第四百五十七話 占拠されたグランデイル王都
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ソラディスの森の中で不思議な夢を見て目覚めた俺は、迎えに来てくれた玉木に連れられて。いったんみんなの待つ、グランデイル王都へと戻る事にした。
コンビニチームのみんなは今、グランデイル王都に全員集まっているらしい。
女神アスティアと巨大コンビニ要塞との攻防は、おおよそ半日ほど続いが……結局、最後まで勝敗はつかず。巨大コンビニはカディナへの侵攻を止めて、北の方向に撤退していったとの事だ。
その時の女神アスティアによる、空からの雷撃の猛攻はあまりにも凄まじく。みんなはドローンから森の中に落ちてしまった俺を探しにいけるような状況では、とてもなかったらしい。
巨大コンビニが北に撤退し、ようやく激しい雷撃が収まるのを見計らって。
『索敵探索』の能力を持つ玉木だけが、みんなを代表して俺を探しに来てくれたという訳だった。
どうやら俺が森の中に落ちてから、既に約1日分の時間が経過していたみたいだな。
「――玉木、カディナの街から救援に来てくれた杉田や雪咲達も、今はグランデイル王都に集まっているのか?」
「うん〜。そうだよ、彼方くん〜! みんな今はグランデイルの王都に集合しているの。あの街にクラスのみんなが一緒に集まるは、本当に久しぶりだよね。私達がこの世界に、始めて召喚された時以来じゃないかな〜?」
馬の上で少し体調の悪そうな顔をしていた俺を元気付けようと、玉木がとびっきりの笑顔で返事をしてくれた。
そうだな……確かにこの世界に召喚されて。俺にとっても、みんなにとっても、グランデイルの王都が『始まり街』であった事は間違いない。
コンビニのトイレが快適だからと、クラスのみんながトイレ目当てで俺のコンビニに駆け込んできた光景が今となっては、本当に懐かしく感じられてしまうくらいだ。
あれからもう……1年半以上が経過した訳だけど。
本当に、俺達には色々な事があったと思う。
この世界に同時に召喚されたクラスのみんなも、現在では半数以上が死亡していて。残っているのは、コンビニ共和国に所属している勇者達だけとなっている。
そう思うと、だいぶ前になるけれど……。
動物園の魔王軍の4魔龍公爵、赤魔龍公爵を倒した直後に、グランデイルの王都に慌てて戻り。
街に滞在していた3軍の勇者達を全員、コンビニ戦車に乗せて。連れ去るようにして王都から離れたのは――今となっては正解だったのかもしれないな。
あの時は、俺のわがままな行動に3軍のみんなを巻き込んでしまったんじゃないだろうか……。
俺のせいで、みんなを危険な運命に巻き込んでしまったんじゃないだろうかと、強く後悔した事もあった。
でも……結局、俺と行動を共にしてくれた3軍の勇者達からは、誰一人として犠牲者は出ていない。
時間差で、あの時にたまたま合流を果たせなかったクラスの2軍のメンバー達全員は、クルセイスによって殺害されてしまった。
離れ離れになっていた1軍メンバーの水無月に、倉持陣営に残った霧島や、金森。
そして他の2軍メンバーの、佐伯や川崎も現在は死亡してしまっている。
救い出す事の出来なかったクラスの仲間達も、大勢いたけれど……。
あの時の、本当にわずかな判断の差で。ギリギリで救い出す事の出来たメンバー達もいた事だけは、今となっては俺のやってきた事が間違いでは無かったんだと信じられる、唯一の救いなんじゃないかと思えた。
そんな事を考えながら、グランデイル王都の近くの丘の上にまで辿り着くと。
目の前に広がっていたあまりにも異様な光景に驚き、俺は思わず叫び声を上げてしまった。
「――ええっ? これは、一体どういう状況になっているんだよ!?」
グランデイル王都の上空には、沢山の飛竜騎士達が飛び交い。見慣れない怪しげな紫色の鎧を着た騎士達が、街の中に溢れかえっていた。
そして、そんな王都の中にひしめく謎の騎士団と対峙するかのように。
銀色の鎧を着たグランデイル軍の騎士達が、王都の周辺を囲むようにして陣幕を張り。王都を占領している謎の軍団と、睨み合いをしているようだった。
「おっ、彼方! 遅いぞ、やっと来たのかよ! 主役のくせにお前はいつも到着の遅い奴だな!」
「――店長、ご無事で何よりです! ドローンから地上に落ちてしまった店長をすぐにお救いする事が出来ず、本当に申し訳ございませんでした!」
王都の外を囲んでいる白い陣幕の中から、杉田とアイリーンの2人が俺を迎えに来てくれた。
再会した2人にも話したい事や、聞きたい事は山ほどあったけれど。今はそれよりも先に、この異様な緊張感に満ちた王都周辺の状況についてを尋ねてみる事にする。
「杉田、グランデイルの王都は今、どうなっているんだよ? 何で王都の中に、見慣れない怪しげな騎士達がわんさかと溢れかえっていて。グランデイルの騎士達が街の外から、そいつらと一触即発の睨み合いをしているヤバい状態になっているんだ?」
俺からの問いかけに答えようと、杉田が口を開けて返事をする前に。
後方から別の人物の声が、俺の耳には聞こえてきた。
「その説明は私の口から話させて頂きますね、彼方様」
「ティーナ!? 戻って来ていたのか?」
後ろを振り返ると、そこにはグランデイルの王族の衣装を着たティーナが立っていた。
ティーナの周りには、彼女を護衛する為のグランデイル軍の騎士達も数名立っている。
ティーナには、巨大コンビニ要塞が王都に向かってくる前に、王都に住む街の人々を全員外に連れ出して貰い。王都から離れた場所にある、一時的な待機所に避難するようお願いをしていた。
結局、巨大コンビニ要塞は王都に進軍してくる事はなく。敵のレイチェルの『気まぐれ』によって、進路を西の城塞都市カディナに変えたコンビニ要塞は、ソラディスの森の中で俺達と交戦し。
『動物園の魔王』のマコマコや、女神アスティアの参戦もあって、なんとか北に撤退させる事が出来た。
……という事は、もうグランデイル王都に住んでいた人々を元の街に戻してもいいのかもしれないけれど。
今はその街の中にひしめく謎の軍隊によって、王都は完全に占拠されている状況になっているようだ。
「――ええ。その通りなんです、彼方様。王都への侵攻が回避された事を知った私は、騎士団の皆さんとここに様子を確認する為に戻って参りました。ですが、その時には既に魔王領からやって来た女神教の新手の騎士団が、グランデイル王都を完全に占拠してしまっていたのです」
「女神教の騎士団が……? 王城を占拠していた奴らとは別に、別の女神教の援軍が魔王領から駆けつけて来たというのかよ……!」
ティーナの話によると、元々グランデイルの王城を占拠していた女神教の軍勢に加えて。今度は女神教の援軍が大勢、魔王領からグランデイルの王都にやって来たらしい。
それも敵の兵士の数は、数千どころじゃ無かった。
王都を占領している女神教の軍勢は、数万は超える規模の大軍だ。おそらく魔王領の中心部にあるという暗黒塔――確か『パルサールの塔』と呼ばれている女神教の総本山から、女神教に所属している全ての兵団が出陣して。このグランデイルの王都に大集結しているのだろう。
「でも、どうして……女神教の大軍がここに集まってきたんだ? 総本山の暗黒塔を捨てて、全ての兵力をここに集めるだけの『理由』があるというのか?」
その時、女神教の行動理由を考えていた俺の頭の中に――ある一つの解答が思い浮かぶ。
「そうか。ここには既に、『女神アスティア』が直接やって来ているんだったな……」
巨大コンビニ要塞との戦いの最後に、空に広がる灰色の暗雲の中から強力な『雷撃』が地上のコンビニ要塞に目掛けて何度も放たれた。
あの凄まじいカミナリによる攻撃は、女神教の枢機卿が女神アスティアによるものだと言っていた。
つまりもうこの地には、女神教教徒達が崇めるこの世界の『神』とされている、女神アスティアが降臨している状況なんだ。
だとしたら、女神教の連中が総本山である魔王領の中にあるパルサールの塔を捨てて。このグランデイルの地に集結してくるのにも納得がいく。
彼らにとっては、自分達の全てを賭けてでもお守りしないといけない『女神様』本人が今、グランデイル王都にやって来ている状態なんだからな。
「彼方、雪咲をはじめとする他のメンバーには今、それぞれ王都の周りを取り囲んでいるグランデイル軍の騎士達の監視をして貰っているんだ。自分達が留守の間に、王都を丸々占領してしまった女神教の奴らに相当、グランデイルの騎士達は怒っているみたいだからな。俺達が目を光らせていないと、マジですぐにでも戦争が起きかねない状況なんだぜ……」
杉田の説明を補足するように、ティーナも言葉を付け足してくる。
「ハイ……元々クルセイスの指揮下にあった時から、今のグランデイル王国は女神教とは犬猿の仲になっていましたから。なので絶対に王都を占拠している、女神教の軍勢に手を出さないようにと、私も皆さんにお願いをしているのですが……。いつどこで、一触即発の戦闘が始まってもおかしくは無い状況が続いています」
……なるほどな。それで雪咲やパティ達がここにはいないのか。
みんなはそれぞれバラバラに王都の周辺に散って、暴発したグランデイル軍の騎士達が、王都奪還の為に女神教の連中に戦闘をしかけないようにと、各地で目を光らせてくれている訳か。
でも、ティーナのその判断は正しいと俺も思う。
女神教の軍勢は、きっと俺達が想像する以上の強さを持っているはずだ。
ここに来ているかは分からないけど、あの最強の『カヌレの騎士』達みたいに。超人のようなジャンプ力や腕力を持った連中だって大量に潜んでいるだろうからな。
「そういえば、マコマコ……いや、冬馬このはとククリアの2人はどこにいったんだ? 彼女達も、王都の周辺で待機してくれているのか?」
俺がそう問いかけると、アイリーンが申し訳無さそうに頭を下げながら答えてきた。
「それが……申し訳ございません、店長。冬馬このは様とククリア様につきましては、巨大コンビニ要塞との戦闘の後、全く連絡が取れなくなっております。今、お2人がどちらにいられるのか、誰も分かっていないのです」
「何だって? マコマコとククリアの2人も、消息不明だっていうのかよ……!」
巨大コンビニ要塞から、大量にソラディスの森に向け放出されていた新型カマキリタイプの機械兵達。
それを全て食い止めてくれていたのは、動物園の魔王である冬馬このはが無限召喚してくれた、銀色の狼達の群れだった。
あの時、もしも――冬馬このはが駆けつけてきてくれなかったら。とっくにカディナの街は敵の大兵力によって陥落し。恐ろしいほどの数の犠牲者が出ていたはずだ。
だからマコマコとククリアは、城塞都市カディナ防衛の最大の功労者と言っていい。
それなのに、その2人が戦闘の後に突然……消息不明になっているだなんて。一体、どうしてしまったんだ?
何か緊急事態が、彼女達の身に起きていなければ良いのだけれど……。
「――消息不明といえば、グランデイルの王都にいたはずの倉持と名取の行方は分かっているのか? やっぱりまだ、アイツらとも連絡は取れないのか?」
俺は白アリの女王リルティアーナ戦以降、一向に姿を見せなくなってしまっていた『不死者』の勇者である倉持悠都についての行方も気になった。
だからその事を、玉木に尋ねてみる。
「ううん……彼方くん。倉持くんと、美雪ちゃんはまだ消息が分からないの。今は、グランデイルの王都にも入れないし、捜索に行く事も出来ないから。街にまだ残っているのかも分からない状況なの……」
「そうか……。まあ、アイツの事だから、しつこくどこかで生きているとは思うけど。それに名取も一緒にいてくれているのなら、きっと心配はないと思う」
例えあの倉持の事であったとしても、クラスメイトが消息不明な事に玉木は落ち込んでいるようだった。
実際のところ、俺が最後に倉持を見かけたのはグランデイル城の地下のゲートの場所だった。それも正確には、朝霞が俺に見せてくれた『仮想夢』の中での出来事だ。
だから実際の現実の世界で、俺はまだ倉持と直接再会出来た訳では無かった。
でも、朝霞の仮想夢は現実世界の情報を100%再現した、仮想空間の世界である事を考えると。多分、倉持はグランデイル王城の地下のどこかにはいたのだろう。
今も、グランデイル王城の中に残っているのは不明だけど。女神教の軍隊が完全に王都を占拠してしまった今となっては、捜索に行くのも難しくなってしまった訳か……。
気がかりな事は他にもある。グランデイルを捨ててどこかに逃走してしまったクルセイスや、ロジエッタの行方も不明なままだ。
クルセイスは白アリの女王、リルティアーナが死霊の住まう山に溜め込んでいた大量の白アリ兵を引き連れているはず。
――という事は、数十万近い大兵力を抱えている、まだ油断のならない存在である事は確かだ。
きっと隙を見て。いつか、必ずあの性悪女は俺達の前に再び出てくるだろう。
その時に、全ての決着をつけなければならないと思う。ティーナが、グランデイル王国の新しい女王として即位した今……あの残虐思考のサディスト女達を生かしておくのは、俺達にとってリスクでしかないからな。
「それにしても、やっぱり現在のグランデイル王都の中の様子が気になるな。女神アスティアが本当に王都に入っているのだとしたら、女神教はこれからどう動くつもりなんだろう? 不老の魔女達が何か不穏な事を画策していたりしなければ良いのだけど……」
「にゃにゃ? 大好きお兄さん〜! やっと戻って来てくれたのかにゃ〜!」
女神教の軍隊がひしめく、グランデイル王都の方角を見つめていた俺の視界に。突然、もふもふの猫耳と尻尾をフリフリした猫娘のフィートが入ってきた。
「――フィート!? お前……今、王都の方角をからやってこなかったか? まさか、あのグランデイル王都の中に一人で潜入してたんじゃないだろうな?」
「まさかも何も、敵のアジトにガッツリと潜入して来てやったのにゃ〜!」
可愛いい尻尾をフリフリと左右に振って。子猫ではなく、人間の姿に戻っているにも関わらず俺の肌にスリスリと擦り寄ってくるフィート。
俺はそんなフィートの頭をポンポンと撫でて。可愛いコンビニ猫娘に注意をする。
「全く……危ない事はするなよな、フィート! もし、女神教の兵隊に捕まって、酷い目に遭わされたらどうするんだよ! お前は可愛いんだから、人一倍気をつけないとダメなんだぞ!」
「うにゃ〜、大好きお兄さんが心配してくれるのは嬉しいけど。あたいは当然、『子猫』の姿に変身して王都の中に潜入してきたから問題なかったのにゃ〜! 強面のおっさん騎士達に可愛がられて、何度も体を撫でて貰ったくらいなのにゃ〜!」
何だって!? もふもふコンビニ猫のフィートが、俺以外の男に全身を触られて、撫でられたというのかよ……!
クッ、そんな事は断じて許さんぞ! 可愛いコンビニ猫をもふもふ出来る権利は、コンビニ店長であるこの俺だけ特権なんだからなッ!
……って、ついつい本音を言いかけたけど。
今は緊迫した状況だからな。グランデイルの王都の中を偵察してきてくれたというフィートから、さっそく街の中の様子を教えて貰う事にした。
「それで、フィート。グランデイル王都の中にいる女神教の連中の様子はどうだったんだ? 何か怪しい動きをしていたりはしたのか?」
俺がそう、フィートに問いかけると。
フィートはニヤリと笑って振り返ると、後方にある王都の入場門の方角を指さした。
「怪しい動きは確かにあったのにゃ〜! アレを見るのにゃ〜、大好きお兄さん。女神教の不老の魔女が、こっちにやって来てるのにゃ〜!」
「えっ、こっちにやって来てるだって……?」
フィートの指さす方向をよく見ると。確かにグランデイル王都の入場門の方角から、数名の騎士が馬に乗ってこちらに向けて駆けてくるのが見えた。
どうやら俺達の陣営に向けて、女神教から『使者』が派遣されたらしいな。
やって来た女神教の騎士の代表は、全身に銀色の鎧を着て。長い銀髪に鋭い眼光をした、長身の女性だった。
俺はその女性の外見には、よく見覚えがある。
彼女は女神教に所属する、不老の魔女のオペラだ。長い銀色の槍を持ったオペラとは、俺も何度か会っていたからすぐに分かった。
使者としてやって来たオペラは、馬から降り立つと。真っ直ぐに俺の顔を見つめて話しかけてくる。
「――我らは、コンビニの勇者を迎えにきた。コンビニの勇者は我らの後について来るが良い!」
「俺を迎えに来ただって……? それはお前達のリーダーである、枢機卿の指示なのか?」
銀髪のオペラは、無表情のまま睨むような目つきで俺に向かって槍先を突きつけると。
拒否する事は絶対に許さないという強い声色で、淡々と呼びかけてきた。
「――これは枢機卿様ではなく、アスティア様からの直接の指示だ。女神様はお前に会いたいと仰っている。グランデイル王都の中に、仲間を連れずに必ずお前一人だけでやって来いとの仰せだ」




