第5話「町のざわめき」
三枝さんの畑に集まった四人――隼人、亮、俊、美咲は、いよいよ本格的な作業を始めていた。
雑草を刈り、畝を立て、種や苗を植えていく。亮は力仕事を率先して担い、俊はドローンで撮影しながら「ここはもうちょい密度が必要っすね」とアドバイスを飛ばす。美咲は園児たちを連れてきて、小さな手で土をかけさせてくれた。子どもたちの笑い声が響くたび、畑は少しずつ賑やかになっていった。
「これで川のラインが見えてきたな」
汗を拭いながら亮が言う。隼人は空を見上げるドローンに目をやり、胸の奥で小さく頷いた。
――夢が形になり始めている。
俊が撮影した写真や動画は、すぐにSNSに投稿された。空からの映像には、まだ不格好ながら「川を流れる桃」のシルエットが浮かび上がっている。
「#畑アート」「#桃太郎プロジェクト」
軽いノリで付けられたタグとともにアップされた映像は、都会の友人たちから「面白い!」「こんな田舎なら行ってみたい!」とコメントが寄せられた。
だが、町の空気は違った。
「畑を遊び道具にするなんて、何を考えとるんや」
「先祖が守ってきた土地を、子どもの落書きみたいに使うな」
八百屋の店先や公民館の縁側で、冷ややかな声がささやかれた。耳に入るたびに、隼人の胸は沈んでいった。
その夜、祖父母の家の縁側で、一人スケッチブックを開いていた。描いた線はぶれて、思うように進まない。
――俺は間違ってるのか。
夢を追うことが、ただの自己満足に過ぎないのかもしれない。
そんな折、翌朝畑に向かうと、見慣れない旗が立っていた。竹の棒に布をくくりつけ、子どもの字で大きく「がんばれ桃太郎!」と書かれている。絵の具で描かれた桃のイラストも添えられていた。
「これ……」
美咲がにっこり笑った。
「子どもたちが勝手に作って持ってきたんです。応援したいんだって」
隼人の喉が熱くなった。子どもたちの小さな声援が、心の迷いを吹き飛ばすようだった。
俊がその旗を写真に収め、またSNSに投稿した。
「地元の子どもたちが桃太郎を応援!」
キャッチーな一文が添えられたその投稿は予想以上に拡散し、県外の人たちから「見に行きたい」「手伝ってみたい」というコメントが寄せられるようになった。
畑に立つ隼人の耳に、まだ町の冷ややかな視線は残っている。けれど、遠くから差し込む光も確かにあった。
「……俺たちの物語は、きっと町を動かせる」
つぶやく隼人に、亮がニヤリと笑って返した。
「鬼退治も近いかもな」
「鬼退治?」
美咲が首をかしげると、俊がカメラを回しながら茶化すように言った。
「そりゃあ、この町の“鬼”っすよ。頭の固い大人たち」
冗談めかした言葉に、隼人はふっと笑った。だが心の奥では、その言葉が妙にしっくりきていた。
夕暮れの畑。まだ途中の川と桃の絵の横に、子どもたちの旗が風に揺れていた。
その小さな布切れが、町を変える第一歩になるのかもしれない。
隼人は強く拳を握りしめた。
――桃太郎の物語は、確かに進んでいる。




