第4話「犬・猿・キジを探せ!」
「犬、猿、キジを見つけなきゃ、物語は進まない」
夕暮れの畑で隼人は呟いた。亮がドローンを片付けながらニヤリと笑う。
「俺は犬役って決まってるからな。残り二人、探してこいよ」
「軽く言うなよ……」
隼人は苦笑しつつも心を固めた。桃太郎が鬼ヶ島へ向かうとき仲間を集めたように、自分も仲間を探さなければならない。畑を彩る夢は、一人では到底実現できないのだから。
翌日、隼人は地元の青年団の集まりに顔を出した。町の祭りや清掃活動を仕切っている、いわば若者たちの中心グループだ。
「実は……畑に桃太郎の物語を描こうと思ってるんです。花や作物で絵を作って」
勇気を振り絞って説明したが、返ってきたのは冷ややかな反応だった。
「そんなことに時間使うなら畑仕事手伝えよ」
「遊び半分で農業やるなよ」
鋭い言葉が突き刺さる。胸の奥に重苦しい孤独が広がり、隼人は俯いたまま会場を後にした。
――また、笑われた。
夢を口にするたびに壁にぶつかる。けれど、もう諦めるわけにはいかなかった。
数日後、亮に誘われて町のカフェに行ったときのことだ。店の一角でパソコンを広げている青年が、隼人たちの会話に耳を傾けてきた。
「畑に桃太郎? それ、めちゃくちゃ面白いっすね!」
人懐っこい笑顔を浮かべたその青年は、地元に移住してきたフリーカメラマンの俊だった。東京で映像制作の経験があり、今は自由に面白いものを撮りたいと活動しているという。
「空から撮れば映えるし、SNSでバズるかも。俺も混ぜてくださいよ!」
軽快な調子で話し、隼人や亮を引っ張るように盛り上げる。少しお調子者だが憎めない性格。隼人は思わず笑った。
「猿役、決まりだな」
亮が肩をすくめて言うと、俊は大げさに胸を叩いた。
「よっしゃ! 俺が賑やかし担当っすね!」
思いがけない仲間が増え、隼人の心に光が差した。
さらにもう一人。幼稚園を訪れたとき、子どもたちの担任である保育士の美咲が声をかけてきた。
「隼人さん、本当に桃太郎を描いてくれるんですか?」
「はい。まだ小さな畑だけど……」
不安げに答える隼人に、美咲は柔らかく笑った。
「子どもたち、毎日その話をしてるんですよ。もしよければ園児と一緒に花を植えさせてもらえませんか?」
「えっ、いいんですか?」
「小さな手でも、夢を作る力になれると思うんです」
真面目でお世話好きなその姿は、まるで物語のキジのようだった。小さいけれど、確かに声を届ける存在。隼人は胸が熱くなった。
夕方、畑に四人が集まった。隼人、亮、俊、美咲。まだ頼りない布陣かもしれない。それでも、畑を見渡す隼人の胸には確かな高鳴りがあった。
「これで……桃太郎が動き出せる」
俊が笑いながらカメラを構える。
「チーム桃太郎、結成ですね!」
亮が犬の真似をして吠え、美咲は呆れながらも微笑んだ。
隼人も笑った。胸の奥に、孤独ではないという温かさが広がっていた。
夕焼けに染まる畑で、四人は肩を並べて立った。
まだ絵は未完成。まだ物語は始まったばかり。
けれど確かに「仲間」が集まり、桃太郎の物語は少しずつ現実になり始めていた。