番外編 プリンの日常
「ぷるぷるぷる……ぽんっ!」
お日様の温かい光が、ログハウスの窓から差し込んできた。
スライムの姿でベッドの上で丸まっていたプリンは、元気に起き上がると、音を立ててお気に入りの「青い髪の少女の姿」へと変化した。
「お日様~♪ おはようさんなのぉ~♪」
プリンは、シスターが作ってくれた青いワンピースの裾をパタパタと揺らしながら、裸足のまま元気よく部屋を飛び出した。
平日の陽だまりの村は、大好きな「あるじ(おじさん)」が地球でお仕事をしているから、少しだけ静かだ。だけど、プリンにはあるじから任された「お留守番のお仕事」がたくさんある。
広場へ出ると、今朝の自警団の仕事を終えた子フェンリルたち、フェルイチとフェルニが、ちょうど戻ってきたところだった。
「フェルイチ、フェルニ、おはよーなのぉ~♪」
「わん! プリンちゃん、おはよう!」
プリンの声に、二匹が嬉しそうに大きな尻尾を振って駆け寄ってくる。
プリンは「分裂」のスキルを使い、ぽよん、ぽよん、と自分を三体に増やした。
「みんな、おにごっこするのぉ~♪ 逃げるのぉ~!」
「「わんわん!」」
三人のプリンは、子フェンリルたちの大きな身体に飛びついたり、背中に乗ったり、追いかけっこをしたりして、広場をキャッキャと走り回った。プリンの素早さは183。子フェンリルの俊敏さにだって負けないくらい素早く動けるのだ。
少しだけみんなとじゃれ合って遊んだ後、プリンは分裂体を元に戻し、一匹の子フェンリル――フェルミの隣に並び立った。
「よし、今度は森の見回りに行くのぉ~! フェルミ、いこー♪」
「わん!」
プリンはフェルミの背中にひらりと飛び乗ると、そのまま風のように陽だまりの村の外へと飛び出した。
フェンリルの森の見回りは、プリンの大事な日課だ。
かつては魔物たちに怯えていたプリンだったが、今では村の頼れる「自警団長(自称)」の一員である。
「あっちに悪い魔物いないかな~?」
プリンはフェルミの背の上でキョロキョロと周りを見渡す。
時折、森の草むらから『オーク』や『アイスウルフ』が顔を覗かせるが、彼らはフェルミのフェンリルとしての圧倒的な気配と、その背に乗るプリンの計り知れない魔力を感じ取ると、クゥンと情けない声を上げて、慌てて森の奥へと逃げ出していった。
「ふふん、プリンたちがいるから、悪い魔物はみんな逃げていくのぉ~♪」
プリンは誇らしげに胸を張った。
森の隅々まで異常がないことを確認すると、プリンとフェルミは満足して村へと引き返していった。
**
村に戻ると、プリンはそのまま『陽だまりの孤児院』へと向かった。広場では、子供たちが元気いっぱいに走り回って遊んでいる。
「あ、プリンちゃんだ!」「プリンちゃん、遊ぼう!」
子供たちがプリンの姿を見つけると、一斉に笑顔で駆け寄ってきた。
「みんな、お外でいっぱい遊んでるのぉ~? けがしてる子はいない~?」
プリンが優しく問いかけると、一人の男の子が、少し恥ずかしそうに擦りむいた膝を見せてきた。
「あのね、さっき転んじゃったの。ちょっと痛いんだ……」
「よし、プリンの出番なのぉ~! 回復魔法、きらきら~☆」
プリンが小さな手を男の子の膝にかざすと、温かい光が傷口を包み込んだ。
一瞬のうちに擦り傷は綺麗に消え去り、元の健康な肌へと戻る。
「わぁ! 全然痛くない! プリンちゃん、ありがとう!」
「どういたしましてなのぉ~♪ みんな、怪我したらすぐにプリンのところに来るのぉ~!」
「はーい!」
シスターやリリィが忙しく家事をこなす中、子供たちの怪我を癒して回るプリンは、村の「小さなお医者さん」として、みんなから本当に大切にされていた。
**
一通り村のお仕事が終わると、プリンは「やること」がなくなってしまった。
あるじがいない平日は、時間が少しだけゆっくり進む。
「ヴァイス~! お仕事おわったのぉ~! お相手してなのぉ~♪」
プリンは、広場の高台の木陰で寝そべっていたヴァイスの元へとトコトコと歩み寄り、その白い長髪の獣人(お姉様)の姿をした彼女の袖をくいくいと引っ張った。
「ん? プリンか。お主、またやることがなくなって我に絡みに来たな?」
ヴァイスは呆れたように薄い笑みを浮かべ、ゆっくりと立ち上がった。
「良いじゃろう。主がいない間の特訓じゃ。手加減はせぬぞ、プリン?」
「のぅのぅ~♪ プリンも、いっぱいつよくなったから負けないのぉ~!」
二人は、村の外れの開けた訓練場へと移動し、互いに人型の姿のまま向かい合った。
ヴァイスがスッと身軽な構えを取る。対するプリンも、重心を落として身構えた。
「行くぞ!」
ヴァイスの身体が風のようにブレた。
凄まじい速度で踏み込み、鋭い手刀がプリンの首元を襲う。
だが、プリンは持ち前の素早さを活かし、身体をスライムの柔軟さでグニャリと反らせて、その一撃を紙一重で回避した。
「そこなのぉ~!」
避けた勢いのまま、プリンは触手を伸ばしてヴァイスの足を払おうとする。
「甘いわ!」
ヴァイスは軽く跳躍してそれを避けると、空中で身を翻し、プリンの脳天めがけて鋭い踵落としを放った。
プリンは避けるのが間に合わないと悟るや否や、瞬時に全身を「硬化」させ、両腕をクロスしてそれを受け止めた。
ギィィン! と、人間同士の戦いとは思えない金属音が訓練場に響き渡る。
プリンの「物理無効」の特性と「硬化」により、ヴァイスの強力な打撃は完全に相殺された。
「やるようになったのぅ、プリン。ならば、これはどうじゃ?」
「こい! なのぉ~♪」
二人は、夕陽が森を赤く染めるまで、何度も、何度も拳を交え、剣を使わない素手での格闘訓練(模擬戦)を繰り広げた。
自分たちはもっと強くならなければいけない。
大好きなあるじを、怪我がないように完璧に守れるようになるために。二人の戦いには、そんな共通の強い想いと絆が秘められていた。
**
そして夜が更けて、金曜日の深夜。
プリンとハムは、ベッドに入り眠りにつく。
だが、実際はぐっすり寝ているわけではない。暖炉の前で静かに耳を澄ませているヴァイスからは、プリンもハムもとっくに「寝静まっている」ように見えていただろうが、プリンはお気に入りの青いワンピースを着たまま、その神経(意識)を部屋の奥の『転移ドア』へと集中させていた。
ハムも同じように、プリンの枕元でちょこんと座り、小さな鼻をひくつかせている。
(あるじ、まだかなぁ……。はやく会いたいなぁ……)
コト、と。
静かな夜の静寂の中に、ドアノブが回る懐かしい音が響いた。
カチャ。
扉が開き、そこから、地球のスーパーの袋を両手に抱えた、少し疲れ気味の、だけど優しい笑顔を浮かべたあるじが姿を現した。
「ただいま、遅くなってごめんな……」
「あるじぃぃぃぃぃ!!! おかえりなのぉぉぉぉ~♪♪」
プリンは、扉が開いた瞬間にベッドからロケットのように飛び出し、あるじの胸元へと勢いよくダイブした。このロケットダイブには今回は他にも理由があった。
「うおっ! プリン、ただいま! 相変わらず元気だな」
あるじは驚きながらも、プリンをしっかりと受け止め、その大きな、温かい手でプリンの頭を何度も優しく撫でてくれた。
肩の上には、ハムがいつの間にか移動して「きゅっきゅ!」と嬉しそうに鳴いている。
「ほら、お土産。今回はプリンには約束の『フルーツたっぷりタルト』、ちゃんと買ってきたからな。みんなで食べよう」
「わ~い! タルトなのぉ~♪ あるじ、だーい好きなのぉ~!」
そう。タルトだ。プリンはあるじの首にしがみつき、嬉しそうに頬をすり寄せた。
あるじが帰ってきたログハウスは、一瞬にして、世界で一番温かい、光に満ちた場所へと変わる。
ヴァイスも、起きてきたウェスリーや子供たちも、みんなが集まって、賑やかな深夜の時間が始まる。
おじさんと、プリンの平和な日常であった。
以上。番外編でした。あれからどうしてるか? ってのを少し書いてみたかったんです。
ついでにところどころ端折った箇所を少し詳しく書いておきました。




