第四百六十六話 女神からの試練⑨【終】
「杉田、玉木! 2人とも来てくれて本当にありがとう。マジで助かったよ!」
俺はコンビニに駆けつけてくれた2人の手を順番に握って、熱い握手を交わしていく。
でも、その時――なぜか玉木だけは、俺に手を握られた瞬間に顔を真っ赤にして。俺から顔を逸らすようにして、恥ずかしがり始めたのが気になった。
……ん? 玉木のこの反応は、何なんだ?
そうか! このコンビニの中にいる俺やみんなの設定は、俺達が異世界に召喚される前の日本の時間軸の設定になっているのか。
つまりここにいる玉木は、クラスの中でまだ俺と少しだけ距離感のあった玉木なんだ。
異世界に飛ばされて、見知らぬ街のグランデイル王都でひっそりとコンビニを出して暮らしていた時。俺のいるコンビニに毎日通って来てくれて、少しずつ中学時代の親しかった玉木との距離感を俺は縮めていった。
けれど今の玉木は、その状態に至る前のまだ真面目な副委員長バージョンの玉木という訳なんだな。
「……か、彼方くん〜。あのあの……杉田くんに無理やり連れて来られてここにやって来たけど。私に用って……何なのかな?」
「そうだぞ、彼方! 俺に未来の嫁がどうとか、ロリメイドがいるとかメール送ってきたけど。それはどういう意味だったんだよ、早く教えてくれよ!」
俺は興奮して、牛のようにフガーっと鼻息を荒くしている杉田の事はガン無視して。
目の前にいる玉木の手を再度『ガシーーッ!』と、全力で握りしめて、頭を下げながら懇願する事にした。
「玉木、お前に頼みがあるんだ! マジで、真剣に聞いて欲しい! 今から15分以内に俺はクラスのみんなを、このコンビニの中に集めないといけないんだ。だからみんなに連絡を取って欲しい。副委員長であるお前なら、全員の連絡先を知っているよな? 頼むよ、玉木! 上手くいったら昔、クリスマスの時に俺がお前にあげた『猫のキーホルダー』と、同じくらいに可愛い特製の猫ちゃんグッズをまたプレゼントするからさ!」
「ええええぇぇぇぇ〜〜!? か、彼方くん、クリスマス時に私にプレゼントをくれた時の事を憶えていてくれたの〜? 彼方くん、昔からすっごい忘れっぽい人だから。もう、あの時の事は憶えてないのかと思ってたよ〜!」
「バーカ、俺がお前との大切な想い出を忘れたりする訳が無いだろう! 高校に入ってメガネを外して、急に美人キャラに変身しちまったお前に声をかけずらくなって。少しだけ距離を置くような態度を取っていた俺が悪かった。これからはいつも通りの俺のスタイルでお前と接していくから、安心してくれよな!」
俺に両手を握られて。至近距離から真っ直ぐに目を見つめられた玉木は……。
突然、富士山が数百年ぶりに大噴火して。降り注ぐ溶岩で日本列島が沈没してしまうくらいの勢いで顔を真っ赤にさせながら、興奮してその場で飛び上がる。
「了解よ〜〜!! 彼方くん〜〜!! 私に全部任せて〜〜! すぐにクラスのみんなに連絡を取ってみるから。大至急、学校前のコンビニに集まるようにってお願いをしてみるね〜〜!」
玉木が超高速スピードで、スマホの画面を指先で連打して。大量の連絡LINEを、クラスのみんなに向けて一斉送信する。
流石はクラスのみんなに信頼されている、副委員長の玉木だな。
みんなの連絡先をほとんど知らない、ぼっち気味の俺なんかと違って。クラスの男子も女子も、ほぼ全員の連絡先を知っているのがマジで頼りになり過ぎる。玉木、本当にお前は最高だぜ!
「彼方く〜〜ん! 全員にすぐに学校前のコンビニに集まってって、連絡しといたよ〜〜! 集まらないと、テレビから怖い女性が飛び出てくる呪いのビデオ動画を送るから〜って、付け足しておいたから。きっとみんなすぐにここに来てくれるはずだよ!」
……って、それは怖っ! そんな恐ろしい内容のメールが送り付けられてきたら、和製ホラーが大の苦手な俺なら絶対に数分以内にコンビニに駆けつける自信があるぞ。
でも、俺の願いを叶える為にわざわざそんな事までして。みんなと連絡を取ってくれた玉木には、本当に感謝しかない。いつもありがとうな、玉木。
グランデイルの王都で、コンビニに引き篭もってばかりいたぼっちの俺の所に毎日遊びに来てくれて、本当に俺は凄く嬉しかったよ。
俺がそんな感慨深い気持ちで、玉木の顔をじっと見つめていると。
突然、コンビニの自動ドアを叩き割る勢いで、外から闘牛のように猛突進をして店内に入り込んできた女生徒が現れた。
「来たわよーーっ!! 紗希ちゃん!! どうしたの、いつもの紗希ちゃんらしくない内容の文面だったけど。何か緊急の用件でもあったの!?」
玉木がクラスの全員を招集するLINEを送って、まだほんの数十秒だというのに……。
コンビニの自動ドアをこじ開けて、ここに真っ先に駆けつけてきてくれたのは、玉木の大の親友でもある紗和乃だった。
「紗和ちゃん、来てくれてありがとう〜! 本当に助かったよ〜!」
「うん。だって紗希ちゃんの頼みだもの。絶対に来るに決まってるでしょう? ……って、そこにいるのは、彼方くんじゃない!? 何でそんなおかしな格好のコスプレをしてるのよ? 桂木くんや、川崎くん達もいるみたいだけど。今からここでイベントでも始めるつもりなの?」
俺の姿を見た途端に、謎の警戒態勢を取り始める紗和乃。
この様子だと、どうやら俺は当時の紗和乃からは玉木に害を及ぼす可能性がある、要注意人物として見なされていたフシがあるな。
俺はそんな紗和乃の警戒するような目線を無視して、このコンビニにクラスメイトを18人集めないといけない事を真剣に訴える。
「俺の着ている服装については、説明は後だ。それよりも今は大至急、このコンビニの中にクラスのみんなを集めないといけないんだよ! 頼む、紗和乃。お前にも協力して欲しい!」
「紗和ちゃん〜! お願いだよ〜! いつもはヌボ〜ってしてるあの彼方くんが、こんなにも真剣にお願いしてるんだから、きっと本当に緊急事態なんだと思うの! 私からもお願いするから、紗和ちゃんも彼方くんの力になってあげて欲しいの〜!」
俺だけの頼みならともかく。親友であり、紗和乃が溺愛している玉木からもお願いをされてしまった紗和乃は……。
まだ現在の状況がよく掴めていなかったようだが、渋々といった表情で、俺への協力を申し出てくれた。
「分かったわよ。もう、本当にしょうがないわね! 紗希ちゃんの頼みだから、協力をしてあげるんだからね。そこの所を誤解しないでよね!」
「紗和乃、マジでありがとう! ツンデレキャラのテンプレみたいな返事だったけど、お前が手伝ってくれるのは本当に助かるよ!」
「バカ言ってないの! それで私は具体的にどう手伝えば良いの?」
「ああ。あと約15分以内に、このコンビニの中にクラスメイトのみんなを18名以上集めてきて欲しいんだ!」
「じゅ……18名!? それも15分以内で? もう、何でそんな無茶苦茶な縛り付きの任務を遂行しようとしているのよ。無計画過ぎて呆れてくるわ。でも、分かった! ここに来る途中のゲームセンターで、秋山さんの姿を見かけたら。急いでここに彼女を連れてくるわね。多分10分以内には戻れると思うから!」
宣言するやいなや、紗和乃は風のような速さでコンビニの外に飛び出していく。
まさに有言実行の鏡みたいな奴だな。やっぱりマジで頼りになる、コンビニ共和国が誇る最強の軍師様だと改めて思った。
そんな紗和乃の格好良い後ろ姿を見守っていた、俺の背中に。おずおずとした小さな声が聞こえてくる。
「あのぅ〜、彼方くん。呼ばれたから、来てみたんだけど。私は何をすればいいのかなぁ……」
「うおおぉぉ!? さくらじゃないかよ! いや、来てくれてマジでありがとう!!」
いつの間にかに俺の後ろには、いつも引っ込み思案な琴美さくらがやって来ていた。
きっと玉木のメールを見て、ここに来てくれたのだろう。さくらは大人しいけど、クラスメイト思いの心の優しい子でもあるからな。
「なんやなんや〜! 副委員長に呼ばれたから来てみたけど。みんな狭いコンビニの中なんかに集合して、一体これから何が始まるんや?」
さくらの後ろから、和風のおかっぱ髪が可愛い四条京子も元気な声を出しながら来てくれた。
続々とコンビニに集まってくる、クラスメイト達。
このコンビニが学校から近いから、という事もあるだろうけど。みんなそれぞれ部活帰りだというのに、わざわざここに寄ってきてくれるなんて、マジで感謝しかない。本当にありがとうな、みんな!
さくら、四条の登場に続いて。極めつけは、俺達2年3組の中の真打ち。カフェ好き3人娘達が、ピンポーンと入店音を鳴らして。ガヤガヤと賑やかにコンビニの中にやって来てくれた。
「えっ、凄〜い! 何か、クラスのみんなが勢揃いしてるじゃ〜ん! 近くのカフェでコーヒー飲んで時間を潰してて良かったね〜。お祭りに参加し損ねたら、もったいなかったし〜」
「本当だねー。副委員長がメールで全員招集してくるのも珍しいしー。主催者が彼方くんってのも激レアイベントな気がしたから、コンビニに寄ってみて良かったねー」
「クラスのみんなで集まるなんて、文化祭の企画会議の時以来ね。今日は彼方くんが珍しくホスト役をしてくれるみたいだから、私達も楽しみして来てみたわよ!」
いつも賑やかな3人娘達が、店内に入ってきてくれた事で。ますます狭いコンビニの店内が、俺達2年3組の生徒の集団で埋まっていく。
だが……そんな様子を、コンビニのロン毛店員は全く注意する様子も無く。完全に放置して見過ごしていた。
まぁ、きっとこのコンビニがある日本の世界そのものが『第3の試練』によって作られた仮想世界だから。その辺はうまく、女神によって調整されているのだろう。
もう、かなりの数のクラスメイト達がコンビニの中に集まってくれたと思うけれど……。現在のクラスの人数カウントはどうなっているのだろうか?
俺は慌てて、入り口の横にあるATMの画面を確認してみた。
すると――そこには『12』の数字が、赤い文字で大きく表示されているのが見えた。
「紗和乃が、近くのゲームセンターにいる秋山を呼びに行っているから。今、コンビニの中に集合しているクラスメイトの数は実質14人か。残り時間はあとたったの10分……。それまでに、あと4人かここに来てくれれば試練は突破出来る」
まだ、完全に余裕がある訳じゃない。でも、何とかいけるかもしれない。
あとたったの4人でいいんだ。玉木の招集メールを確認してくれて。内容が気になってフラッとコンビニに立ち寄ってくれるクラスメイトが、あと4人ここに来てくれるだけでいい。
そんな願いを、心から祈っていた俺の元に……。
コンビニの自動ドアをこじ開けるくらいの迫力で、特急電車がコンビニの店内に入り込んでくる勢いで駆けつけてきた人物がいた。
「――彼方ぁぁッ!! 君という奴は……この僕をどこまで愚弄すれば気が済むというんだ! あの時の将棋大会は僕が負けたんじゃない! 君が裏で反則行為をして、天才で負け知らずだった僕を恥ずかしめる為に罠を弄したんだ。だから、あの負けは絶対に認められないからなッ!」
ハァハァと呼吸を乱しながら、勢いよくコンビニに駆け込んで来たのは……俺の幼馴染でもある不遇なイケメンキャラ、倉持悠都だった。
そして倉持の後ろには俺の期待通り、メガネをかけて倉持の様子をひっそりと見守る名取美雪の姿も見えた。
よし――これで、更に2名が追加だぞ!
俺は再びATMの画面を見つめてみると、そこには何と『15』の数字が表記されていた。
「3人追加されてる……!? という事は、倉持、名取のコンビ以外にも誰かが、ここにやって来てくれたというのか?」
不審に思って、俺は店内をぐるりと見回してみると。
――見つけた! 耳にイヤホンをつけて、ポータブルゲーム機を操作しなからFPSゲームをプレイしている雪咲詩織が、いつの間にかにコンビニの隅の方にいて。
誰も私に話しかけんなオーラを振り撒きながら、自分のプレイしているゲームの世界に入りこんでいた。
「雪咲も来てくれたのか……! これで、コンビニにいるクラスメイトの数は、紗和乃が秋山を連れ帰って来てくれれば、実質17人になる。あとたったの1人だ。あと1人来てくれれば、試練をクリア出来るんだ!」
「彼方ー! 何か盛り上がっている所、悪いんだけどさー。そろそろみんなが集まったら何が起きるのかを説明してくれよー。あと、ちゃんとRチキも全員に奢れよなー」
「ああ、全員分のRチキは俺が奢ってやるから任せてくれ! だからみんなもう少しだけ待っていて欲しい。全員集まったら、ちゃんと理由を説明するからさ」
俺は、ワイワイとコンビニの中に集まっているみんなをなだめつつ。残りあと一人が来てくれる事を心待ちにしていると……。
とうとう最後のメンバーとなる救世主が、コンビニの中に駆けつけてきてくれた。
「彼方くん、玉木さんも、遅れてごめんね! メールを見て、図書館に借りてた本を返してからここに来たから、少しだけ遅れちゃったの!」
最後の1人を飾るクラスメイトは、異世界では『回復術師』の能力を持っている香苗美花だった。
こっちが無理やり呼び出したというのに、わざわざ遅刻を謝ってくるなんて。やっぱり香苗は、真面目で正直な性格の女の子なんだなと思えた。
そして、香苗が来てくれたのと同タイミングで――。
「――彼方くん、お待たせ! 秋山さんを連れて来たわよ!」
息を乱した紗和乃が、おそらくゲームセンターでクレーンゲームをして遊んでいたらしい、秋山早苗をコンビニに連れて来てくれた。
連れて来られた秋山は、さくらと同じように最初はおどおどしていたけど。コンビニの中にいるのが、みんな見知ったクラスメイトである事に気付いて安心したらしい。
「サンキュー、紗和乃! 本当に、マジで助かったよ!」
これでとうとう、18人がコンビニに揃ったぞ!
30分以内に、異世界でのクラスメイトの現在の生存人数――18人と同人数を、このコンビニの中に揃える事が出来たんだ。
俺は残りの時間を確認する為に、再びATMの画面を確認してみると……。
「えっ……? これは、一体どういう事なんだよ!?」
ATMの画面には『17』の数字が表示されていた。最終達成目標である18人から、一人だけ人数が足りなくなっている。
「どうしてなんだ!? 何で人数がいきなり一人減ってしまっているんだよ?」
俺は慌てて、コンビニの中に集まっているクラスのみんなの数を数え直してみる。すると、やはり1人だけ足りていない事が分かった。
一体誰がここから居なくなってしまったのか? それを調べようとした俺に、近くにいた桂木が小さな声で話しかけたきた。
「彼方、さっき川崎の奴が……遅れている佐伯を迎えに行くって言って。コンビニから外に出て、一人で駅の方に向かって行っちまったぜ……」
「そんな!? 川崎が、佐伯を迎えに一人で駅に行ってしまったというのかよ……!」
……何て事なんだ! もう残り時間が無いというのに、このタイミングでコンビニから一人、クラスメイトの数が減ってしまうなんて……。
俺は慌ててコンビニの中にいるクラスのみんなに、店の外に出ないで欲しいと強くお願いをする。そしてすぐに、ATMの画面表示を確認してみると。
ATMの残りカウントダウン表示は、既に5分を切っていた。
あと数分以内に、他のクラスメイトがもう一人。このコンビニに来てくれれば、俺は試練を突破する事が出来る。
でも、誰も来てくれなかったなら。永遠にこの試練会場に閉じ込められる事になってしまう。
そんな焦りを感じていた俺の脳裏に、ふと……ある人物の顔が浮かび上がってくる。俺がピンチに陥った時に、必ずどこからともなく俺の側にやって来てくれる、俺専用の女神様の顔だ。
「――そうだ! このコンビニの近くにはバス停がある。そこには、朝霧がいるはずじゃないか!」
試練が始まる前に俺は朝霧から、毎日コンビニに通っていた俺の姿をバス停で見つめていたという告白を聞かされていた。
つまり、このコンビニに入っていく俺の姿を朝霧は近くのバス停から見ていた事になる。
このコンビニからバス停までは、全力で走れば片道1分で戻ってこれる距離だ。もし……朝霧がそこにいてくれたなら。そして連れ帰ってくる事が出来れば、ギリギリ5分以内に目標の18人を達成出来るかもしれない。
俺はすぐに、自分の考えを行動に移す事にした。
佐伯を迎えに行った川崎が時間内に戻ってくるとは限らない。かといって、あと数分以内にクラスの他のメンバーがコンビニに来てくれる確実な保証がある訳でもない。
「それならこの俺が、確実にゴールを決めるしかないよな! 玉木、みんながコンビニから外に出ないように見張っていてくれ。俺は近くのバス停に座っている朝霧を迎えに行ってくる!」
玉木に声をかけた俺は、全速力でコンビニから外に飛び出し。日本の整備された歩道を駆け抜けていく。
コンビニの外には、大勢の人が歩いていたし。懐かしい日本の日常の景色に、思わず心が奪われそうになる。
でも、今は感傷に浸っている時間は無かった。バス停に朝霧がいる事に、俺は最後のチャンスを賭けるしかないんだ。
「……ハァ……ハァ……」
100メートルを、5秒で駆け抜けたんじゃないかと思えるくらいのスピードで通りを走り抜けた俺は……。バス停に座っている朝霧の姿を見つける事が出来た。
――いたぞ! 本当に朝霧がいてくれたぞ。
俺はバス停の待合の椅子の座っている朝霧冷夏に、急いで声をかける。
「やっぱりここにいたんだな、朝霧。クラスのみんなが今、近くのコンビニの中に全員集まっているんだ。お前も、俺と一緒に来てくれないか?」
「……彼方……くん? どうしたの、そんなに慌てて?」
「えっ……?」
朝霧は驚いたような表情を浮かべて、不思議そうに俺の顔を見つめてくる。
俺は、そんな朝霧冷夏の顔を見て。全身が震え上がるほどの焦燥感と違和感を感じてしまった。
この朝霧は……一体、誰なんだ?
違う……、俺の知っている『朝霧冷夏』じゃないぞ。
もちろん、今回の第3の試練に登場している朝霧は、俺が異世界で何度も話してきた朝霧と全く同じじゃない事は分かる。
コンビニに集まってくれた玉木や杉田が、異世界での出来事を知らないように。第3の試練の為に擬似的に作られたこの日本の世界は、俺達が異世界に召喚される前の時間軸を再現したものだろうからな。
だから今……目の前にいて、バス停に座っている朝霧は異世界に召喚される前の約1年半前の朝霧だ。
だから、俺の知っているあのミステリアスな雰囲気の朝霧冷夏とは少し異なっているに決まっている。
……でも、そうじゃないんだ。俺が今、目の前の朝霧に感じている違和感は……。
まるで別人。俺が異世界でよく話して、見知っていた朝霧冷夏の放つ雰囲気とまるで異なっている。そう、顔だけ同じで全くの別人と話しているような違和感を、俺の心は目の前の朝霧に強く感じてしまっているんだ。
これは……どういう事なんだ……?
俺は、いや……俺が今まで、ずっと話していたあの朝霧冷夏は一体、誰だったっていうんだよ……。
”――ピチャリ――”
額から流れ落ちてきた冷や汗が目に入り、俺は慌てて正気を取り戻す。
今はそんな違和感を感じて、悩んでいるような時間は無い。みんなの待っているコンビニに、朝霧を連れて戻らないといけないんだった。
「朝霧、一緒に来て貰うぞ! 近くのコンビニでみんながお前の事を待ってるんだ!」
「えっ……? 彼方くん、いきなりどうしたのよ?」
俺は無理やりバス停にいた、別人のような雰囲気を持つ朝霧冷夏の手を掴み。
そのまま手を引っ張りながら、強引にコンビニに向けて突き進んでいく。
後ろから『待って、彼方くん!』と、状況が分からず混乱している朝霧の声が聞こえてきたけれど。今の俺には詳しく説明をしている時間は無かった。
あと数分以内に、あのコンビニの中に『18名』のクラスメイトを集めないといけないのだから。
「ハァ……ハァ……あと、少しだぞ……!」
コンビニが見えてきた。残された時間はあとどれくらいだ? もしかしたら後……ほんの数十秒くらいしかないのかもしれない。
コンビニの中で、こっちに手を振ってくれている玉木や杉田の姿が見えてきた。
俺は朝霧の手を強く引っ張って、そしてとうとうコンビニの自動ドアを開けて、店内に駆け込もうとする。
だが、俺の体がギリギリ店内に入った瞬間に――。
突然、俺の視界は真っ暗になり。この第3の試練が開始された時と同様に。俺の意識は深淵の闇の世界に閉ざされてしまった。
その時に、俺は直感的に感じてしまう。
俺は試練に『失敗』したのだ――と。
コンビニに入る最後の瞬間、俺の体がギリギリ店内に入った時……。手を引っ張っていた朝霧冷夏の体は、まだコンビニの中には入れていなかった。
つまり時間内に、朝霧をコンビニの中に入れる事は出来なかったんだ。
コンビニの中に集められたクラスメイトの数は、俺を含めて合計で17人。
異世界で現在、生存している18名のクラスメイトの人数分を、試練会場に集められなかった。
だからきっと、この永遠の暗闇に閉ざされた世界に俺は閉じ込められてしまったのかもしれない……と。俺はそう思った。
しばらくすると、俺の目の前にあのコンビニに入り口の横に置いてあったATMが突然姿を現す。
そしてそのATMの画面には、赤い文字でこう記されていた。
『――おめでとうございます。あなたは現在、異世界で生存しているクラスメイトの人数、『17名』をコンビニの中に集める事に成功しました。第3の試練は無事にクリア出来ました』
「……え? 一体、何を言ってるんだよ?」
俺が試練を突破しただって? そんなバカな……?
だってコンビニの中に17人しか集められなかったんだぞ? もし、その人数が正解だというのなら。やっぱり俺の知らない所で、倉持か名取のどちらかが、異世界で死亡していたという事なのか?
頭の中に浮かんでいた疑問を真剣に考えていた俺は、ある一つの『事実』に気付いてしまう。
さっき俺が受けていた女神からの第3の試練、その中でコンビニに集まってくれたクラスメイト達は……実際に異世界で生存していたメンバー達と『同じ』だったんじゃないかと。
学校近くのコンビニに集まってくれたのは、玉木、杉田。そして紗和乃に、カフェ好き3人娘の小笠原、野々原、みゆき。
更には、桂木、藤堂、北川の男子3人組と、さくらと秋山の2人。そしてゲーマーの雪咲と、四条と香苗。
最後に……倉持と名取の2人組だった。
3軍の勇者のみんなを始めとして、そのメンバーは全員、コンビニ共和国に所属している俺の仲間達ばかりだ。
死んでしまった川崎は、最後の瞬間の前に――なぜかコンビニから離れて外に出てしまったし。
あのコンビニにたまたま集まってくれたはずのメンバーは全員、異世界で実際に生存しているクラスメイト達が、そのまま反映されているかのように仕組まれていたような気がする。
……と、いう事は――だ。
試練の最後に、俺が全力で手を引っ張って連れてこようとした朝霧冷夏は、時間内にコンビニの中に入れる事が出来かった。
そられが意味している事を考えると、もしかしたら朝霧は既に、異世界の中においては……。
「――おめでとうございます! コンビニの勇者の秋ノ瀬彼方さん。私が用意した3つの試練を無事に全部クリアしてきてくれたみたいですね」
女性の声に呼びかけられて、俺の意識は急に現実の世界へと呼び戻された。
周囲を見渡してみると、そこは暗闇の支配する世界ではなく。前に見た事のある、グランデイル王城の中にある謁見の間が広がっていた。
そしてふと、顔を上げてみると。
俺の視線の先には……水色の髪が美しい若い少女が王座に座っているのが見えた。
俺その少女の顔には、よく見覚えがあった。
そう……彼女こそは、この世界の女神であり。
俺達を異世界に召喚する仕組みを作り上げた張本人でもある、女神教が崇めるこの世界の唯一神と称される女性――女神、アスティアだった。




