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無情の魔術師  作者: 情緒箱
第四章:授業編
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第三十二話:茶葉

 レティーラ王国屈指の三大名門校の一つ、貴族学園のセレスティナには、他の学校にはない科目がいくつか存在する。

 それは社交礼法、社交ダンス、お茶会の三つだ。

 社交礼法と社交ダンスは男女ともに、社交界では重要なものだが、お茶会は男女ともというより、女子の重要度が高い。

 それゆえお茶会の授業の割合は女子が多く、男子が少なくなる。

 そんな男子には少ないお茶会の授業がミリアに迫っていた。


 * * *


 ミリアはあの茶会の件から一週間ほど、自室で療養していた。

 この一週間は監査の仕事も免除されていたため、ニナとモナカに、お茶会の魔道具の件を離したり、動けないミリアに変わって、モナカとニナに所持者の捜索をお願いしていた。

 特にニナは何も職に就いてないため、躍起になって調査してくれたが、情報は得られなかった。


 そうして一週間が過ぎた後、お茶会の授業がミリアに迫っていた。


「面倒くさすぎる。 明後日なんてもう準備できないじゃないか」


 ミリアは寮部屋でニナ達に愚痴っていた。


「準備できないなんて言っても、茶葉ぐらいあるだろ? だったら明日ぐらい別に準備しなくてもいけるんじゃないのか?」

「馬鹿ねネロは。 ミリアはこの一週間ずっと寝てたんだから準備してあるわけないでしょ? それに唯一あった茶葉もほぼ使い切ってるんでしょ?」


 ネロとメロはさぞ愉快そうに他人事のように話している。 いや、実際他人事ではあるが。

 ニナはそれを聞きながら、う~ん、と考えている。


「それじゃあさ、イザベル様に茶葉もらわない?」

「…それはイザベル様に迷惑じゃないか?」


 ニナの意見はいい案だが、ミリアの心配ももっともであった。

 そもそもミリア達はイザベル嬢もといバルドン伯爵家に協力してもらっている立場だ。

 いかにバルドン伯爵家がミリア達に協力的だといっても、頼りすぎるのは良くないし、迷惑だ。 それに、思い入れがあると、いざとなったときに感情的に判断してしまうかもしれない。


「イザベル様って、『今のわたくしでは、悪役令嬢としてふさわしくないですわ!』って言って、今も私たちのために、悪役令嬢ぶりに磨きをかけてるんだから、大丈夫よ」


(悪役令嬢ぶりに磨きをかけるというこれから一生聞かないだろうという言葉)


 ミリアは、できればもう聞きたくないな、と思いつつ、ニナをジト目で見つめた。


「それにモナカだって、協力してもらってる東部のザガン伯爵家のルータ嬢に茶葉をもらってるわよ」

「そんなもんか? …ニナ、いつの間にモナカと仲良くなってた?」

「ん? ミリアが寝込んでたこの一週間でだけど?」


 ミリアは、一応、自分と同類の真面目枠のモナカが茶葉をもらっていたということに些かの不安を覚えつつ、それ以上にそれを聞けるほど関係が良くなっているニナとモナカに驚きを隠せなかった。


「じゃあ、貰いに行くか」

「ん! ミリアはここで待ってて。 私が行ってくるから」


 ニナは飛び出した。

 ルンルンに、跳ねるように。


(大丈夫か?)


 * * *


 ニナはイザベルの寮部屋に着くと、カンカンと扉を叩いた。


「どうぞ」

「失礼します」


 ニナがイザベルの部屋に入り一番に思ったのは、趣味良いな~、だった。

 イザベルの部屋は無駄のない形になっており、置かれている小物はどれも綺麗だが、一つ一つが派手でなく、全体の協調性が計算されたうえで設置されている。


「オーッホッホッホ!!

 貴方、ノックするときにカンカンといった音を響かせて、どうっいうつもりですのー!」

「すみませんっ!」


 ニナがノックしたとき、扉はカンカンと響かせていたが、カンカンなど普通に考えて、扉が出す音ではない。

 どうノックすればなるのか、扉の制作者も首をかしげるだろう。


「では茶番はこれほどにしておきまして、ニナ様、本日はどのようなご用件でしょうか?」


 イザベルは悪役令嬢の姿を引っ込め、おとなしい声で言った。

 事情を知っているニナでも驚く急変ぶりである。


「実は、ミリアは明後日お茶会があるのですが、その時に出す茶葉がどれがいいのか分からず…こうしてイザベル様に頼ろうとした次第です」

「なるほど…ニナ様、茶菓子の指定はありまして?」


 お茶会の授業では、茶菓子に合った紅茶を選ぶことも評価に入る。

 ニナがバームクーヘンだと伝えると、イザベルは数秒思案したのちに答えた。


「バームクーヘンでしたら、さっぱりとした紅茶か、渋みのある紅茶が合うのではないでしょうか」


 さっぱりした紅茶ならバームクーヘンの甘味に疲れたときに、渋みのある紅茶なら甘味を引き立たせるときにその特徴が発揮される。

 イザベルはそれを説明した後、こう伝えた。


「ですが、正直言って、茶葉にはセオリーとマナーはあれど、明確な正解というのは存在いたしません。

 しかし、逆に明確な不正解はありましてよ」

「ふ、不正解?」


 ニナが息を吞みながら言うと、イザベルは凛とした表情で答えた。


「誰かと茶葉がかぶることです」


 お茶会では各々別々の茶葉を持ってきているのだ。他の人と茶葉がかぶれば空気が悪くなってしまう。


「ちなみに、ミリア様のお茶会のメンバーはご存じでしょうか?」


 ニナは、ミリアのメンバーが書かれた紙を思い出した。

 机に置いてあったので、盗みておいたのだ。


「え~っと、運営会所属のディバードさん、生徒会所属のニーアさん、最後にライさんですね」

「…そのメンバーとは、ある程度親交もありますし、ふるまうだろう茶葉も大体分かります」

「本当ですか!」


 ええ、と返事を返しつつ、イザベルは侍女を呼んだ。

 そしてイザベルが侍女に耳打ちすると、侍女は早歩きで棚に向かって行った。


「ご安心を、この茶葉なら、当日に誰とも被ることはないでしょう」


 イザベルは、そう言って戻ってきた侍女から茶葉をもらい、ニナに差し出した。


「こちらになります。 …ミリア様に、ライ先輩はかなり癖が強いお方ですので気を付けてください、と伝えておいてください」

「? はい、分かりました。 あおれでは、失礼いたします」


 ニナはそう言って部屋を出た。

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