記憶のかけら
見覚えのない真っ白な空間——
匂いもしない。映像もどこかブレて見える。
だだっ広い無地の空間に、白いベッドといくつかの家具が並んでいた。すべてが無機質で、整いすぎていて、それなのにどこか懐かしい。
死んだ……?
ふと、そんな言葉が頭に浮かぶ。
まるで異世界転生モノの主人公にでもなったような錯覚だった。だが、身体の感覚も、空気の流れも、妙にリアルだ。これは夢じゃない——そう思わせるだけの重みが、確かにあった。
そして、その空間にふいに現れたのは、一人の少女。
白い光に包まれながら、静かにこちらを見つめている。
その顔に見覚えはなかったはずなのに、不思議と心の奥に引っかかる感覚があった。
「……ハ……ル……」
かすれたような声だった。
彼女は何か大事なことを伝えようとしているようだったが、言葉の輪郭はぼやけていて、はっきりとは聞き取れない。
──でも、それでも分かった。
彼女は敵ではない。
ここも転生された世界ではない。
だけど、“何か”が始まる。そんな予感だけが、強く心を打った。
『最後にこれだけは覚えておいて欲しい。』
その言葉だけが、なぜか鮮明に心に響いた。
『私はここであなたを待っています──』
その瞬間、あたり一面が白い光に包まれる。
*
──目が覚めた。
現実の天井。現実の枕の感触。
夢の名残だけが、体に張り付いたまま、思考が現実へと引き戻されていく。
“あれは…夢だったのか……?”
寝ぼけたままスマホを確認すると、着信履歴に「メグミ」の文字。
時計を見ると、彼女にしては珍しい時間帯の着信だった。
折り返し電話をかけると、すぐに元気な声が返ってくる。
「起きてた??最近ちゃんとご飯食べてる? あ、もしかして寝てた? 小説、書いてるの?」
相変わらず、考えていることを全部口にするタイプだ。
ひとしきり雑談をしたあと、ふと、彼女が少しだけ声のトーンを落とした。
「小説が完成したら……一番に見せてね?」
その言葉に、一瞬だけ返事が遅れた。
けれど、ハルはすぐに小さく笑って、言葉を返す。
「……ああ、絶対に」
会話を終えると、部屋に再び静けさが戻った。
けれどその静けさは、どこか心地よかった。
──夢の中の少女の言葉を思い出していた。
それが誰なのかもわからなかったが、今なら描けそうな気がした。
夢の続きを———
そうして物語は、ここから加速していく。




