第百二十一話 エルフ族の宝物
エルフの女騎士は、両手を腰に当てて。その場でドヤ顔をしながら大声を上げて笑い始めた。
俺が思っていたよりも、エルフは頭の固いステレオタイプの種族だったみたいだから。今回は、ちょっとだけ話の切り口を変えてみたんだけど……。
予想以上に興味津々に、俺のコンビニ営業トークに食いついてきてくれた事にビックリした。
でもまあいっか、今回は丁度良い機会だと思うんだ。
最近のコンビニは、地下施設の豪華さばかり目立っていたからな。本来は異世界コンビニならではの、レアな商品を数多く扱っている所が最大の魅力だった訳だし。
異世界のエルフが一体、普段どんな物を好んで食べているのかは知らないけど。
うちのコンビニの豊富な食品メニューを見たら、絶対に驚いてお弁当や菓子パンの美味しさに、メロメロになるに違いないだろう。
草色の鎧を着たエルフの女騎士を、俺はコンビニの店内へと招き入れた。
意外にもエルフの女騎士は、コンビニという異世界の見慣れない建物に対して。特に警戒する様子を何も見せずに、すんなりと中に入ってきてくれた。
ここはついさっきまで、この森を守護していた『土魔巨人』達と激戦を繰り広げていた敵の本拠地だっていうのにな。
なかなか、肝が据わっているというか。それともエルフは元々、知的好奇心が強い種族なのだろうか?
俺が長身で耳の長い色白美人を、突然店内に連れてきたものだから。
当然、コンビニの中に控えていた他のクラスメイト達が、ガヤガヤと色めき立って騒ぎ始める。
「……か、彼方くん!? そちらにいるのはもしかして、本物の『エルフ』さんなの? 凄〜〜いっ! ねぇねぇ、エルフさんて年は何歳なのかなぁ〜? 見た目は凄く若く見えるけど、やっぱり長寿だったりするのかな? あとあと、エルフさんって普段は何を食べて生活してるんだろうね? モデルさんみたいに背が高くて綺麗だし、スタイル維持の秘訣があるなら教えて欲しいよ〜! ねぇねぇ、彼方くんエルフさんに直接聞いてみてよ〜!」
コンビニのレジから吸い寄せられるようにして、客人のエルフにいきなり抱きつこうとする玉木。
俺はそんな玉木の手を『ガシッ!』っと、強く握ってガードする。そしてそのままプロレス技をかけるように、関節をガッチリと決めこんで、玉木の体をコンビニの床に押さえ込んだ。
「きゃああ〜〜っ!? ちょっと何をするのよ〜! 彼方くん!」
「ハイハイ、そこでストップだぞ、玉木! お前はエルフの半径3メートル以内への接近は禁止だからな。もし約束を破って勝手に近づいたりしたら。異世界ストーカー法の適用で3日間、地下温泉スパ施設の床掃除する刑が処されてしまうから気をつけるんだぞ!」
「……な、何で私だけ床掃除の刑なのよ〜!? 私にも本物のエルフさんと、もっとお話をさせてよ〜! 触らせてよ〜! 彼方くんの意地悪〜! 人でなし〜、変態〜っ、鬼畜〜っ、悪魔〜〜っ!!」
……ふぅ。全くやれやれだな。
玉木以外にも、珍しいエルフを一目見ようと、店内にワラワラと湧いて出てきたクラスメイトの男子達。
俺はそいつらに対しても、順番にプロレス技をかけて次々と床の上に沈めていった。
しまいにはVIP客であるエルフを護衛する為に、外にいた紗和乃も手伝ってくれたぐらいだ。
俺達は店内に残っていた他のメンバーが、エルフの女騎士に不埒な事をしでかさないように。両手を広げながら野次馬軍団の暴走を抑え込んでいく。
あのなぁ……俺達はまだエルフと和平協定や友好条約を結んだ訳じゃないんだぞ? 今はまだ、その為の外交交渉中なんだからな。
これからコンビニの商品をエルフに見てもらって。もし気に入って貰えたなら、お互いに仲良くしていきましょうって所なのに。
まるで芸能人に群がる熱狂的なファン集団のように、全員がゾンビみたいな動きをして、物珍しそうに美女エルフに吸い寄せられていくのは勘弁してくれよ。
……まあ、でも気持ちは分からなくもない。
何といっても、異世界の亜人種の代表格と言えば、やっぱり『エルフ』だものな。だからついつい本物のエルフが見たくなったり、話しかけたくなるのは分かる。
本物のエルフ見たさに押し寄せたクラスのみんなは、いったん紗和乃に取り抑えて貰う事にして。
俺はコンビニの店長として、異世界のエルフ様に付きっきりで店内の商品説明をする事になった。
「――こちらにございますのが、当店自慢のチーズハンバーグ弁当になります。他にもカルボナーラや、デザートにチーズケーキもご用意しております。あちらに並んでおりますミルクティーも、とても上品な味わいがしますので。ぜひ食後に一杯、お召し上がり下さいませ」
……って、なんか言っててめっちゃ恥ずかしくなってきたんだけど!
こういうのは、1流レストランで働くソムリエとか。もっと美食に洗練された人がするような仕事なんじゃないのかな?
ただの一般人の俺が、コンビニで売ってる弁当を『大変美味しゅうございます』って順番に紹介していくのは、凄く滑稽な気がするんだけど……。
あっ! 向こうで玉木や、野々原辺りが、エルフの接客してる俺の姿を見ながら『プププ……』って、口を押さえながら笑っていやがる。
クソ……! だけど今は我慢だ。気付かないフリをして、エルフへの接客に専念する事にしよう。
コンビニの店長である俺の接客を受けた、コンビニ初体験のエルフの反応はというと――。
「……ふん! これが異世界の食品だと? 得体の知れない透明な膜に包まれていたり、四角形の変な箱に入っていたり。こんなよく分からない謎の商品に、我らが興味を示すとでも思ったのか! この愚か者めがッ!」
あれれっ……?
俺の予想に反して、エルフの女騎士はあまりコンビニの商品がお気に召さなかったようだった。
いやいや、そんなに食わず嫌いしないでさ。たった一口でいいからちゃんと食べて、ゴクゴクと飲んでくれたら、絶対お気に召すと思うぜ?
「もし良ければ、こちらのチョコレートケーキを一口食べてみませんか? 異世界では珍しいカカオの香る、甘いチョコレートの味が大変美味なデザートですので……」
「このたわけ者がッ! この様な不気味な色の物が、食べられるはずないではないかッ! 貴様は我に、汚物を口に入れろと勧めてくるつもりなのか? そのような下賤な物を、口に入れる事など絶対に出来ぬわッ!」
俺が勧めたチョコレートケーキを、エルフは手でポンと弾いてしまう。
あーあー。ケーキは透明なプラスチックパッケージに入っていたから、床にはこぼれなかったけど……。勿体ない事をするなよな。食べ物は粗末にしちゃダメなんだぞ!
……っていうか、これ。割とマジで詰んでないか?
偏屈で脳ミソがステレオタイプのエルフは、コンビニの商品や食品を手に取ったり見たりはするけど。全部一目見て、勝手に下賤な物と決めつけて。全く食べようとはしてくれない。
これじゃあ、異世界の食品のおいしさを分かって貰えるはずもない。
うーん、どうしようか?
絶対にティーナもお気に入りのBLTサンドイッチを食べたり、ミルクティーを飲んでくれれば、大満足をして貰えると思うんだけどなぁ。
――かといって、全員でエルフを後ろから強引に押さえつけて。口の中に無理やりサンドイッチを放り込む訳にもいかないだろうし。
とにかく食わず嫌いと決めつけが多すぎるんだよ、このエルフの女騎士はさ! 四の五の言わずにまず、ちゃんと手に取ってコンビニの美味しい食品を食べてくれれば良いのに……!
「――ねえねえ、どうするのよ、彼方くん?」
俺が上手にエルフをもてなせない事に、業を煮やした紗和乃が、こっそりと耳うちをするように小さな声で話しかけてきた。
「どうするもなにも……正直、完全にお手上げだよ。俺が何を勧めてもエルフは全く興味を示してくれないし。コンビニの惣菜や弁当も、全然食べてくれないんだからな。いっそのこと『料理人』の能力がある琴美さくらに、エルフの目の前で牛ヒレ肉を焼いて貰って、特上ステーキを作って貰おうかと思ってるくらいだぜ」
「ステーキの美味しそうな匂いで、エルフの心を誘惑するつもりなの? でも、それって本当に効果があるのかしら? だってもしかしたら、異世界のエルフは肉食じゃないかもしれないでしょう? もし草食だとしたら、それはかえって逆効果になるかもしれないわよ?」
「うーん。それなら、本当にどうしようもないな。エルフは一体どんな商品になら興味があるんだ? 普段は何を食べて生活しているのか、全く情報が無いんじゃ……さすがに俺だって攻略のしようがないぞ」
俺が、半ば諦めかけて。両手で頭を抱えながらコンビニの床に座り込もうとすると――。
「こ、これは……!? まさか、いや……そんな事は絶対にあり得ないッ! どうしてここに『コレ』が置いてあるのだ? しかもこんなにも大量に置いてあるなんて、信じられん!!」
コンビニに置かれている商品に、今まで全く目もくれなかったエルフの女騎士が……。突然、愕然とした表情を浮かべて。コンビニの床に腰を抜かして勝手に倒れ込んだ。
――んん? 何だ何だ?
今、エルフの騎士は一体……何を見て驚いたんだ?
俺は慌てて、エルフの女騎士が腰を抜かして倒れている場所に駆け寄ってみた。
エルフの女騎士は、コンビニの床の上で震える指先である物を真っ直ぐに指差して、驚きの顔を浮かべている。俺は慌てて、その商品を確認してみると……。
「――えっ!? もしかしてコレに驚いたのかよ? でもこれって、ただの『カップヌーボー』だよな」
エルフの目の前の商品棚に置かれているのは、断熱性の高い、白い発泡スチロール製の容器に入ったお馴染みのカップ麺だった。
俺は『カップヌーボー』をそっと手に取ってみる。
「き、貴様ッ……! 神聖なる『宝物食』を、そのように軽々と手で触るなんて、何という事をっ! ああっ!? そんなに大胆に神聖なるフタを開けてしまうなんて! この世界で350年の長き時を生きてきた我でさえ、一度も食した事のない神聖なる『宝物食』を、そんなにもずさんに扱いおって!」
俺はおもむろにカップヌーボーのフタを半分めくり。
更にこれ見よがしに、エルフの目の前で熱いお湯をカップの中に大胆に注いでいく。
もはやエルフの女騎士は、失神してしまうんじゃないかと思えるほどに、口からぶくぶくと泡を吹いて。全身を震わせながら軽い痙攣を起こしかけていた。
「ちょ、ちょっと彼方くん! やり過ぎよ〜! エルフさんが口から大量に泡を吹いて、床に倒れかけているじゃないの! 一体何をしでかしたのよ〜!?」
「い、いや……。俺はエルフの女騎士がカップヌーボーを物珍しそうに見ていたから。ぜひ食べて貰おうと思って。親切にフタを開けて、中にお湯を注いであげていただけだぜ?」
お湯を注いだカップヌーボーにフタをして。それを玉木の前にポンと置いて、俺は身の潔白さをアピールする。
「何だ、そうなんだ〜! 何だか私も、久しぶりにカップヌーボーが食べたくなっちゃったな〜。エルフさんと一緒に食べたら、もっと仲良くなれそうよね〜!」
「そうだな。じゃあせっかくだから、クラスのみんなの分も作ってやろうぜ! 全員でカップヌーボーを一緒に食べながら、親睦会をするんだ。どうやらエルフはこのカップヌーボーが気に入ってるみたいだし、盛大にカップヌーボー祭りをして、歓迎しようじゃないか!」
「……あのぅ、彼方くん?」
俺と玉木が手分けをして、大量のカップヌーボーのフタを開けてお湯を順番に注いでいると。
後ろから、ちょんちょんと紗和乃が俺の肩を申し訳なさそうに突いてきた。
「どうしたんだ、紗和乃? お前も遠慮せずにカップヌーボーを食べていいんだぞ? 今、合計で10個くらいのカップヌーボーにお湯を注いだ所だからな。お前の分もちゃんと用意してあるからな」
「いや、そういう事じゃなくて……! エルフさん、口から泡を吹いて完全に気を失っているわよ! もしかしたら本当にショック死しちゃったんじゃないかしら?」
「なにーーっ!? そんな、どうしてなんだよ? 俺が一体何をしたっていうんだ、うおおぉぉーーっ!」
「その……彼方様と玉木様が、カップヌーボーのフタを開けて。5個目のカップにお湯を注ぎ入れた時点で、エルフ様は完全に白目をむいて意識を失ってしまわれたようです……」
後ろから一部始終を見ていたティーナが、控えめに俺に小声で告げてきた。
「えっ、そうなの? じゃあ、エルフは俺達がカップヌーボーを大量に作っている姿を見て、失神してしまったという訳なのか?」
「どうやらそうみたいね。理由は分からないけど、エルフは、お湯を注いで作る日本のカップヌーボーの事を知っているのよ。そしてこのカップヌーボーは、エルフにとっては一生かかっても決して食べる事が出来ないくらいに貴重なものなんだと思う。だからそれがコンビニに大量に置いてあって。しかも無神経に、彼方くんがどんどんフタを開けてお湯をガンガンに注いでいくものだから……。きっとカルチャーショックを受けて、気絶しちゃったのよ」
紗和乃がジト目で、俺の顔をジーっと見つめてくる。
「……いや、ちょっと待ってくれよ! 俺はただエルフの気にいった食べ物を作って、もてなそうとしただけなんだよ。まさか気絶するなんて思いもしなかったし」
「あ〜あ〜、彼方くん〜! 大切なお客さんに何て事をするのよ〜! いきなり気絶させちゃうなんて、本当にあり得ないわよ〜!」
玉木がドヤ顔で俺を責め立てようとしてくる。
「いや、お前も俺と一緒になって『わ〜い、わ〜い!』って、カップヌーボーに楽しそうにお湯を注いでたじゃないかよ!」
「だって〜! それは彼方くんがたくさんカップヌーボーを作って、歓迎のお祭りをするって言うから〜!」
俺と玉木が責任を押し付けあって、コンビニの中でやいやい言い争いをしていると。
ティーナが俺に慌てた様子で声をかけてきた。
「か、彼方様! 気絶をされていたエルフ様が、目を覚まされましたよ!」
良かった! 俺は慌ててエルフの女騎士が倒れているコンビニの床を見つめてみると。
うーん……と、まるで悪い夢にうなされていたような寝付きの悪い顔を浮かべて。エルフの女騎士がゆっくりと、コンビニの床の上で上半身を起こした。
「……ううっ。どうやら我は酷い悪夢を見てしまっていたようだ。まさか、我らの一族が古代から守り続けてきた神聖なる宝物食が、このような場所に大量に置かれていて。しかも、その価値が全く分からない野蛮人どもに、食べられそうになっているだなんて……」
「彼方く〜ん! このカップヌーボー、ちょうど3分経ったから食べ頃になってるみたいよ〜」
「おおっ、そうなのか? じゃあ、早くみんなで食べないと伸びちゃうよな。せっかく作った食べ物は粗末にしちゃダメだからな。急いで食べるとするか……ズズズ〜〜ッ!」
俺達は起き上がったエルフの女騎士の前で。出来立ての美味しそうなカップヌーボーの麺を、玉木と一緒にズルズルとすすり始める。
「ぐ、ぐはッ!? まだここは、悪夢の中だったというのか!? うぅ……。も、もう我はダメだ……!」
起きたばかりのエルフは、カップヌーボーを食べる俺と玉木の姿を見て。そのままパタン、とまた床の上に倒れ込んでしまった。
「彼方くん! 紗希ちゃん! せっかく起き上がったエルフさんにトドメを刺してどうするのよ!? もう、早く気を失っているエルフさんを事務所のベッドにまで運ぶわよ! さあ、手伝って!」
今度ばかりは、紗和乃が激昂して。俺と玉木は『ヒィッ……!』と悲鳴をあげながら、エルフの女騎士を事務所の中へと運んで行く。
……その後。
カップヌーボーが出来上がる時間と同じ、約3分くらいで。エルフは事務所のベッドの上でまた目を覚ました。
俺達は改めて、何でエルフの女騎士が日本の『カップヌーボー』の事を知っているのかを尋ねてみた。
先程までの、高慢で高飛車な態度はどこかにいってしまったかのように。俺達の質問をエルフの女騎士は、素直に教えてくれるようになっていた。
「ふむふむ、なるほどな。ズズズーーッ! エルフの一族には古代から代々受け継がれてきた、『神聖なる宝物』があると言う訳なのか」
「うんうん。ズズズーーッ! それは大昔にこの世界を支配した、古代の大魔王の時代にあったとされる白いカップに入った保存食で。この世のものとは思えないほど、美味な食べ物であったという伝承が残っている訳なのね。しかもその保存食は、お湯を入れて3分で作れる食べ物だったと。ズズズーーッ!」
「ねえねえ、彼方く〜ん! やっぱりお湯を注いで3分で作れるって事は、このカップヌーボーがエルフさんの一族に伝わる『神聖なる宝物食』って事で間違いないのかな? ズズズーーッ!」
「ああ。恐らく間違いないだろうな。ズズズーーッ! エルフの一族はそれを、時の進行が止まる魔法の壺に封印して、代々守り続けてきたらしい。そして一族の繁栄に貢献をした、エルフ族の英雄だけに宝物食を褒美として与え。それを食べる事が、エルフにとっての最大の名誉になっていったみたいだな。ズズズーーッ! 確かにそんな貴重な宝物食が無限に置いてあったりしたら、ビックリして気を失ってしまうよな。うんうん、ズズズーーッ!」
俺と玉木と紗和乃の3人は、事務所のベッドの上に体を横たえているエルフの女騎士にアレコレと質問をしながら。
カップヌーボーの麺を、ズルズルと仲良く啜って食べている。
「……な、汝らはさっきから我を愚弄しておるのか! 我がエルフの一族に伝わる、神聖なる宝物食の説明をしているというのに。先程から目の前で『ズズズーーッ』と、音を立てながら。宝物食をまるで3時のおやつのような感覚で、堂々と食べておるとは……」
ベッドの上で、エルフの女騎士が震えながらゴクリと唾を飲み込む。
そして、カップヌーボーを箸で啜っている俺達の事を、羨望の眼差しで見つめているようだった。
「なあ、カップヌーボーはまだたくさんあるし。良かったらお前も1つ、食べてみないか?」
俺は食べやすいように、フォークをセットして。香ばしい匂いのする出来たてのカップヌーボーを1つ、ベッドの上にいるエルフの女騎士に手渡してやった。
すると、途端にエルフの女騎士は目を爛々と輝かせて。子供のように純真な瞳をして身を乗り出してくる。
「ま、まさか……!? 本当に良いのか? 我はまだ一族の繁栄の歴史に名を残すような大活躍を、何も為してはいないというのに! そんな我が、エルフ族が千年以上も守り続けてきた大切な『宝物食』に、手をつけてしまっても本当に良いのか?」
「だって、こんなにたくさん作っちゃったし。時間が経って麺が伸びたら美味しくなくなっちゃうから、早く食べた方が良いと思うぜ。うちのコンビニにはカップヌーボーは、まだ無数に保管されているから全然問題ないしな。さあ……ぜひ、食べてみてくれよ、本当にめっちゃ美味しいからさ!」
エルフの女騎士は震える手で、俺が手渡したカップヌーボーを受け取った。
エルフの一族にとって、これを食する事は最大の名誉になるらしい。むしろ、このカップヌーボーを食べる為に生きてきたと言っても良いくらいだ。
エルフ族が代々守り続けてきた神聖な食べ物であるカップヌーボーは、現在たったの3つしか魔法の壺に残されていないという。
一族の繁栄に大きな功績を残したエルフの英雄だけが、数百年に一度だけ選ばれてこのカップヌーボーを食べる栄誉を与えられる。
それをこんなにも簡単に、しかもあっさりと食べてしまう事が出来るんだ。
エルフの女騎士は、それが一体どんな味なのか。ぜひとも知りたいはずだ。
女騎士はゆっくりと銀製のフォークで、白いカップの中の麺を絡め取るようにしてすくい上げると。
震える手で、ゆっくりとカップヌーボーの麺を……口の中に導き入れる。
「ぬおおおおおおおっっーー!? 何たる美味ッッ! 何たる至高の食感! 美味すぎる! このような食べ物がこの世に存在して良いのか!? まるで全ての食べ物の頂点に君臨する、最高の美食をもたらす究極の一品ではないかあぁぁーー!!」
エルフの女騎士はのたうち回るようにして、ベッドの上で上半身を左右に揺さぶり続ける。
白い頬は、一瞬にして薄いピンク色に染まり上がり。恍惚の表情を浮かべて、目がとろ〜んと溶けてしまいそうになりながら、今度は『うふふ……』と、怪しげに微笑み始めていた。
うん。これはどうやら完落ちしたようだな。
もう女騎士は、カップヌーボーの味を永遠に忘れられずに。カップヌーボーなしでは生きていけない体になってしまった、という顔になっていた。
「さて、美味しいカップヌーボーも食べて貰った事だし。早速、取引の話をしようじゃないか」
「くっ……! 我がもはや宝物食の味が忘れられずに、何も逆らえなくなった所を見計らって商談を持ちかけてくるとは……何たる卑劣な! だ、だが……もはやこの神聖なる味の深みを知ってしまったからには、我も引き返せぬ。ぐぐぐ、貴様らの要求は一体何なのだ!? 何なりと我に要求するが良い!」
エルフの女騎士は顔をピンク色に染めて、悔しそうなのか、嬉しそうなのか、よく分からない複雑な表情を浮かべながら、俺の顔をじっと見つめてきた。
まあ、そんなに身構えなくても大丈夫さ。俺達が要求する事は大した事じゃないんだし。
「俺がエルフに求める物は、俺達がまだ知らない新しい知識だ。まずはこの先にあると言う『魔王領』の情報が欲しい。長い寿命を持つエルフ族なら、きっと色々な事を知っているはずだろう? そして、現在の魔王である『冬馬このは』の居場所も俺は知りたいんだ」
俺の質問にエルフの女騎士は『……んん?』と目を点にして、こちらを見つめてくる。
俺は構わず、そのままエルフへの問いかけを続けた。
「それに俺がもう1つ気になっているのは、お前が最初に声を掛けてきた時に言っていた、『貴様らは、どの魔王から派遣されてきた手下なのだ?』という言葉だ。アレは一体、どういう意味なんだ? 魔王領には魔王は1人だけじゃなく、他にもいっぱいいるという事なのか?」




