第百二十二話 魔王領に住む魔王達
エルフの女騎士がコンビニの事務所に運ばれてから、しばらくの時間が経つ。
草色の鎧を着たエルフの女騎士は、カップヌーボーを美味しそうに食べながら、次第にその緊張の度合いもほぐれてきたらしい。
白い顔を満足げなピンク色に染めて、だいぶ様子も落ち着いてきたようなので。俺は改めて、俺達が魔王領に向かっている事を伝えて、未知の領域である魔王領内部の情報を求める事にした。
「――な、なんだと? 魔王領についての情報が欲しいだと? ズズズーーッ! お前達は魔王領の事を何も知らずに、向かおうとしていたのか? 全く命知らずにも程があるというものよ! この愚か者共めがッ!! ズズズーーッ!」
コンビニの事務所のベッドの上で。
エルフの女騎士様が、本日2杯目のカップヌーボーを勢いよく口の中に啜り込む。そして、睨むような目つきで俺達を見つめてきた。
「ああ。本当に俺達は、魔王領については何も知らないんだ。だからこそ、知っている事を全て俺達に教えてくれ!」
俺はエルフの女騎士に、改めて深く頭を下げる。
……と同時に。右手で未開封の新品カップヌーボーを2つほど。こっそりと、エルフの座る簡易ベッドの枕元に置いておいた。
誇り高いエルフの女騎士様は、そんな俺の【誠意ある】行動に、たいそう心を打たれた様子で。
俺達に魔王領についての知識を全て教えてやろうと、胸を力強く叩いて約束してくれた。
まあ、エルフの女騎士の視線は枕元に置いた未開封カップヌーボーに釘付けだし。口元はず〜っとニヤついていたんだけどな。
その辺りは大人の事情だから、気にしないでくれ。
俺も見なかった事にしようと思うし。これは対等な立場にある、大人同士が行う立派な商取引だからな。
うん、俺のやり方は全然汚くなんてないぞ。
俺とエルフのそんなやり取りを後ろから見て。後ろに座っていた玉木が『大人って汚いわ〜〜!』と、軽蔑の眼差しで俺を見つめていたような気はしたが……。
隣にいる嫁のティーナは、『さすが、彼方様……。何て美しい商談なのでしょう!』って、羨望の眼差しで俺を見つめてくれている。
うん、うん。商売上手な嫁のティーナに認められているのだから、俺の誠意ある行動は、きっと正しい……って事でいいんだよな?
だから俺は、もう1つおまけで。
未開封の新品カップヌーボーを、エルフの枕元に追加で置いておく事にした。
その様子を見て。更にニッコリと微笑み、上機嫌になるエルフの女騎士さん。
「うむ……ゴホン! そうであるな。まずは先に我についての自己紹介をお前達にしておくとするか。我はエルフ族の戦士長――『エストリア・フリル』と申すものだ。この森に住むエルフの里の戦士達のリーダー役を務めている」
エルフの女騎士――エストリアはベッドから起きて、ゆっくりと立ち上がると。
改めて俺にエルフ族の代表として、正式な和平交渉の握手を求めてきた。
その手をしっかりと握り。俺も握手をしながら、改めて自分の自己紹介をする事にする。
「俺は異世界から召喚された勇者、『コンビニの勇者』の秋ノ瀬彼方だ。そしてここにいる全員も、俺と同じで異世界から召喚された勇者達で、みんな俺のコンビニで一緒に暮らす、大切な仲間達なんだ」
俺と固く握手をしながら、エルフの戦士長であるエストリアは――事務所に集まっている、他の異世界の勇者達の様子をぐるりと見回していく。
今、この部屋にいるのはティーナ、玉木、紗和乃、アイリーン、俺の5人だけだ。
他のメンバーにはいったん、部屋の外で待機して貰っていた。
「……なるほど。お前達は魔王の手下などではなく、魔王になる前の哀れな雛鳥という事か。女神教によって、この世界に呼び寄せられた可哀想な異世界人という訳なのだな。たしかに異世界の勇者ならば、あれほどの高い戦闘能力を持っている事にも納得がいくというものよ」
「エストリアは俺達異世界の勇者が、やがてこの世界に災厄をばら撒く『魔王』となる可能性がある事を知っているのか?」
俺は疑問に思った事を、そのままエストリアに尋ねてみた。
「うむ。正確には異世界の勇者がではなく。異世界の勇者達の中で『無限の能力』を持つ者が――で、あるがな。まあ、似たような物であろう。新参の魔王を含め。現在、魔王領には合計で4人の魔王達が共存をしている、混沌たる状況になっていると聞いているからな」
エストリアの口から『動物園の勇者』についての話が出たので。俺は目を見開いて、慌ててその事についてを尋ねてみる。
「現在の魔王である『動物園の勇者』の事を知っているのか? それに今、魔王領には魔王が合計で4人いると言ったよな、それは一体どういう意味なんだ?」
俺が、心底驚いた表情を浮かべているのを見て。
エルフのエストリアはやれやれと呆れた顔をして。わざとらしく肩をすくめてみせた。
「どうやらその様子では、魔王領についての知識は本当に何も持ち合わせていないようだな。そんな状態で魔王領に向かおうとしていたとは、本当に困った者達だ。まあ、良かろう! 我が知っている限りの知識を、お前達に教えてやろうではないか」
エストリアは2杯目のカップヌーボーを、ズルズルと勢いよく全部啜り終えると。
カップの中に残ったスープも全て飲み干して。更にティーナが手渡してくれた3杯目の出来立てカップヌーボーを手に取りながら、俺達に向き直る。
右手で器用にフォークを操りながら、カップヌーボーの麺をズズズと啜り。俺達に現在の魔王領についての詳しい説明や、自分達エルフ族についてもエストリアは話してくれた。
実は俺も……ドリシア王国のククリアから、魔王領の事についてのある程度の知識は事前に聞いてはいた。
たしか、この世界に過去に呼び出された異世界の勇者達が、やがて魔王となり。
その能力を使って様々なモンスターや魔物達を作り出し。それらの多種多様な生物達が、現在も混在して多数生息をしている地域が、『魔王領』なのだと教えて貰った事がある。
その説明の中だと、『エルフ』という種族もかつてこの世界の過去に存在した異世界の勇者が魔王となり。
その能力を使って生み出した、特殊な亜人達の末裔なのだという話も俺は聞いていた。
「……そうだ。我らエルフ族の遠い祖先も、元はこの世界に召喚をされた異世界の勇者によって作り出された亜人種の末裔なのだ。もっとも現在は衰退の一途を辿り、このエルフ領を維持するのも困難ほどの少数民族と成り果ててしまってはいるがな」
「エルフ族が衰退をしている? それはどうしてなんだ?」
エストリアの話によると、魔王領との境に存在するこの広大な森林地帯。エルフ領に存在するエルフの数は……。現在では、たったの300人程度にまで減少をしているらしかった。
それは決して他の国や、魔王領にいる魔王達と戦争をして減っていった……という訳ではないらしい。
理由は様々あるが、1番の大きな理由は――。エルフが主食としている『ココの実』という木の実が成る『ココルコの木』が……。エルフ領に広がる大地の栄養不足のせいで、ほとんど育たなくなってしまった事のようだ。
エルフ族はその特殊な生態の為、『ココの実』以外の食べ物はあまり食べる事が出来ない。
例え他の物を食べても、身体に合わない為にすぐに吐き出してしまう事もあるらしい。最悪、ココの実が無い時には他の食べ物を食べる事もあるらしいが……。栄養が上手く摂取出来ずに、だんだんと衰弱してしまう事が多いようだった。
唯一の例外は、大昔の大魔王の時代に流通をしていたとされる……神聖な保存食。エルフ族が代々守り続けてきた白いカップに入っている『宝物食』だった。――まあ、つまりはカップヌーボーの事なんだけどな。
エルフ族はその宝物食だけは例外的にココの実と同じように食べる事が出来たのだが、もちろん保管している宝物食の数には限りがある。
現在では、エルフの里にはたったの3つしか宝物食は残されていないらしい。
……その為、宝物食はエルフ族の中で、一族の繁栄の為に活躍をしたエルフの英雄にのみ授けられる――聖なる食べ物として崇められるようになったらしかった。
そして食べ物の問題以外でも、『動物園の勇者』が新たな魔王として暴れ始めた100年前から。この世界の各地に出現し始めた魔物達によって、エルフが襲撃されてしまう事件もあった。
また、出来るだけ外界とは交流をしないようにひっそりと暮らしているエルフ達も。衣服の補充など……わずかな資源の交換の為、過去には南のバーディア帝国の商人達と交流をとっていた事もある。
だがその商談の際に、人間達によるエルフの誘拐事件が後を絶たなかったらしい。
外見が特殊で、見栄えの良いエルフは奴隷としても高い価値で売れる。その為に、悪意のある人間達によって連れ去られてしまうという事件も多かった。
もちろん連れ去られてしまったエルフ達はココの実を食べる事が出来ないので、やがて衰弱をして死んでいってしまっただろうが……。長い寿命を持つエルフなので、人間の寿命程度は奴隷として生きながらえたのかもしれない。
そんな苦い出来事もあって……。エルフ族は現在、エルフ領の森の外には一歩も出る事はなくなってしまい。
従えている森の土魔巨人の数を増やし。守護者として大量に森の中に配置をする事で、外界からの侵入者を完全に遮断する生き方を選んでいるとの事だった。
「ねえねえ〜、彼方くん〜! エルフさん達の主食であるそのココの実がとれるココルコの木は、何で急に育たなくなってしまったのかな〜?」
エストリアの話を横から聞いていた玉木が、不思議そうな顔をして俺に尋ねてきた。
「さあな……。大地の栄養不足が原因との事だけど。それがなぜそうなってしまったのか、原因は今の所よく分からないな」
俺と玉木の話を聞いていたエストリアが、部屋の天井を眺めながら静かに口を開く。
「……ココルコの木は、大地に宿る精霊の力を糧に成長をする神聖な木であるからな。おそらくは、我らエルフの一族が、この森に長く住み続けてしまった事が原因であろうな。――千年以上もの長い間、ココルコの木をこの地で育て続けてきた為、森の大地に宿る精霊の力が減少をしてしまったのだろう。かといって我らのような少数民族が、今更この地を離れて外の新天地へ移動をする事も出来ぬ。森の外には外敵が多く住んでいるからな。西の魔王領には凶悪な魔物達がひしめいているし。東の人間領には更にタチの悪い人攫い達が多く住んでおる」
うーん……。
たしかにエルフ族にとっては、この魔王領と人間領に挟まれた中間の土地に住んでいる事で。今まで両者から大きな戦争に巻き込まれるような事は少なかったのだろう。
でも、このままでは食料は不足し。外の世界に新しい領土を求めて移動をする事も出来ず。
どうやら本当に、緩やかな衰退の一途を辿っているという事になるらしい。
「まあ、そういう事になるな。我らエルフはこの世界では滅びゆく運命にある種族という訳なのだ。森を守護させていた『土魔巨人』も、お前達が今回、その全てを破壊してしまった。もし、お前達が魔王領に住む魔王達の手下であり、我らを滅ぼしにきたのだったなら……。もはや我らにはそれに対抗するだけの手段は何も残されておらぬ。その為、我はエルフ族を代表して、最後の交渉に臨む為に覚悟を決めてここに参ったという訳なのだ」
「そうだったのか。何か最初からもの凄くデカそうな態度で話しかけてきたから、そんな悲壮感は全く感じなかったけど……」
「そ、それは……当然であろう! 実は、エルフ族を守る最後の生命線であった土魔巨人を全て失い。食料も不足している我らは、生殺与奪の権利を全てお前達に握られている……などという事を、悟られてしまう訳にはいかなかったからな。交渉というのは多少は強気に出なければ、相手に舐められてしまうだけなのだぞ!」
エストリアはやれやれといった様子で、また肩をすくめてみせると。
……いつの間にか、3杯目のカップヌーボーのスープも全て飲み終えてしまっていた。
よっぽど、カップヌーボーの味が気に入ったようだな。
まあ、普段はココの実しか食べないという事だし。他の食べ物を味わえる……ということ事態が、エルフには新鮮なのかもしれない。
「うむ。では、エルフの一族についての話は一度置いておくとして。お前達が望む、魔王領についての話を改めてしようではないか。何なりと尋ねてみると良いぞ?」
「う、うん……そうだな。魔王領については聞きたい事は山ほどあるんだ。ぜひ、エストリアの知っている事を俺達に詳しく教えて欲しい!」
「我が答えられる範囲のものであればだがな……。さあ、何でも我に聞いてみるが良いぞ!」
よーし。それならまず、俺は最初にエストリアが言っていた――『魔王領に住む複数の魔王達』についての話を聞いてみる事にした。
俺の知ってる限り魔王というのは、『動物園の勇者』である冬馬このはの事だと思っていたからな。
でも、それ以外にも複数の魔王が魔王領には存在をしていたという事なのだろうか……? だとしたら、たくさんの疑問が湧いてきてしまうのだが。それについても出来るだけ全てを教えて貰いたい。
「うむ。たしかに魔王領には魔王はたくさんいるぞ。だが……今現在、人間領で暴れている――いわるゆ人間種に害をなしている魔王は、基本的には『動物園の魔王』ただ1人のみだ。それ以外の魔王達は、魔王領の中で他者に干渉する事なく隠れ住んでいるからな。魔王領では女神教の魔女達と、魔王達による睨み合いが1000年以上も続いているのだ」
「魔王領に魔王がたくさんいるって、それはどういう仕組みなんだろう? この世界の魔王は、歴代の異世界から召喚をされた勇者達が残倒してきたんじゃなかったのか? ……それがどうして、そんなに魔王領には野生の野良魔王みたいなのがたくさん残っているんだ?」
たしか異世界の勇者は、その時代ごとにこの世界で暴れていた魔王を倒して世界を平和に導いてきたはずだ。
なのに、何で魔王がまだ複数人も残っているんだ?
実は、今までに異世界の勇者が倒し損ねた魔王がいたとでもいうのだろうか。でも、女神教は不老の力を手に入れる為に、魔王を倒した時に得られる『魔王種子』を狙っていたのだろう?
そんなに魔王がいっぱい魔王領に残っていたのなら。何も現在の魔王である冬馬このはに狙いを絞らなくたって、他に複数人もいる別の魔王の命も狙えば良かったんじゃないのか?
たしか女神教は、『動物園の魔王』である冬馬このはの力が強大になり過ぎて。手に負えなくなったから、新しい異世界の勇者である俺達をこの世界に召喚して、それを倒して貰おうとしていたはずだ。
でも、別にも魔王がたくさん存在をしていたのなら。
そっちの命を狙えば良かったんじゃないのか? ……と、俺には思えてしまうんだが。
「現在、魔王領にはそれぞれの支配地域に隠れ住んでいる魔王達は全部で3人いる。それらの者達は、いわば女神教の魔王暗殺チームである『魔王狩り』達が、あまりに強すぎて手に負えず、倒すのを半ば諦めてしまった魔王達なのだ。魔王領では彼らの事を『忘却の魔王』と呼んでいる。女神教に所属している9人の不老の魔女達でさえ、現在では迂闊に彼らには手を出さないでいるのだ」
「忘却の魔王? 女神教も手を出せない? そんなにも強い魔王が、まだ3人も魔王領には残っているのかよ? でもそんなに力が強いなら、何でこの世界を支配しようとしたり、人間領に攻め込もうとはしないんだ? 元々魔王は自分達を付け狙う女神教徒達を憎んでいたんだろう?」
「3人の忘却の魔王達は、人間領やこの世界の支配には興味が無いのだ。ただ純粋に自分達の力を無限に成長させる事にしか彼らは興味がない。だが、そんな彼らでさえも、もちろん無敵ではない。彼ら忘却の魔王が最も恐れているのは、魔王領に立つ女神教の総本拠地――『暗黒塔』だ。別名『監視塔』とも呼ばれているがな。そこにいると言われている女神教の代表である枢機卿と、その配下の魔女達は常に魔王領の隅々にまで目を光らせている。彼女達は、忘却の魔王達を見つけ次第、隙があれば常に暗殺しようとつけ狙っているのだ」
「つまり、忘却の魔王達はやっぱり今も女神教に命を狙わられていて。普段はその居場所が分からないように魔王領の中で隠れて暮らしている……という訳なのか?」
「――そうだ。魔王領において最も強く恐れられているのは、やはり、女神教に仕える不老の魔女達である事は間違いないのだ。だから3人の魔王達は、普段はお互いに干渉する事なく過ごしているが……。女神教の魔女達に攻撃を受け。命を襲われそうになった時だけは、互いに団結して魔女達と戦うという暗黙のルールを設けている。それ故に彼らは長い年月の間、女神教の追撃をこれまで逃れ。召喚された異世界の勇者に倒される事もなく、現在までこの地で生き続けているという訳なのだ」
そんな危険な野良魔王達が、3人も魔王領には住み着いているってのかよ……。
しかもそいつらも『魔王』である以上――全員が元異世界の勇者であり、そして『無限の能力』を持つ者達って事なんだよな。
「うーん。何だか話が更に難しい方向に行ってしまっているわね……。でも、私達が『動物園の魔王』である冬馬このはを魔王領で探さないといけない、という事に変わりはないはずよね? 女神教も今は、配下の4魔龍公爵を2人失って、完全に弱りきっている動物園の魔王の命を狙っているでしょうし」
エストリアの話を聞いていた紗和乃が、横から話しかけてきた。
「そうだな……。ククリアもそう言っていたし、俺達は魔王領で女神教よりも先に冬馬このはに会いに行かないといけないだろうな。3人の野良魔王がいるって話は確かにビックリはしたけど。その魔王達は人間達を攻めたりもしないし、こちらから何か怒らせたりしなければ、干渉をしてくる可能性も低いというのなら……。女神教と同様に、俺達もその忘却の魔王達とは出来るだけ関わらないように行動をした方がいいだろう」
うんうん……と、力強く紗和乃と玉木も頷き合う。
それにしても力が暴走をして、自分の思う通りには動けなくなっている『眠り姫状態』の冬馬このはとは違って。
魔王領に君臨するという3人の魔王達は、元々は異世界人だったはずなのに……。一体今は何を考えてこの世界で生きているのだろうと、つい俺は思ってしまう。
やっぱり魔王になるような奴は、何か心がこじれてしまっているような面倒くさい奴が多いのだろうか?
「……ちなみに、その3人の忘却の魔王についてもエストリアは詳しく知っているのか? 例えばその特徴とか名前とかさ」
俺がそう尋ねてみると、エストリアは……。
「もちろん知っているぞ。我らエルフは魔王領の側に住む者として、その者達の存在を常に恐れて生きているからな。大昔に相互に不可侵な協定を結んで以来、互いに干渉する事はまず無かったが……。その者達の名前くらいなら、我も把握をしておるぞ」
「――そうなのか!? ぜひ、俺達にも教えてくれないか? 女神教徒達も攻撃が出来ないという、最強の魔王達の名前をぜひ教えて欲しい!」
俺はカップヌーボーを更に5個ほどエストリアの膝下に置く。そして真っ直ぐにその瞳を見つめながら、答えを待った。
「ふむ。良かろう。3人の『忘却の魔王』達の名は、それぞれが魔王領で主に生息している地域になぞらえて呼ばれている事が多い。その者達の名は――」
暗黒渓谷のシエルスタ。
灼熱砂漠のモンスーン。
虚無のカステリナ。
この3人が魔王領に生き残り続けている、忘却の魔王達の名前という事だった。
俺はその魔王達の名を聞いて思った。
うん。まぁ、たぶん。
全員日本人じゃなさそうだなぁ……って。