第三話 自覚
「どうやら、記憶喪失みたいですね」
また一人増えて戻ってきた、と思えばそいつが俺の身体をベタベタ触ったり、手を当てたりして観察してきた。うーんと頭を捻ったあと、出した結論は記憶喪失。だけど可笑しい、俺は何もかも覚えている。それとも俺はなにか大事なことを忘れてしまっているのだろうか。
「頭を強く打った様子はなかったので、川に落ちたショックかもしれませんね。一応健康状態も確認したのですが、そちらは大丈夫なようです。身体は万全ですよ」
「そうですか……とうとう明日だって言うのに、ついてない……」
「僧侶様、息子の記憶は戻らないんですか!? 」
僧侶様と呼ばれた男はただ首を振るだけ。それに対してまた涙を浮かべる面々。なんなんだろう、この状況は。というか明日ってなんだ……?
「あのぅ……俺、記憶ありますけど……」
おずおずと手をあげてそう告げて見る。現状はよく分からないけど、取り敢えず主張はした方がいいと思った。全員が此方を向くが、女の子がバン、とベッドに手をつくと身を乗り出して俺の方を睨みながら顔を近づけてきた。
「えっ!?ちょ、近……」
「名前」
「え?」
若い女の子に顔を近づけられる経験なんてそうそう無い。下心でちょっと照れていると名前、と呟かれる。正直気迫に押されてる。怖い。
「貴方の名前は?」
「……鬮川扇」
表情は様々だが全員が顔を見合わせる。そして、雰囲気がどん底に落ちていくのがわかってしまう。更に怖い。
「出身は?」
「日本の、岐阜県」
僧侶様の顔が曇っていく。女の子の顔も若干曇っている。ついでに言えば、後ろにいる四人の中年の男女はもうお通夜みたいな事になってしまっている。
「年齢は?」
「二十七」
ガタン、と音がした。また誰かが倒れたらしい。女の子はみを乗り出すのをやめ、椅子に座り直すと僧侶様の方を向いた。
「どう思います? 」
「記憶喪失、更に言えば記憶の混濁が起こっていますね」
「ですよね」
それからは俺を除いてなにやら話し合いをしているらしい。気になるから聞き耳をたてたけども、よく分からない。気になる単語は明日、魔王、旅立ち。そんな用語だった。ますますRPGみたいだな……
最終的な結論が出たのか、一度会話を切り上げたのか知らないが、僧侶様は帰って行った。そして五人が戻ってくれば、俺の前に並んで話し始めた。
「私の名前はセシル。貴方の幼馴染よ。こっちの人たちはね、順番に私のお母さんグレタ、お父さんのライマ、貴方のお母さんホノ、お父さんのクレル」
「はぁ……」
女の子の名前はセシル、そして女の子と俺の両親。記憶の中の俺の両親とは違う。というか、幼馴染もいなかったはずなんだが。
「貴方の名前はグレイ。一週間前、私と魔物退治に行った時に致命傷を負って川に転落、一命を取り留めたものの瀕死で、やっと今日目覚めたの」
そろそろ分かってきた気がする。俺はかなり馬鹿な方だけど、この展開、アニメやライトノベルで見たことがある。
「そして明日。貴方と私は魔王退治のためにこの村を旅立つ事になっているのよ」
これは……所謂異世界転生だ!




