26.喰奪
クロノは般若に連れていかれる憐れな子羊を見送った後、新たなスキルの実験ついでの暇潰しにエメラルドロックベア単独討伐にチャレンジしていた
グギャォォォオオオオ
「自己主張の強い奴だ」
すでに立ち上がっている熊さんの引っ掻き攻撃を刀で受け流し、横っ腹に廻し蹴りをお見舞し、怯んだところで丸太並みの腕にしがみ付いて噛み付き、そのまま口許が汚れるのも構わず喰い千切って咀嚼し、飲み込む
「何だこの腐った豚肉みたいな味は、どうすればこんな味ができる!HPとMPが回復するとはいえ味はいらねぇよ。それに喰わないと発動しないのが難点だ」
文句を言いながら再度、喰い千切り、HP、MPが全快になるまで続けて離れ間際にアーツで腕を斬り落として熊さんの腕から出血の赤いエフェクトが吹き出す。
「残りのHPもあと2割強・・・想像以上に削れてる。喰う行為自体でのダメージは当然、STR依存か。メール内容から何となく予想してスキル確認しなかったけど合ってるもんだな」
喰奪:敵を喰べることでHP、MPが一回に付き、3%回復。:PS
ウィンドウで確認し、すぐさま閉じる
「っと。熊さん、余所見してたからってそんな恐い顔して」
熊さんの突風のような横凪ぎを涼しい顔で避けて刀を鞘にしまい、指を揃えて構える。
「氣術・一点全集中右手、アーツ・螺貫」
カウンターに右手に青白い光を帯びたまま突き入れ、柔らかい湿り気を感じる頃に熊さんは声を上げる間もなく硝子片のように霧散した
ポーン
「単独討伐完了。案外、できるもんだな」
レベルも上がって18か。一人ゴチりながら、素材をチェックしてほくそ笑む
「ただいま~、エミル。今、大丈夫か?」
熊さん討伐後、すぐにギルドに戻りエミルを呼び出す
「おかえりなさい。何かしら?」
呼び出しに応じてすぐに顔を出してくれたが声音にやや不機嫌そうな色が含まれている
「何か、あったか?」
「何もないわ。単純にボスの素材が無くてこまってるだけ」
「それなら、素材入れ見てみろ。驚くぞ」
エミルは早速、中身を確認すると
「有言実行が早過ぎて驚くのを通り越して呆れるわ」
額に手を当て、大きく息を吐いた
ちなみに手に入れた素材はこんなモノだ
・岩熊の躯
・岩熊の魔魂
・闇の塊
の3つだけだが通常ドロップでは確率が著しく低いので良いものである
「酷い仕打ちだ。苦労して手に入れたのに」
「期待以上の働きに反応が出来なかっただけよ。素材引き取るついでに武器を貸しなさい」
「耐久値ならまだ、大丈夫なんだけど」
魔改造でもする気か?
「私はそんなことしないわ武器に属性が付けられるように準備するだけ・・・いらないならそのままになさい。属性なしで戦うだけよ」
今、断ったら絶対にしないつもりかよ。殆ど、脅しだな
「頼む」
「了解」
エミルは武器を持ってそのまま、自室に戻り十分もしない内に戻ってきて受け取る
「?」
刀も銃も見たけど、これという変化が本当になかった
「刀は鍔と柄の間に、銃は銃把と弾倉の間に魔石を組み込んだわ。これで属性持ちのモンスターを倒したらその属性が魔石に蓄積されて溜まりきったら属性持ちの武器になるわ。これはモンスターのリスト」
渡された紙に目を通す
北で戦ったっていうか逃げたリトルビー、ビッグビーは風、ホワイトスパイダーは土属性か。そんなのはどうでもいいんだけど炎はセキアントとニルキャタ、闇はイベントモンスターの大鬼とダストモス・・・よく調べてるな
「私も必要だったからついでよ」
「サンキュー。お前は属性何するんだ?」
「土かしら。貴方は」
「闇と炎」
「中二病でも患ってるの?」
「単純に火力重視だ。ファンタジーだと大体、そういうのって多いだろ?」
「そ、そうね・・・」
引かれてる。俺、中二病じゃないから!俺の右手が闇に侵食~とか言わないから!
「言ってたらもっと距離とって私、河川敷で寝起きするわ」
「うわ、リアル拒否して自ら不自由なところに行ってるのはいいのか?」
「それくらい、嫌と言うことよ」
「あっそ」
「そろそろ~話に入ってもいいですか?」
一旦、話に切りがついたと思ったら
「「ミズキ!」」
「二人ともそんなに驚かなくても私、結構前からいましたよ!大体、クロノ君が中2病を患ってるっていう件くらいから。二人とも話し掛けても私に気付かなくてずっとスルーされて話に切りが付くまで隅っこで大人しく体育座りして床を温めてました!」
ミズキは余程、淋しかったのか若干、涙目になっている
「すまん。影が薄くて気が付かなかった」
「はうっ!」
「御免なさい。ミズキが見えてなかったわ」
「ぐはっ!・・・二人して私の精神面を削って愉しいですか!」
「「素直な気持ちで謝ったんだけど」」
「ぶへら!」
コイツ、さっきから何がしたいんだ?
「で、話したいことは?」
「私、この世界の神様になります!」
イベントのことか。じゃなければ林檎好きの死神が近くに・・・
「おう、頑張れよ!」
「反応が薄いです。もう少し、それらしい応援を」
そんなジト目で言われてもな
「人間やめるからアテンの同属を応援する気ねぇよ」
「私は応援しますよ。人間離れしてるのに原型まで棄ててガチで化物ですって!」
「それは応援と言えないだろ」
なんというか・・・なんだろ?
「もういいです。クロノ君が鬼になったら精一杯、生まれたての子鹿みたいに足を震わせてビビります」
「・・・」
何だよ、その逆ギレ。ワケわからん誰か、助けて
「その子鹿ポジションはあたしの役だからミズキには譲れないよ!」
さも、待ってました!と言わんばかりにギルドマスター参戦って・・・般若さんに何か、弄られたのか?
「私は何もしてないわ。ミヤビにどれだけ弱虫が大切なことかという話をじっくり、話聞かせただけよ」
「弱虫が悪化してるじゃねぇか。ほら、何だよあれは!」
「ミズキ、子鹿ポジションというのはね、足をプルプルと震わせて・・・」
嬉々とした表情で子鹿ポジションについて語るミヤビは目が虚ろで口許がニヤニヤして恐ろしく
「クロノ君、エミルさん助けてください!ミヤビさんが子鹿ポジションについて語り始めて止まりません」
ミズキが涙目で助けを求めている
が
「私はそろそろ部屋に戻って岩熊の躯から何を作るか考えるわ」
「そうか。俺はリストに従って炎のモンスターでも刈って飽きたら落ちることにする」
「頑張りなさい、素材のために」
「おう!レベリングついでにな」
二人はミズキの訴えを流して、エミルは自室に、クロノはモンスター狩りに戦略的撤退する
「誰か、助けてください~」
ミズキの声がギルドホームを空しく木霊するのだった




