第四十九話 赤魔龍公爵との戦い③
「ハアああぁぁぁーーっ!?」
俺は赤魔龍公爵の答えた内容に、驚愕する。
……今、コイツは何を言いやがったんだ?
魔王は元異世界の勇者で、しかも『動物園』の能力者だと? 全然意味が分からないぞ。しかも目の前のコイツは、その動物園の能力を持つ勇者と一緒に、当時の魔王を倒しただって?
おいおい、ちょっと待て。
こっちはまだ、情報の整理が全然追いついてないぞ。
だって今の魔王は100年くらい前から、この世界で暴れ回り始めたんだろ? それが元異世界の勇者として当時の魔王と戦った事がある……っていうと。
それは一体、何百年前くらい前の話になるんだ?
「ふふ……。そんなに深刻な顔をして、悩まなくても大丈夫だよ。この馬鹿馬鹿しい世界の仕組みなんて、キミが理解をする前に、僕が今すぐキミを殺してあげるんだからさ!」
赤魔龍公爵が再び黒い杖を真っ直ぐに構える。
そして凄まじいスピードで俺に向かって迫ってきた。
……チッ、しまったな。
時間稼ぎするつもりが、俺の方が奴の発言に動揺をして油断してしまっていた。
俺には奴の攻撃を回避する時間も対策も、まだ何も用意出来ちゃいない。
おかげで俺は、赤魔龍公爵の黒い杖の攻撃をまともに食らってしまう事になった。
”バシューーーーッ!!!”
赤魔龍公爵が勢いよく振り下ろした黒い杖が、俺のコンビニ店長専用服が放つ、緑色の光によって再び弾かれた。
先程よりも遥かに強烈な衝撃が走り。俺を本気で殺そうと黒い杖に力を込めてきた赤魔龍公爵の体が――30メートルほど後方に、大きく弾き飛ばされていく。
またしても俺は、店長服の防御シールドに守られて。何とか命拾いをする事が出来た。
「今のはマジで危なかったぞ……。これで2回目か。このコンビニ店長専用服のシールドはあと何回有効なんだ? 物理攻撃なら無限に防御してくれるとか、そういうチート仕様だったらマジで助かるんだが……」
店長服の性能はまだ未確定だ。でも、そんな不確定要素のある防御能力に頼りっきりになる訳にもいかないだろう。
俺は距離の離れた赤魔龍公爵に、こちらからも反撃を加える事にする。
「――よーし、これでも食らいやがれッ!!」
スマートウォッチを操作して、4機のドローンを頭上に呼び寄せる。
そしてドローン部隊から、小型ミサイルを赤魔龍公爵に向けて発射させた。
ドローンから白い細い糸を引くように発射されたミサイルが、一斉に赤魔龍公爵に向かって飛んでいく。
”ズドドーーーーーン!!!”
小型ミサイルは全弾、赤魔龍公爵の体に着弾した。
地対空ミサイルほどではないが、その威力は生身の人間なら粉々にしてしまうだけの威力がある。
ミサイルが着弾した衝撃で発生した、黒い土煙がだんだんと消えていき。その中から姿を現したのは――、
「やっほーー、僕だよー! 残念だったねーー!!」
またしても表情を変えない黒い手品師が、こちらに向けてニッコリと微笑みながら手を振っていやがる。
「くそッ……! 敵の防御シールドがどれだけの強度があるのかが分からないとキツいな……。アレを壊さないと、こっちの攻撃をまともに当てる事も出来ないぞ!」
赤魔龍公爵が余裕の笑みを浮かべながら。こちらに向けて、ゆっくりと歩いてくる。
「……もう諦めて、僕に殺されちゃいなよ? その方がきっと楽になれるよ。仮にこのまま生きていたって、キミの今後の人生は決して幸せにはならない。断言するよ。本当に馬鹿みたいに狂った連中に追い回されて、ずっと命を狙われ続けるだけさ。きっとあの時、僕に殺されて楽に死ねていた方が良かったって後で思えるからさ」
「ほう……異世界の勇者は魔王を倒しても、この世界で『何者か』に追われ続ける運命って事なのか? それがお前達が闇堕ちをして、この世界で魔王になってしまった直接の原因って訳なのか?」
俺の問いかけに対して。赤魔龍公爵は頭の上に疑問符の記号を浮かべて、首を傾げる。
「闇堕ちだって? 別に魔王様は争いなんて望んでいないんだけどね。ただ、この世界で静かに生きていたいだけなのさ。それなのに、それを邪魔して魔王様を殺そうとつけ狙う連中に、執拗に追い回されているから困っているんだよ。だからボクはそんな連中を先に見つけ出して倒しているのさ。大好きな魔王様の命を守る為にもね!」
「魔王の命を狙う連中だって――? そんな変な集団がこの世界には存在しているというのか……?」
俺の言葉を聞いた赤魔龍公爵が突然、目を点にして。
その場でキョトンとした表情を浮かべた。
そして何も知らない子供に言い聞かせるように。優しく諭すようにして俺に告げてきた。
「キミは何を言っているんだい? それはまさに『キミ』の事じゃないか。キミは魔王様を殺す為に、この世界に召喚された勇者なのだろう? 他の雑魚みたいな勇者と違って……今はキミが、この世界で最も魔王様を殺害する可能性が高い危険人物なんじゃないか。だから僕は、キミを始末する為にここにやって来たんだよ」
「………??」
言われた俺もつい、キョトン顔を浮かべてしまう。
――ん? ああ、そうか。
そう言えばそうだったな。
俺達はこの世界の魔王を倒す為に、異世界から召喚されて来たんだっけ。
いや、正直やる気は最初から全然なかったけどさ。そうしないと元の世界に帰れないというから、みんな頑張っていただけだ。邪な目的のある倉持達は別だけどな。
そういえば、俺達にそのお願いをしてきた人物は、たしかグランデイル王国の女王様だったような……。
「僕がキミ達と戦うのは、大切な魔王様を守る為なんだよ。魔王様は心優しい女の子なんだ。あまり動揺をさせたくないから、僕達4魔龍公爵が今は各自で判断をして。それぞれが勝手に動いていたりもするんだけどね」
「……なら、何でこの世界の人々に危害を加えたり、国を滅ぼしたりしているんだ。自分達の身を守るだけって割には、あまりにも過剰防衛過ぎるんじゃないのか? 魔王が作り出した魔物によって、この世界に住む沢山の人々が犠牲になっているんじゃないのか?」
俺は抗議をするように、赤魔龍公爵に対して訴える。
「うーん。別に何か目的があって作っている訳じゃないさ。魔王様はもう自分で自分の力を制御出来ないんだ。だから勝手に危険な『動物』達がこの世界に生み出されてしまうのを、もう誰も止める事は出来ないのさ」
「……はっ? 『動物』達だって……!?」
「そうだよ。動物園から溢れ出した動物達が外に出て。少しくらい悪さをしたとしても、僕らにはもう関係の無い事さ。……まあ、本来は飼育員でもある、僕達4魔龍公爵の責任でもあるんだけどね。でも、魔王様以外の他の人間がどうなろうと、今の僕らには関係がないし、興味もないからね」
「……………」
俺は一瞬、言葉に詰まってしまう。
正直、コイツやそのご主人様である魔王にも色々な事情があるのは分かった。
しかも、元異世界の勇者だって言うのなら。俺達の先輩になる訳だしな。正直、聞きたい事だって山ほどある。
だけど――。
「俺はお前や、その主人の動物園の魔王とは分かり合えそうにないな。自分達が生き残る為に、他の人間達の事など知らんといった態度は俺には出来ない。自分の所から出現した魔物なら、それをちゃんと管理するのはお前達の仕事のはずだ。それを放棄すると言うのなら、お前達は被害者ぶっていても、結局は、この世界にとっての加害者である事に変わりない。要するにお前らは人間の心を捨てて、やっぱり残虐な『魔王』となる道を選んだって事だろ!」
「ふーん、この世界に住む人間達の馬鹿さ加減も知らずに。よくもまあ、そこまでズケズケと言うものだね。――まあ、いっか。何も知らないというのはある意味、幸せな事さ。何も分からないまま、キミは今から安らかに死ぬ事が出来るのだから」
赤魔龍公爵が、再び俺に向けて突進を開始した。
俺はその場から一歩も動かない。
どうせ動いても、無駄だしな。
俺がどこに避けようが、赤魔龍公爵の素早い動きから逃げられるはずが無い。今はコンビニの店長専用服の防御機能が、何とか持ち堪えてくれるのを祈るしかない。
赤魔龍公爵が、俺の頭上に振り下ろした黒い杖が……。
コンビニ店長専用服が放つ、緑色の光のシールドによって再び阻止される。
”ズガガガガガガガーーーーッ!!!”
赤魔龍公爵の今度の攻撃は本気だ。
緑色のシールドに弾き飛ばされる事なく、激しい力と力の衝突がずっと俺の目の前で続いている。
そして――。
”パリーーーーーン!!!”
俺の目の前で緑色の光が、音を立てて弾けたのが分かった。
赤魔龍公爵は、反動で後ろに大きく吹き飛ばされる。
コンビニ店長専用服の防御シールドが、その耐久力の限界を超えたのだろう。音を立てて、何かが壊れたのが俺にもハッキリと分かった。どうやらここまでみたいだな。大体3回が、服の防衛機能の限度といった所だろうか。
「よーし、いっけえええぇぇぇーーーッ! 俺のドローン達ーーーッ!!」
俺はすかさず、空中に待機していたドローン全機を赤魔龍公爵に向かわせる。
高速スピードで飛行するドローン部隊は、赤魔龍公爵の体に目掛けて突進していった。
「ふん。こんなオモチャで、この僕が倒せるとでも思ったのかい?」
赤魔龍公爵に向けて特攻した全てのドローンが、黒い杖によって薙ぎ払われ、次々と破壊されていく。
だが、煙幕散布機能を搭載したドローン達は、破壊される直前に大量の白い煙を放出させていた。
俺と赤魔龍公爵との間に、巨大な白煙が立ち込め。周囲の視界は完全に遮断される。
「……目くらましなんかで、どうにかなるとでも思ったのかい? キミにはもう、僕と戦う手段は、何も残されていないのだろう!」
余裕に満ち溢れた赤魔龍公爵の声が、煙の中から聞こえてくる。
まあな、元々俺は戦闘手段を何も持たない『コンビニの勇者』だからな。でも、だからこそ……。必死にアイデアを捻って、敵を倒す手段を色々と作り出してきたんだぜ!
「俺に本当に攻撃の手段が何もないかどうか、試してみるといいぜッ――!!」
俺は大声で赤魔龍公爵に向けて、そう叫ぶ。
「―――――!?」
ドローンが残した煙幕の中で。赤魔龍公爵は……俺の声が『頭上』から聞こえてきた事に驚いたようだ。
それはそうだろう、俺は今――。
赤魔龍公爵の遥か頭上。
高さ3メートルくらいの空中から、奴を見下ろしているんだからな!
「出でよぉぉ、コンビニーーーッ!! そして俺の必殺技、『無限もぐら叩き』を食らいやがれーーーッ!!」
空中に浮かんでいる俺は、赤魔龍公爵の真上に。超重量級の『コンビニ』を出現させて。
それを空中から、一気に叩き落としてやる。
「―――何ッ!?」
突然、空から出現した巨大な建物に。
赤魔龍公爵が、初めて焦りの色を含んだ声を漏らした。
「クッ……! 『紅魔結界陣』……!!」
赤魔龍公爵が慌てて展開した赤い防御シールドと、頭上から降ってきたコンビニ戦車が激突する。
”ズガガガガガガガ―――ッッ!!!”
超重量級の重みを持つコンビニ戦車の重圧を、赤い半透明のシールドはかろうじて防いではいるが……。
重過ぎるコンクリート建築物のコンビニを、流石にシールドの力だけでは、弾き飛ばす事が出来ない。
赤魔龍公爵はまるで重量上げ選手のように。地面の上で必死に、コンビニの重みに耐えている状態となった。
俺はコンビニを空中に出現させた後で、そのまま地面に落下して受け身を取る。
「いててて………!」
レベルアップで多少、身体能力が上がっているとはいっても。今の俺じゃ、3メートルの上空から落ちるだけでもかなりしんどい。ギリギリ受け身を取って。怪我をする事だけはかろうじて免れた感じだな。
「くぅぅ………、き、貴様………ッ!!」
白い煙の晴れた地面の上で。俺は初めて、余裕の全く無い表情を浮かべ……上からのしかかってくるコンビニ戦車の重みに、必死に耐えている赤魔龍公爵の様子を見つめる。
コンビニの重みは以前、壁外区でカディス相手に落とした頃よりも、遥かに増しているからな。なにせ重量級のキャタピラーと合金製の壁が追加されたんだ。
まさに巨大戦車が真上から降ってきたといってもいいだろう。
「ははっ、どうだよ! コンビニの勇者にはこういう変わった戦い方も出来るんだぜ? 予想も出来なかったか? マジでざまぁみろだぜッ!!」
俺は自分の作戦が上手くいったことに、安堵する。
さっき、赤魔龍公爵と俺が長々と話していた時に。俺のスマートウォッチには、ティーナから1通のメールが届いていた。
コンビニのスマートウォッチには遠隔操作だけでなく。コンビニのパソコンと、メールのやり取りが出来る機能も付いている。
ティーナからのメールは、コンビニ戦車がアッサム要塞周辺の魔物の制圧に成功したという事を知らせる内容だった。
俺はそのメールの内容を視線だけで確認し。こちらからコンビニ戦車の中にいるティーナに、『すぐにコンビニの外に出るように』――という内容の定型文を、スマートウォッチから送信しておいた。
いくつかの定型文は、あらかじめコンビニのパソコンとすぐにやり取りが出来るように。事前に作成しておいたものだ。
外にいる俺がコンビニを消して。新しい場所に出し直す時に。コンビニの中に人が残っている状態なのはマズイからな。
だから今――コンビニの中にティーナと玉木がいない事を俺は知っている。
後は、アッサム要塞に残してきたコンビニを消して。
改めて赤魔龍公爵の頭上からコンビニを出し直して、落とすだけでいい。
もちろん俺には、特殊な身体能力なんて何もない。
当然、赤魔龍公爵の頭上……3メートルもの上空に、大ジャンプなんて出来っこない。
でも、俺のそばにはコンビニガードがまだ一体残されていた。
煙幕で周囲の視界を悪くした後に。俺は目の前にコンビニガードを立たせて、そいつに向けて思いっきりジャンプをする。
機械兵であるコンビニガードは、普通の人よりも遥かに力がある。向かってくる俺の体をバレーボールでトスをするように、勢いよく上空へと浮かび上げてくれた。
おかげで俺は赤魔龍公爵の真上に飛んで。超重量のコンビニを、奴の頭上からダイレクトに落とす事に成功したという訳だ。
「クゥゥッ! お、おのれぇぇぇぇ!! こうなったら……!!」
赤魔龍公爵が、頭上のコンビニの重みをシールドで受け止めながら。足をかがめて、その場から逃げ出す準備を始める。
当然の判断だな。
そのまま、ずっとそこで。コンビニの重みを支え続けているという訳にはいかないだろう。
赤魔龍公爵は、いったん展開していた赤い半透明の防御シールドを解除する。
そしてコンビニ戦車が落ちてくるギリギリのタイミングで、得意の高速移動で横に飛び避けた。
”ズシーーーーーーン!!!”
かろうじてコンビニの落下を避ける事の出来た赤魔龍公爵が、安堵の表情を浮かべている。
……だが、悪いな!
お前が俺のコンビニの落下を避ける所まで、こっちは最初から計算づくなんだよ!
「後は頼んだぜッ!! アイリーン!!」
「――了解致しました、店長!!」
シールドを解除して、コンビニの落下を避けた直後の赤魔龍公爵に――。
コンビニが誇る、最強の青い姫騎士が猛スピードで襲いかかる。
今の赤魔龍公爵はシールドを解除していて、完全に無防備な状態だ。
アイリーンは既に光の輪の拘束を解いている。
そして、俺が指示するのをずっと待ち構えていた。
アイリーンの持つ黄金の剣が、金色の美しい放物線を描き――。
無防備になった赤魔龍公爵の体を、一気に斬り裂く。
「グオオオォォァァァーーーッ!!!」
赤魔龍公爵に先程までのように、笑顔を振りまく余裕は全く無い。
苦痛に顔を大きく歪ませ。赤魔龍公爵の叫ぶ断末魔の悲鳴が、周囲に大きく響き渡った。




