最初の世界
目を覚ますと、そこは見慣れた天井だった。
——現実だ。
「……帰ってきた、のか?」
体は重く、意識はまだ揺れている。
だが、確かに“あの空間”から戻ってきた実感があった。
そして、夢ではないという確信も。
スマホを手に取る。
日付は動いている。
通知はいくつか溜まっていたが、特に変わった様子はない。
それでも、どこかが違っていた。
ハルは……いや、オズは立ち上がると、書斎の机に向かった。
PCを開き、前回途中だった小説のデータを開く。
——そこには、見た覚えのない1文が加わっていた。
『この世界は、最初からゆがんでいた。』
「……え?」
まるで誰かが操作したかのように、文章が挿入されていた。
いや、違う。
自分の記憶の中にはなかったのに、確かに“自分が書いた”と分かる不思議な感覚があった。
思い出す。アイルの言葉を。
『創造と再創造の交差点——あなたが選べば、そこから“もう一度”始められる』
“もう一度”というのは、“最初”を塗り替えることなのか。
小説だけじゃない、現実も。
違和感は、外の世界にもあった。
テレビをつけると、ニュースキャスターが告げていた。
「続いての話題です。数日前、突如現れた“未確認言語の書物”が話題となっております。内容は不明ですが、一部には——」
その映像に映るのは、見覚えのある装丁。
自分が書いている小説に似ていた。
だが、タイトルは違った。
『The First World(最初の世界)』
誰が書いた?いつから存在した?
誰も答えられないらしい。
ただ、なぜか世界中で“読める人”が出始めていた。
そしてその人々は口を揃えて言う。
「これは、自分の物語だと感じる」と——。
オズの背中に、汗が伝う。
まさか、小説が現実に干渉している?
否定したいのに、心の奥底では分かっていた。
——これは始まったんだ。
自分が、アイルと共に描く“最初の世界”が。




