第三十一話:魔力中毒
表庭は騒然としていた。
突如として、ミリアが倒れたからだ。
ミリアは顔を真っ青に染めながら不自然な呼吸を繰り返している。
「お、俺たちは、な、何もしてないからな!」
ミリアと同席していた男子生徒たちは、責任逃れに取られる言葉をわめく。
突然倒れたミリア、大声を出した男子生徒。 当然外野は集まってくる。
そんな外野を押しのけ、二人の生徒がミリアの下に駆けつけてきた。
「どいてくれるかな? …ホルン、監査君の症状は?」
「体温が以上に熱く…この様子だと、吐き気に頭痛、幻覚も見ているとなると、おそらく魔力中毒でしょう」
運営会事務のディバードと運営会実務のホルンだ。
「魔力中毒ぅ? 紅茶なんかでなるのか?」
「そんな症状を引き起こす紅茶なんてないわよ。それ以前に、そんなものが商品化を許されるわけないでしょう?」
「それもそうだな。 んじゃ、あんたら、監査君に何か盛ったのか?」
「し、知らない。 お、俺たちは、何も盛ってなんかない! ほ、本当だ!」
(ふ~ん? 知らないねぇ…)
そう彼らが話し、ディバードが怪しんでいる最中も、ホルンはミリアの胃から紅茶を吐き出させようとしている。
舌の奥を刺激しているが、苦戦している。
「ディバード、会長か、生徒会副会長、生徒会長の誰かと、職員を呼んできて」
「了解」
ディバードが走り出し、ホルンが作業を続けている間でも外野がまだうるさく感じる。
「外野うるさい! 喚くぐらいなら、医務室の先生と水とホットミルクでも持ってきなさい!」
* * *
ミリアが起きると、最初に見たのは真っ白な天井だった。
「あ、起きた!」
「み、みみ、ミリア…だ、大丈夫?」
頭痛はまだかなり残っている。
次に聞こえ、見たのはニナとモナカだ。
「起きたばかりなので、少し静かに、してくれませ…っく、はあ」
ミリアが注意をしようとすると、吐きかけた。
そうやら吐き気の症状も収まっていないようだ。
「…ああ…ミリアさんの症状は、重度の魔力中毒ですね。 ボクも一応基礎魔術学を受講しているので、貴方が倒れた後に、紅茶の魔力濃度を簡単に検査したんですが、かなり高い数値になりました」
「つまり、監査君の天性の魔力耐性の高さで耐えれたってことになるな」
ミリアが倒れたのは、予想していた通りやはり魔力中毒によるものだったようだ。
ミリアはラークよりも重い魔力過剰吸収症状を患わっているため、魔力の摂取スピードがとても速い。
そのため今も、余分な魔力を魔道具に流しているが、体内に直接取り込んでしまった魔力は排出することができない。
「水を飲み込ませて吐き出させました。 あとこれどうぞ」
ホルンに差し出されたコップの中身を飲むと、温かくほのかに甘かった。 ホットミルクだろう。
「今飲んでいただいたホットミルクで、胃の粘液が保護出来ます。飲み物を飲みたくなったらホットミルクを飲んでください。
ちなみに固形物を食べたら吐くので食べないでください」
「はい」
ミリアが短く返事をした後に、ディバードが話し始めた。
「魔力中毒になった原因について話そうか。
まず、魔力中毒になるような魔力中毒の高い紅茶はそもそも商品化・販売化が認められてないわけで、当然異物混入が疑われる。
ただ、患者君を茶会に誘った男子生徒3名は事情聴取と部屋の捜索を、生徒会会長・副会長、運営会長・副会長が行ったんですが、ブツがどこにも無かったんだよな」
「不思議ですね」
どうやら男子生徒たちが持ったわけでも、紅茶自体の魔力濃度がもともと高いということもないようだだ。
となると考えられるのはー
(『晩鐘』か『流環』か…それを改良して弱体化させた魔道具か…)
『晩鐘』は魔力を吸収し放出する魔道具だ。 ミリアが飲む紅茶だけを狙っての発動が妥当だが、それにしては魔力濃度が低すぎた。
『流環』は周囲の水を、注入した魔力の文だけ操れる魔道具だ。 それならば、魔力量が少ない人でも十分にミリアを狙える。
(どちらにしろ、学園内にいるな)
「監査君?」
「あえっ?」
ミリアが考え事をしているとディバートから声をかけられた。
思わず巣の反応が出てしまった。
「はあ…あの紅茶変な味、変な匂いがしていたでしょう?」
「あ、はい」
「味覚と嗅覚はもともと命の危機管理のためにあるの。だから、これから変な感じがしたらすぐ吐き出しなさい」
「すみません」
本当に気を付けてね、というくぎを刺さした後に、ディバードとホルンは医務室から出た。
「み、ミリア、だ、大丈、夫?」
「ん、大丈夫」
「ミリア、だからお茶会誘われた時は私も連れてって言ったじゃん」
「ん、ごめん」
ミリアはまたもや適当に返事を返しつつ思案していた。
(あの男子生徒たちが持っていないなら、紅茶を作る保管庫か?
いや、紅茶用の水は共有。それならほかの生徒も魔力中毒になってないとおかしい)
「…二人とも」
「なぁに」
「ん?」
「部屋で、魔道具関連の話しよう」
* * *
フィリップとセフィルは資料室で話していた。
「先ほど、モナカ嬢から聞いたんだけど、ミリア君は今回のことを大きくしたくないと言っていてね」
「まあ、十中八九、彼らとは関係のない、部外者が起こしているでしょうしね」
彼らというのはミリアと茶会をしていた男子生徒たちのことだ。
フィリップ、セフィル、ラーク、オベールで現場・寮のどちらも調べたが、何も見つからなかった。
「魔力中毒なんて、紅茶の異物混入程度で起きるはずがない。 例の件が関与している可能性も考えたほうがいいかもね」
「…私たちが入れる場所はすべて見ました。 それでも魔道具が学園内にあるというなら、あの『結界の魔術師』が注意するほどの危険物である魔道具を、生徒が持っているということになりますね」
セフィルが美しくため息をつくと、資料室は陰鬱な空気に変わった。
『結界の魔術師』はよほどのことではないと、注意をしない。
勿論セレスティナは国内の重要施設なため注意自体は割とあるのだが、彼があの気迫で注意するほどだ。
よほど危険なのだろう。
(あれが嘘だとも思えませんし…)
『結界の魔術師』が嘘をついた可能性も考えたが、あの気迫では嘘もないだろう。
となれば、生徒が魔道具を持っている可能性が一番高いという、身の毛もよだつ可能性に、セフィルは久々に戦慄した。
「個人が所有しているなら、私たちがうかつに探るのは彼らを刺激してしまうでしょう」
「そうだね。この件はライクネット教諭に報告した後、外させてもらおうか」
意見が一致したところで、セフィルはコーヒーを飲んだ。
交渉権を持つ者たちは、裏にそれぞれ飲み物に関する技術を持つ家がいる。
第一王子はココア、第二王子は紅茶、第二王女はコーヒーといった感じだ。
つまり、これは牽制でもある。
(もっとも、この男には通じないと分かっていますがね)
現に、フィリップはさも気づいていないかのように優雅に紅茶を飲んでいる。
(まあ、食べ物関係でこの男が派閥を意識していないことは知っていますが)
「それじゃあ、僕はこの辺で失礼するよ。 まだ生徒会の仕事が残っているからね。
…セフィル、君はまだいいのかい? トランペット嬢からは忙しいと聞いていたけれど」
「私はここに来る前にほとんど終わらせていますの。 少しくらい休んでも罰は当たらないでしょう?」
そうだね、とフィリップは答え、資料室を出た。
「…あの男もあの男で、アズノール公爵の手の及ばない駒に場を整えていますね。 アズノール侯爵以外に自分だけの味方を付けたいのか、もしくは…」
セフィルはコーヒーを飲み、そしてまだ立ち上っている湯気を見、香ばしいコーヒーの匂いを嗅いだ。
「まあ、余計な詮索はしない主義なので、安心してください、トカゲ君」
セフィルの目線の先には白いトカゲがいた。
* * *
フィリップは生徒会室に戻った。
「殿下、お疲れ様です」
「ありがとう、ラーク」
気遣いの利くラークは水コップを出し、フィリップは素直にもらった。
ラークはフィリップが紅茶の後に水を飲むことをよく知っているのだ。
ちなみに、魔道具関連の話は生徒会でもフィリップを除けばニーアしかいない。
なので彼らには、「少し休憩してくる」とだけ伝えた。
(あの女も、なかなかの食わせ物だね。 全くといって隙を出さない)
フリップは席に座り仕事を進めつつ思案した。
そう、セフィルは何を考えているかわからないず隙も見せない。
見せてきたと思えばそれはこちらを誘い出す罠だ。
そんな狡猾な女狐は、さらにフィリップの秘密ー唯一の弱点に気づいている節がある。
(ウェンに監視させていても、彼女はボロを出さない。 それほどともなれば恐ろしいね)
そんなことよりもだ。
(今回の事件。 さっきはあくまで可能性の話として出したけど、やっぱり魔道具が十中八九関与しているだろうね)
その犯人の目的が、自分かセフィルの暗殺か、それ以外なのかはわからないが、警戒はしておいたほうがいいだろう。
(最近は胃が痛くなる要素が増えたな。 僕の趣味も楽しめたもんじゃない。
…今回、ミリアは案外ケロッとしていた。 普通、自分が死にそうになったらそれ相応に怖がるはずなんだけどね。 かなり肝が据わっている)
少し利用価値があるかも、と思いつつ、具体的な案が出せないまま、フィリップは資料の確認と記載を続けた。
※吐かせ方については、作者が勝手に「こんな感じか?」ぐらいで書いてるので真面目に受けらないでください。
※誤飲などは、物によっては吐かせないほうがいいものもあるので、医師の指示に従ってください。




