光る宝石
―上野城内 朝―
(嗚呼……もう朝か……)
外はすっかり明るく、自然と目覚めることが出来た。しかし、その目覚めが良かった訳ではない。
頭が痛いのだ。それに体も怠いし、節々が痛い。なんだか寒気もする。
(また風邪か? いや、それにしても風邪とは違うような気がする……)
憂鬱な気持ちで布団へと入り、朝が来ることを拒んだ罰だろうか。いや、そんなことで罰が下るものだろうか。
(それより、琉歌に会いに行かないと、行くって言ったしな……)
僕はゆっくりと体を起こして、なんとか立ち上がる。その時、眩暈が僕を襲った。それが急に立ち上がったせいなのか、今のこの体調のせいなのかは分からない。
この重い体を引きずって、のそのそと畳の上を進んだ。僕の進む一歩は、非常に小さい。さらには、歩く度に来る振動が頭に響く。それでも、僕は行かなければならない。琉歌を悲しい気持ちにはさせたくないから。
平均より長い時間をかけて、僕は襖の前にまで来ることが出来た。
(しんどい……まだここからあそこまでかなりある。でも、行かなきゃ)
僕は引手に手をかけて、襖を開けた。
「ああっ!?」
目の前に人影が見えて、情けない声が漏れてしまった。何と、部屋の前の壁にゴンザレスがもたれかかり、腕を組んで待ち構えていたのだ。格好が不審者そのもので、反射的に驚いてしまったのだ。
「よぉ、死にそうじゃん」
ゴンザレスはそう言うと、僕の前へと歩み寄る。その時、ゴンザレスの身につけていた、あの首飾りの宝石が輝いていることに気付いた。宝石だから輝くのは当たり前だ。
だが、この首飾りの宝石を馬車に乗る前に見た時は、宝石らしさを感じないほど、輝きがなかった筈だ。
「お前、そんなにこのネックレスが好きか? 絶対やらんぞ」
不快そうな声色で、ゴンザレスは言う。
「別にいらないし、興味ない……と言うか、何でお前がここにいる」
(面倒臭いし、顔見るだけで苛々するし、厄介な奴に出会ってしまった……)
「お前さ、熱あるだろ」
僕の質問に答える気など、更々ないようで自分の言いたいことだけをぶつけてきた。
「ない……」
「いいや! 絶対あるね、絶対。お~~い! 誰かぁ! 王様が体調悪そうだ!! 早く来てくれぇ!」
ゴンザレスは、大きな声で叫ぶ。僕はそれを制止しようとしたのだが、すぐに、それをするほどの気力もなくなった。すぐさま、その声を聞いて男性達がやって来た。
「真か!」
「真だよ」
そんなやり取りを男性達とゴンザレスはしている。それ以外にも何か会話をしているようだが、聞き取ることは出来ない。
(ごめん琉歌……行けそうに……ない)
僕は、その場に座り込んだ。もう完全に心が折れてしまい、立つ気力も失ったのだ。
しばらくすると、まだ誰かが現れた。その人物は、藤堂さんだった。
「巽様!」
藤堂さんは早歩きで僕の所へ来ると、じっと顔を見る。
「顔が赤いですね……」
そう言うと、僕の額に触れる。
「酷い熱だ……もしかしたら、この国で流行っている奇病になってしまった可能性もある……あのぉ!」
藤堂さんは、後ろでゴンザレスと話していた男達に声を掛ける。
「何でしょう?」
「この城内で……奇病と呼ばれる病にかかっている者はいるか?」
「あぁ、私の同僚も何人かかかってますし、この城だけでもその奇病になっている者はわんさかいます」
「なるほど……怪しいな。しかし、私はこの病に詳しくない……この城に医者はいるか?」
「えぇ、おります。ちょうど、呼んでこようかと彼と話していた所ですよ」
「では、頼みます」
男性達の内の一人が颯爽と廊下を走り、階段を下って行った。
「よし、ゴンザレス。巽様を運ぶから手伝ってくれ」
「はぁ……しゃーねーな。世話のかかる王様だこと……あ、てことは、俺がこいつになる必要性があるのか!?」
「大きな声を出すな……いや、その必要はない。特に行事もないようだから」
「はぁ!? 俺のあの時間を無駄にするって言うのか!?」
「元々無駄になること前提だったんだ。ゴンザレスは、ゴンザレスの格好のままでいて欲しい」
「……はぁ」
ゴンザレスは、小さく溜め息をついた。
(そうか。特に何もないのは……あの龍の騒動の方で手一杯だからだろう。助かった)
「はい、行きますよ、いっせーのせ」
その藤堂さんのかけ声と共に、僕の体は持ち上げられた。上半身を藤堂さん、下半身をゴンザレスに支えられながら、僕は部屋へと連れ戻された。抵抗の気も起きず、僕はただ天井を眺めていた。




