第6話「広がる波紋」
俊が投稿した一枚の写真は、思いのほか大きな反響を呼んだ。
空から見下ろした畑に描かれた「川を流れる桃」のシルエット。そして、その横に風に揺れる「がんばれ桃太郎!」の旗。写真には、園児たちの笑顔と隼人たち四人の姿も写っていた。
「これ、すごくない?」
「畑でアートとか新しい!」
コメントはあっという間に数百を超え、シェアも拡散も止まらない。都会の若者や、農業に関心を持つ人たちの目に留まり、「現地に行ってみたい」という声まで届いた。
――本当に広がってる。
タブレットの画面を見つめながら、隼人は実感に胸を熱くした。
だが一方で、町の反応は複雑だった。
「まあ、余ってる畑なら好きにすりゃいいさ」
「でも、あれが本当に観光になるのかねえ」
「一時の遊びじゃねえのか」
冷ややかさ一色だった空気は、ほんの少し和らいだ。けれど、まだ懐疑のまなざしが強い。成功するかどうかは、誰も信じていない。
そんな中、週末になると町外からぽつぽつと人が訪れるようになった。カメラを抱えた大学生グループ、家族連れ、さらには「ちょっと手伝わせてください」と軍手をはめてやって来る青年もいた。
「うわ、ほんとに桃が流れてるみたい!」
「写真より実物のほうがいいね」
子どもたちが歓声をあげる姿に、隼人は胸の奥がじんわりと温かくなった。
作業も少しずつ賑やかさを増していった。亮は相変わらず黙々と力仕事をこなし、俊はドローンを飛ばしては新しい角度から撮影する。美咲は園児たちを引率し、畑の一角に「子どもゾーン」を作り、花を植えさせた。そこにはカラフルなチューリップやパンジーが並び、桃太郎の物語とは別に、子どもたちの「小さな庭」ができつつあった。
夕暮れ時、隼人はみんなと畑を見渡した。
「……こんなふうに賑やかになるなんて、想像してなかった」
すると俊がすかさず笑う。
「だから言ったじゃないっすか、バズるって。外の人は“新しい田舎の遊び方”を求めてるんすよ」
亮が苦笑しながら肩をすくめる。
「まあ、俺たちは遊びじゃなくて本気だけどな」
隼人は頷いた。確かに今は“遊び”に見えるかもしれない。けれど、この光景の先に広がるものを考えると、ただの遊びで終わらせたくはなかった。
――桃太郎が完成したら。
脳裏に浮かぶのは、白雪姫の城、浦島太郎の竜宮城、シンデレラのカボチャの馬車。物語の世界を畑で描けたなら、町全体が「絵本の村」になる。子どもも大人も観光客も、一緒に物語をつくり、楽しめる場所。
「なあ」
隼人はふと声をあげた。
「桃太郎を完成させたら……他の物語もできると思わないか?」
俊が目を輝かせ、美咲が驚いたように隼人を見る。
「白雪姫とか、浦島太郎とかさ。畑ごとに物語を描いていったら、この町全体が一冊の絵本になる」
言葉にしてみると、自分の胸が高鳴るのがわかった。夢物語かもしれない。けれど、目の前の仲間たちは笑って受け止めてくれた。
「いいっすね! “絵本の村プロジェクト”!」俊がすぐにカメラを構え直し、「今のコメント、保存っす!」と茶化す。
美咲も「子どもたち、大喜びしますよ。毎日違う物語を見られるなんて」と目を細める。
亮は照れくさそうに頭をかきながら言った。
「やることがどんどん増えるな。でも……悪くない」
風が畑を渡り、夕焼けが川のラインを赤く染めていた。
まだ完成には遠い。けれど、夢の先に広がる可能性は確かに見え始めていた。
――これは町を変えるかもしれない。
隼人は拳を握りしめ、強く心に刻んだ。




