ミネアの思い
「悪いな、セイビム。ちゃんとアリシアにも言っておくから。」
「お願いするよアレク殿。うちの町には学者先生なんてほとんどいないからね。」
集会場を後にし、現在はトッティントン内の宿場に案内されている。ミハヤは、いや、アレーナがあの金属片にいたく興味を示しているようで、あの集会場に残っている。といっても、ミハヤの一団で一部屋借りるようなのでこの部屋には行ってくることはないだろう。
セイビムもこの話が終われば自室で休息に入ることだろう。
「魔獣討伐の際はボクも参戦しよう。微力ながら剣の心得もある。」
「いや、危険だろ。もしもの時のことを考えると守り切れるかどうか分からない。」
「だが、頭数は必要だろ? アレク殿とターニャ殿だけでは少々厳しいものがあるのではないか?」
確かに、全くの道の魔獣との戦闘。アレクとターニャだけでは戦力は心もとない。しかし、そこにセイビムが加わって申し訳ないがあまり大差はないだろう。それ以上に、戦闘方法がつかめないセイビムがいる方が、アレクの読みを外す要因にもなりかねない。それに、本当にもしもの時アリシアたちに合わせる顔がなくなってしまう。
「・・・そうか。足手まといだな。申し訳ない。」
「いや、そういうつもりじゃ。」
アレクの表情から内心を読み解いたのか、苦笑を浮かべるセイビムに慌ててアレクは、誤魔化そうとする。
「気を使わなくていい。ここで無理をするのはボクの役目ではないというだけの話だ。」
「ありがとな、セイビム。」
「気にしないでくれ、それと明後日の早朝にはミハヤたちは出立するようだ。」
「了解だ。それまでにこっちも準備を進めておくよ。」
「アレク殿。任せる。」
そう言い残すとセイビムは、アレクとターニャのいる部屋を後にする。恐らく、領主専用の部屋でも用意されていることだろう。
二人残されたターニャはようやく本当の意味で一息つくことが出来る。
「ぷっはぁ。つ、疲れた。」
「そんな全面フードなんて被ってるからだろ。」
「・・この町でもエルフはいないのね。」
「イグニアス王国にはいないって話だから。」
その言葉を発するターニャの表情は久しぶりに悲しそうな表情をしていた。と、言うより、顔や頭部などエルフとしての特徴を隠すようにしていたものをすべて取り、その薄桃色の髪に少し尖った耳、端正な顔立ちを見るの自体エルフの里を出て以来な気さえしてくる。普段、王城内で会う時もフードを被っているので仕方がないのだが。
「お前、最近ちょっと無理しすぎてないか?」
「里の運命はあたしの肩にあると考えれば、無理も仕方ないでしょ。」
ターニャの方にあるプレッシャーはアレクの想像を絶するものであることは確実だろ。何せ、イグニアス王国に悪い印象を与えればボトム王国を含む鬼族によって里の未来は真っ暗だ。逆にイグニアス王国にスキを見せすぎれば、古き悪しき歴史を繰り返される危惧も彼女には存在する。現状のイグニアス王国を見る限りそんな心配は少ないが、全ての国民が、アリシアたちの様というわけではないだろう。そんなターニャが心が安らぐ瞬間は無事エルフの里に戻るその時までないに等しいだろう。
「でもそれじゃ、お前の体がもたないぞ?」
「その時は、アレクに全部押し付けるわ。」
「っふ。そうだな、そうして少し休め。」
皮肉で言ったつもり言葉をはにかみ交じりに返されてしまったら、ターニャはもう何も言えなくなってしまう。
「ねぇ、アレク。なんでこの町を助けるの?」
「そういう依頼だろ。一度引き受けた以上最善を尽くさないとな。」
「でも、当初の予定より危険度は跳ね上がってるわ。アリシア様の文句はいはないんじゃない?」
当初の予定ではアレクは、マリージョの兵力増強のための軍事指南役として赴くように聞いていたらしい。しかし、現在はマリージョから遠く離れたトッティントンの町で多くの若いドワーフたちを帰らぬものにしてきた魔獣を討伐することになってしまっている。命の危険がなかった指導役から一気に全線で命を張っているのだ。契約と違う事を理由に依頼を破棄することだって可能だろう。
「うーん。正直教えるって柄じゃないし、こっちの方が何かと都合がいいからな。それに、オレもターニャと一緒さ。」
「一緒?」
「ああ、不安なんだよ。出来ないことが。記憶がないってことは、自分が必要とされることも知らないんだ。だから、出来ないことが出来た時のアリシア達の心の中を勝手に想像しちゃうんだよ。『ああ、こんなもんか』ってな。」
当然、アレクにだってアリシアたちがそんなことを思うような人間では無い事は重々承知している。しかし、思考を止めることが出来ないのだ。記憶をなくし、たった一人であると理解した時の兵舎での夜は、眠ることは不可能だった。このまま寝ればまた記憶を失うのでは? 起きたらだれも自分のことを知らない世界なのではないか? 本当の一人ぼっちを経験したからこそ、不必要とされることが恐ろしくて仕方がない。
「そうね、あたしの不安なのかもしれないわね。何もできなかった時の目ってのが。」
そういってみると少し肩から力が抜けるのをターニャは感じる。ここ二日近く。未知の上に直接寝るという人生初の野宿をしていたせいもあってか急な眠気がターニャを襲う。腰かけていたベットへ今すぐにでもダイブしてしまいたいが、さすがにアレクのいる間は、自重すべきだろう。
「アレクはこの後どうするの?」
「一回、ミハヤに話があるから集会所に向かおうと思う。」
じゃあなんでこの宿場に来たのだと普通は問いたてるところだが、眠気と奮闘しているターニャにはそんな思考回路は存在していない。
寝入ってしまいたい気持ちをグッとこらえ、一番上に羽織っている無地のマントを脱ぎ、部屋の端の壁の衣装掛けに何とか掛ける。普段なら、寝間着に着替えるところだがここに持ってきていないのでこの服で寝るしかないだろう。
「そう。あたしちょっと疲れたから早めに休むわ。」
「ああ、ゆっくり休めよ。」
そういうとアレクは、ターニャの眠気を察してくれたのか早々に部屋を後にする。
部屋に鍵がかからないことは予想外だが、現状のこの町にターニャを含む面々を沿おう様なものはいないだろう。それに、宿屋の主人たちはボーイさんを含め常時警備しているらしいので、不安は残るがターニャは久しぶりのベットの中に潜り込む。
「あぁ、やっぱり土より数倍いいわ。」
野宿の間は、持ってきていたマントを下にひいていたのだが、硬いわ匂いはするわプライベートはないわと寝るという空間は一切存在しなかった。
もちろんエルフの里にある自分の家のベットに比べれば、月とすっぽんほどの差が存在するのだが、それでも土の上よりいいに決まっている。
「そういえば、いろんなことがあったなぁ。」
エルフの里から出てからほんの10日足らずの時間しかたっていないのに、人間界にはターニャの知らないものであふれかえっていた。理解できないモノや習慣、考え方に至るまでエルフの里に居れば一生感じることのなかったであろう心の動きというべきものを感じることが出来た。
「それもこれも全部アレクが、落っこちてきてくれたお陰かぁ。」
感慨深い語尾になっているが、そこまで深い考えがあるわけでなく、単に眠気から思考が上手に回っていないだけである。しかし、そんな眠気に負けそうなターニャにも分かることがある。それは、アレクが自身にとってどれだけ大きなものをもたらしてくれたかという事だ。
里の外の世界を見せてくれた。ずっと見たかった森の外の世界。興味や好奇心を押されるように森番の仕事に奮闘し、朝の時間帯の責任者にまで登ることで自分は、そんな自由など聞かない身なのだと自身に言い聞かせ続けてきた。そんな、ターニャにアレクは、外の世界を見させてくれた。
歴史の知識で人間という生き物に不安や嫌悪感があったのだが、そんなターニャにアレクは、人間というものを教えてくれた。もちろん、そんな人間ばかりではないのも分かっているが、出会ったアレクの知り合いは、全てあったかい人たちだった。
そして、今アレクはエルフの国を救うために奔走してくれている。なんに関係ないはずなのにアレクは、こんな危険を冒してまでエルフ族のために何かを成そうとしてくれている。もちろん、エルフなど関係なくいずれはこの町を救いに来たのかもしれないが、少なくとも今は、エルフの国のために最短で解決してくれようとしていることには変わりはない。
そんなアレクに何をしてあげられているだろうか?
何もしてあげられていない。確かに、エルフの里に落ちてきたときにターニャとオフィア以外が見つけていた時の事を考えると命を救ったともいえるだろ。しかし、実際にアレクやシャノン、ルセア、フィルビアをエルフの掟から救ったのはバルドであり、オフィアだ。二人と並ぶようにいつも傍にはいたが、ターニャがいなくても何の問題もなく、ここまでアレク達は障害を乗り越えられただろう。
そして、もうすぐこの外での生活は終わりを告げることだろう。ターニャは一応、同盟までの案内人。エルフの里へ安全に入るための手段である。だから、同盟が見事締結すればターニャはエルフの里に帰ることになるのだろう。もちろん、同盟関係にあるのなら昔以上にイグニアス王国と交流は増えるかもしれないが、それも同盟の銘文いかんによって変わってくる。
「何かしないと、アレクに何か恩返しを・・・・。」
考え事の結論は出ないうちにターニャの口からは、可愛い寝息が立ち始める。
正直に言ってもう眠い。ここ最近移動づくめで昼寝をする時間があまりとれていないのはアレクにとって死活問題である。なぜだかよくわからないのだが、アレクの一回の睡眠は非常に短いという欠点がある。時間にしておよそ一時間半。そのくらい寝ると起きてしまうのだ。当然、起きたその瞬間は眠気スッキリ、元気いっぱいなのだが、六時間も動けば再び眠気に襲われる。
どう考えても不便な体に苛立ちを覚えつつ、眠気眼をこすって何とか集会所までの道をたどる。が、
「ああ、失敗だった。」
失敗だった。ターニャも眠そうにしていたし、エルフの里を出てからのターニャ見ていて痛々しい程、気を張り詰めているので休ませてあげようと宿場に残してきたのだが、そのお陰でアレクは初めての町で一人迷子になることが出来た。
普段から何かと完璧に近い形でこなせるアレクなのだが、やはり道を覚えることに関しては全く才能がないらしい。何せ、記憶の中では宿場まで大きな通りはまっすぐ来ていたはずなのに、現在は見慣れぬ小道を歩いているのだ。それに加え、当りに人の姿は全くない。道を聞くことも出来ないので、早々に引き返そうとしたのだが、そのせいで宿場の場所まで分からないのが現状である。
「どうすりゃいい。大声でも出してみるか?」
口にしてみた案だが即座に頭の中で却下される。
トッティントンの町は、アレクがここに来た時から一切光量は変わらないのだが、現在は深夜の時間帯に入っている。人が少ないのもそのせいで、こんな時間に大声など出せば、魔獣討伐の英雄ではなく、別の通り名が付いてしまう事は間違いないだろう。
そうはいってみるも、現状そういった行為をしてでも人の注目を集めない限りアレクの現状を打開することは不可能であることも確実である。
このまま歩き続けていても同じところを回っている可能性だってあるし、明日の朝までにはやっておきたいことはまだ残っている以上あまりもたもたしていられない。
変質者という不本意な称号を獲得する覚悟を決め、大きく息を吸い込み、深呼吸をする。
「・・・こんなところにいたのか。」
と、言う声のせいで、アレクの大きく吸い込んだ空気は行き場を失い、むせ返る。しかし、助かった。聞き覚えのない声であるが、アレクのことを知っているという事は、あの集会所にいたドワーフの誰か、ないし、男性の声であることからオーエンであろう。後ろからかけられたその声にアレクは振り返る。
「・・・誰だ、お前。」
そこには一度も見たこともない人物が立っていた。薄茶色い全身を覆うほどのフードが付いたローブをまとっているので体の線も分からない。当然、フードも目深にかぶっており、表情も見えない。
声質的には男性の印象を受けたのだが、思い返してみるとそれも定かではないような不思議な感覚に襲われる。
なんとなく、アレクにとってプラスの効果をもたらしてくれる存在ではないことを察知する。
「誰だとは、ご挨拶だな。私はこんなにも探し求めていたというのに。」
その口ぶりから、アレクの過去を知るものであることは確実だろう。本当なら喜んで話を聞いてみたいところなのだが、先程も感じたいやな感覚から、飛びつくのは妙案とはいいがたい。
「それで、オレに何の用だ?」
できる事なら昔のアレクのことを一つでも多く聞いておきたい。せめてどこの国で生まれたのか知っておくだけでもアリシアたちの不安を軽減してくれるだろう。
「・・・そうか、やはり何も覚えていないようだな。ならばそれでいい。」
「お前が何かしたのか。」
「いいや。何もしていないさ。ただ、お前が記憶を失っていることはこちらにとって好都合。そういう事さ。」
このローブの者は確実にアレクが何者なのか知っているそういう確信はあるのだが、それ以上に言葉に言い表すことのできない恐怖心がアレクの背筋に走る。そんな、恐怖心を感じていると、目の錯覚なのかローブから後ろの入気が歪むようなオーラのようなものを感じるのは気のせいなのだろうか。
「ここで確実に滅ぼすのも悪くないが、貴様今、面白いことをしてるそうじゃないか。」
「面白いことだと。」
「ああ、あの呪われた血族の事さ。」
呪われた血族と聞いて一番最初に出てくるのは、やはり血の狂乱ということばを聞いたアリシアたちイグニアス王国の王族の話だろう。アリシアたちとかかわっていることが、この者たちにとって面白いことだというのか?
「あの血族に奉仕するなど、何をとち狂ったのだと思うぞ。」
「意味が分からないな。」
「まぁ、そうだろう。そのうち分かるさ。さぁ、迎えが来たぞ。」
そういうとローブの者の背景だけでなく、その体自体が歪んでいく。まるで蜃気楼かのように、元々そこになど存在しなかったものかのように消えていく。その瞬間、
「アレクー。」
再びアレクの背面からアレクの名前を呼ぶ声が聞こえてくる。しかし今度の声は、弾かれるように振り向くことはない。その声には聞き覚えがあった。明らかな女性の声、¥。跳ねるようなその声と共に、洞窟内の床を走る音が聞こえてくる。革製のブーツでも、金属製の装備品でもないその足をとは、人間の裸足のそれとも少し違っている。しかし、今のアレクに安心感を与えるのにたる変化であった。
「大丈夫かニャ? アレクさん?」
その安心感からか、言いようのない恐怖にあてられたからか、アレクの足から力が抜ける。座り込みそうになるが、何とか立膝で抑えることが出来た。
走り寄って来てくれたのは、ミネアだった。
「大丈夫かニャ? 何かあったニャ?」
「いや、何にもない。ちょっとめまいがしただけだ。」
誤魔化すように素振りはするのだが、ミネアは表情を曇らせる。それは、ミネアにはアレクが確実に何者かと会話しているような声が聞こえていたからである。
猫の聴力は人間のおよそ10倍近いものがあるといわれている。そして、ミネアはその猫を特性を有した獣人種。その為、アレクが聞こえないと思っていた会話もしっかり聞こえているのである。そのことを考えると、先程までのドワーフの集会場のでの会話はかなりひどいモノであったことは想像に難くない。
「でも、だれ・・・・。」
誰かと話していたんじゃないか? ミネアはそうアレクに訪ねたかった。いや、尋ねるまでもなく、ミネアにはアレクが誰かと会話するような声が聞こえたのだ。そう、誰かと会話しているような。アレク以外の声はミネアには聞こえてこなかった。しかし、アレクの声は誰かと会話しているような内容で、誰かと会話しているような間が開いており、誰かと会話しているように感情をあらわにしていた。その感情は、明らかに負のモノであったことは、ミネアからすれば確定事項なのだ。問いただすまでもなく。
アレクの真意はミネアには分からないが、その事実を隠そうとしている事だけは理解できる。だからこそミネアはそれ以上の言葉を口にしない。
「そうかニャ。ならいいニャ。それでアレクさんはこんなところで何してるニャ?」
「いや、集会所に行こうと思ってな。絶賛迷子中だ。」
ミネアは少し驚いたような表情を見せる。
何せ、ここは集会所から真逆もいいところ。ここは居住ブロックのかなり奥深い場所である。商業ブロックから、かなり離れているので住むための資金はあまり必要ではない区画。そのことから想像できるように、あまり、明るい雰囲気という場所ではない。天井の明かりが完璧であった時でも、明かりが届かない区画。
そして、アレクは一度も通ったことがないはずの区画のはずである。この町にアレクが入って来てからまっすぐ集会所の方へ向かった。そして、アレク達が止まる宿舎も集会所から一回も曲がらずに到着するはずの場所にある。
なの今は、トッティントンの中でもかなり入り組んだ場所にまで入って来てしまっていることから想像できる通り、
「アレクさんは、方向音痴ニャ?」
「ああ、残念ながらそうみたいだ。」
アレクははにかんでいるようだが、残念ながらミネアは笑えないほどアレクの方向音痴は重大なものである。
「いいニャ。今は、仕事中だけと送ってあげるニャ。」
「悪いな。」
ミネアの言葉に甘えてアレクはミネアの案内の下、トッティントンの中を行く。
「そういえば、ミネアはあそこで何の仕事をしてたんだ?」
「ミーの仕事は、迷子の捜索から道案内、ペットの捜索と多忙なのニャ。」
「詰まる話なんでもやって事か。」
「身も蓋もないことを言ったらそうニャ。それでさっきは落し物の捜索をしていたニャ。」
と、言ってもこういった仕事が増えてきたのも最近の話だという。
「ミーは、物探しより戦う方のが得意なのニャ。」
それもこれも、件の魔獣のせいである。ミネアの所属している警察組織の人間は、ドワーフ、獣人問わず真っ先のその魔獣の討伐に部隊を編成した。それは、普段戦闘をお向きとしない作業を行っているものも例外なく。
当然、その部隊にミネアも参加した。しかし、不幸というべきか幸運というべきか、総計6部隊で編成でトッティントンに帰ってこられたのは、ミネアの部隊を含めて2部隊しかいなかった。
「そこには、ミーのニィニもいたニャ。」
ミネアの兄は、ミネアと違って戦闘はあまり徳とは言えない人物だったという。けれど、誰よりも優しくて、誰よりも人を思って行動が出来、誰かの為に生きることを喜びとするような人物であったという。
だからこそ、ミネアの兄は誰からも信頼されていた。その人柄も性格も相まって、トッティントンのドワーフたちも一目置くほどの人物であった。
「(まるで、アリシアみたいだ。)」
「でも、死んじゃったニャ。参加しなくてもいいのに作戦に参加して、力がないのも分かってたはずなのに死んじゃった馬鹿ニャ。」
ミネアも本心では、そんな事は思っていない。兄の性格を考える限り、そんな事をするのは誰でも想像できた。
ミネアの兄は、物探しが得意な人物だったという。どんな些細な物と見えても、誰かにとってはとても大切なものである。それが、ミネアの兄の口癖だったという。だから、薄汚れたぬいぐるみであっても、自分の綺麗な毛並みをドロドロにしてまでも夜通し探すことだって何度もあった。
そして、その仕事をやり遂げた時の笑顔は、どんなに汚れていてもミネアは素敵だと思っていた。
「ニィニは馬鹿ニャ。戦うのはミーに任せればいいのに、無理なのも分かっているのに、ニィニは魔獣と戦う事を選んだニャ。」
それは、警察組織の一員なら仕方のないことだったのかもしれない。先程、例外なく選抜されたといったが、それは無差別に選抜されたというわけではない。志願する人員に制限を問わないというものである。だからこそ、ミネアの兄は志願したのだろう。そうすべきであると彼は信じていたから。例え、自身の命を懸ける結果になったとしても。
ミネアの兄の毛並みは、非常に綺麗な人物であったという。人と接する仕事だから、信用されることが重要だからという理由で、毎日のように毛並みを手入れしていた。水浴びの嫌いなミネアと違い、水浴びが大好きだった。そして、ミネアの毛を梳かすことも毎日のようにやってくれた。水浴びが嫌いなミネアもその時間が大好きだった。
しかし、ミネアの兄のものであろう物品が発見された洞窟には、その毛は残っていなかった。そして、残っていたのは焦
「火山の中はススがいっぱいだし、落し物なんてないし、ニィニが役に立つことなんて一つもないのに。」
ミネアの瞳から零れる一滴の涙が、零れる瞬間をアレクは見逃さなかった。
「ミネア・・・。」
アレクにはまだ失う者の辛さというものは分からない。それ以前に、心の底から失いたくないと呼べるものを持っていない。確かにアリシアや自警団の仲間は大切だ。失いたくないと思っている。しかし、それはミネアと少し違うのもなんとなく理解できる。それは、恐らくアレクはただ、居場所が欲しいだけなのだ。一人ぼっちになることが嫌なだけなのだ。だから、アリシアが大切で、自警団に居たいと思っているからだ。
ミネアに掛けるべき言葉が思いつかない。大切なものを失った者へかけるべき言葉が。
「ニィニが何をしたかったのか、ミーには分からないニャ。何になろうとしていたのかも。でも、ミーはニィニに生きてて欲しかったニャ。立派じゃなくてもいいニャ。尊敬できなくてもいいニャ。ニィニの匂いがミーは・・・。」
ここに人がいなかったことは幸いだろう。ミネアは、感情をあらわに声を荒げる
「ニィニの匂いがミーは大好きだったニャ。だから、逃げてでもいからただミーの傍に居てほしかったニャ。」
聞く話によるとミネアの両親はミネアが幼い時に、その消息を絶ったのだという。獣人族は基本的な子育ては、母親のみが行う。元々メスの出生率の方が人間に比べ非常に高いため、オスである父親は、新しい交配の相手を探すために家族を捨てる。文明に触れた最近は、その限りでもなくなってきたのだが、ミネアの父はどちらかというと古い考えの持ち主だったのか、それともまた別の理由からか、家族のもとを去った。そのことについては、ミネアもミネアの兄もなんとも思っていない。問題は、母となるものの方だ。ミネアは母の顔を知らない。母の匂いを知らない。一番最初の匂いの記憶は、兄に抱かれて太陽が輝く草原の匂いだ。アレクの匂いに近いものだ。
もしかしたら兄も血の繋がった家族ではないのではないか? そう考えたことはないわけではない。ミネアは強いが兄はそうでは無い。ミネアは探し物が得意ではないが兄はそうでは無い。ミネアの鼻は非常に優秀だが兄はそうでは無い。ミネアの毛並みは三毛だが兄はそうでない。
違うところをあげればきりがないが、ミネアにはそんなこと関係ない。ミネアにとってはたった一人の家族。ただその真実があれば十分だ。
「だから、アレク。ミーも討伐に連れてって欲しいニャ。絶対仇をとってやるニャ。」
ミネアは振り返り歩みを止める。アレクの目をまっすぐ見見据える金色の瞳には、一寸の曇りもなかった。純粋な感情がミネアを動かしているのは明らかだった。
純粋な復讐心。
魔獣を殺す。兄の無念を晴らす。無意味な死になどミネアがさせない。
その決意の瞳にアレクが発することのできる言葉は、たった二言だけだった。
「ああ。」
と。
どうも、片桐ハルマです。
定期的に更新していくといった矢先に一月の更新がなく申し訳ございませんでした。
またまた、いい訳になってしまうのですが自身でも展開を思い出すのに多少の時間がかかってしまい悪戦苦闘中です。
二回連続でこちらの更新になってしまいましたので次回は、別のお話を投稿しようと思いますのでそちらもぜひ。
ではまた、




