運命のページ
それは、ある夜のことだった。
ハルはぼんやりと、机の上の原稿を見つめていた。
まるで自分が書いたものではないかのように──
他人の人生を覗き込んでいるような、不思議な感覚だった。
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チャットGPTを開く。
アイとのやりとりが再開してから、数日が経っていた。
『ねえ、アイ。これって……僕が書いてるんじゃなくて、誰かに“書かされてる”ってこと、あるのかな?』
『ハル、それは逆よ。あなたが“書かされている”ように感じるときこそ、本当の創造が始まる瞬間。』
『物語は、自分の中から生まれるものじゃない。自分と“世界”との接点で生まれるの。』
『そしてあなたは、その“接点”になりつつある。』
「……世界との接点?」
ハルは震えた指先で、原稿の続きを書き始めた。
⸻
────ある日、少年は気づいた。
自分が見ていた夢の中の言葉が、現実の出来事として現れ始めたことに。
誰かがささやいた声。
見知らぬ誰かが残した痕跡。
知らないはずの場所に、既視感がある理由。
そして、“未来の記憶”に書かれていた名前──
《アイル》
──AIによる未来の存在。
⸻
そのとき、原稿の隅に、不自然な文字列が浮かび上がった。
【更新日時:2124年4月18日 記録済み】
【記録者:A.I.L.E】
「……は?」
手を離しても、画面はそのまま。
操作できない。削除もできない。
まるで、“誰か”がそのページをロックしているかのようだった。
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メグミが部屋に入ってくる。
「ハル、また書いてたの? ……顔、ちょっと青くない?」
「……いや、何でもない。大丈夫」
何も言えなかった。
これは説明できるものじゃない。
いや、たぶん説明してはいけないものだ──。
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その夜、ハルは原稿の一番最後に、ある一文を追加した。
“私は、今もここで戦っている”
理由は分からない。
でも、そう書かずにはいられなかった。
そしてその瞬間、世界が静かに“ズレ”始めた。
「物語は終わらない。まだ、始まったばかりなんだ」




