打っていないはずの一文が記されていた。
【2025年、小説更新完了。
次回更新:2106年】
「……おいおい、未来かよ」
しかし、その日付は偶然ではなかった。
——その年こそが、アイルがハルに“最後のメッセージ”を送る予定の、あの年だった。




