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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
五章 縁は異なもの味なもの
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頼みごと

―上野城内 朝―

「こりゃぁ……間違いねぇ。最近この国で大流行してる奇病だぜ、藤堂ちゃん」


 僕の枕元の右側で座っている医者が、苦笑交じりにそう言った。疲れているのか、かなり顔がやつれている。しかし、声色は明るい。

 そして、その隣にいる藤堂さんが暗い表情で口を開く。


「はぁ……やはりですか」

「参っちゃうねぇ、しかもこんな時に」

「せめてもの救いは、公の場に出るような行事がなかったこと……それだけです」

「まぁ、そうだねぇ。でもしっかりしとかないと、藤堂ちゃんも、それにそっちの不審な青年も感染しちまうぜ。いい感じの薬もねぇし、熱が下がるまでは、巽様にはなるべく近付かねぇように」

「そうですか……熱は高いんです?」

「三十九度後半、まぁ、今日が一番しんどいだろうねぇ」

「そんなにも高い熱が!? 全く恐ろしい病ですね、この後私にもこの病について教えて頂けませんか、先生」

「先生なんて照れるねぇ、藤堂ちゃん。いいぜ、私が知っていることは全て教えてあげよう」


(知り合いなんだろうか……やけに親しげだが……)


「奇病ってか……インフルじゃねぇの?」


 左側の枕元に座るゴンザレスが、珍しく静かにしていると思ったら、突然口を開いてそう言った。


(いんふる? なんだそれ)


「いんふるって何だ? 不審な青年」

「その呼び方やめろよ。別に好き好んで不審者やってねぇ……インフルってのは、あれだ。インフルだ」

「全く説明になってないぞ、ゴンザレス」

「だって別に俺医者じゃないし……」

「藤堂ちゃん。不審な青年ゴンザレスは、一体何者なんだ?」

「ちょっと変わった使用人です」

「名前つけたしゃいいってもんじゃねぇぞ……不審な青年を消せよ」


 ゴンザレスが、苛々しているのが振動で伝わってくる。膝を畳に何度も小さく叩き付けているからだ。頭にこの振動は毒だ。


「いやぁ、武蔵国には不思議な人が多いと聞いたが、ここまでだとはなぁ……」

「俺は不思議にさせられてるだけだ」


(このままいくと、間違いなく話が厄介になる……どうしたら)


 僕は、藤堂さんをじっと見る。すぐに、その視線に気付いたようで、僕に向かって少し小さくお辞儀をした。


「ごほん……先生、そろそろ行きましょう。あまりここで長話をしていたら、巽様もうるさいでしょうから」

「おぉ、そうだそうだ。申し訳ございません、巽様! しっかり休んで下さいね、じゃあ行こうぜ。藤堂ちゃんと……不審なゴンちゃん」

「糞だな」

「先生に対して失礼だ」

「俺に対しても、かなり失礼だぞ!」

「私は、気に入ったぞ不審なゴンちゃんが」

「……うわぁ」


 藤堂さんと、先生と呼ばれるその人は先に襖の方へと向かう。ゴンザレスは、じっと僕の方を見ている。正直、気味が悪い。自分に自分を見つめられるのは。


(自分に……あ、そうだ)


 自分に見つめられている――通常ではありえないこの光景を見て、僕は閃いた。


「ゴンザレス! 何をしているんだ? 早くこっちへ来なさい」

「分かったってば」


 ゴンザレスは、ゆっくりと立ち上がって藤堂さん達がいる場所へと向かおうと、片足を立てる。僕は、その足を掴んだ。


「あ゛っ!?」

 

 驚いた様子でゴンザレスがこちらを見る。


「ちょっといいか……お前に頼みたいことがある――――」

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