第44話 マロニー、大地に立つ
「ふむ、やはりこの町でも勇者カクズンの能力の「被害者」が多かったのですね」
「ああ、この洋児くんも被害者の1人だ」
マロニーさんと王都の国直営冒険者ギルドのマスターであるグレイさんが会話している。
馬車の中で窮屈な思いをしながら。
決して小さい馬車ではなく、割と上等な箱型タイプのやつだけど、若干人数がオーバー気味だ。
グレイさんの隣に座るのは、女性的な顔立ちの僧侶っぽい男の人。
確かセイルさんだったっけ。
対面の俺たちはマロニーさんを真ん中に、右に俺、左にブランさんが座っている。
ちなみに戦士のヴァーミリオンさんと魔術師のマゼンタさんは外の後部座席に座っている。
もちろん意地悪でハブっている訳じゃない。
当人2人以外の全員満場一致で、2人の恋路を応援する為だ。
馬車がもう一台あれば、そちらに2人を閉じ込めていただろう。
俺たちマロニーサイドの者だけでなく、グレイさんセイルさんも素敵スマイルで2人を隔離したのが印象的だった。
みんな他人の恋バナが好きよねえ。
「噂はチラチラと耳にしていましたが、まさか本当にスキルを奪う能力をカクズンが持っていたとは」
ため息と共にそうグレイさんが愚痴るように言う。
しかし意外な事に、マロニーさんは平然とした顔でその言葉を否定した。
「アレはスキルを奪ってるんじゃないよ。いやまぁ、ある意味では「奪って」いるかもしれないけど」
「な……それは一体どういう意味で──」
グレイさんが言いかけたところで、馬車がガタンと揺れて止まった。
すぐに馬車の扉がコツコツと叩かれて、ヴァーミリオンさんの声がする。
「マロニーさんグレイさん、伝令の早馬が来ている。出てきて貰ってもいいか?」
すぐにマロニーさんとブランさんが外に意識を集中した後、お互いに顔を見合わせて頷き合う。
そしてグレイさんとセイルさんへ囁くようにマロニーさんが言った。
「おかしな物音は聞こえない。山賊に囲まれてる訳じゃないと思う」
「さすがエルフの長耳。外の物音でそこまで分かるの凄いな」
今まで何度か見た光景ながらも思わずそう漏らした。
ブランさんが苦笑いしながら「馬鹿ね」と俺に返す。
その間にもグレイさんはマロニーさんの言葉に首を縦に動かして、馬車のドアを開けていた。
「冒険者ギルドマスター・グレイ。こんなにも早く出会えて幸運です。神は我々を見放していなかった!」
「余計な言葉はいらん、まずは要件を」
ボロボロの様子の伝令に何かを感じたのか、グレイさんは厳しい顔で話を促した。
ホッと安心した表情になっていた伝令も、つられて顔を引き締める。
「スパッタリングの町に魔物の大群が現れて襲いかかってきました。魔族の姿も多数確認。もう1人の勇者をお連れでしたら防衛に力を貸していただきたい」
「まさかあちらの方へ戦力を差し向けるとは! ……マロニーさん済みません、御助力をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「……この状況では断れないですな」
伝令の報告を受けたグレイさんの言葉に、渋々ながらもそう返答を返すマロニーさん。
伝令のそばに立ってたヴァーミリオンさんが、嬉しそうな顔で「さすがはマロニーさん」と笑った。
あれ? これって異世界ファンタジー定番の、魔物の集団暴走展開じゃね?
*****
そのまま王都へ報告に行くと言う伝令兵と別れ、魔物に襲われているという町へ向かう。
近づくにつれて、避難してる人々が見え始めた。
身なりの良さそうな騎士たちが率いる、こちらのよりも豪華そうな箱型馬車。
襲われている町の上層階級とか領主の人たちなんだろう。
次に徒歩で避難してる人々。
それでも身なりはそんなに悪くはない。
外の避難民を見るそんな俺に気が付いたマロニーさんが、呟くように解説した。
「貧乏人や下層の人間は、こういう場合たいてい避難できない。避難を実行できるだけの資産……金が無いからな」
「そんな……」
「いつの世もそれが現実だ。ありきたりの言葉だが、いつも犠牲になるのは弱い者って事」
時たま出てくる、マロニーさんの冷たく突き放すような物言い。
思わず隣に座る片目のエルフを見る。
マロニーさんは腕組みをした腕に力を入れて、顔を顰めて渋い表情で外を眺めていた。
なんだよ、マロニーさんも結局そういうのが嫌いなんじゃないか。
俺へ大人の心構えのつもりで言ったんだろうけど、それでも素直じゃないなぁ。
ふとマロニーさんの向こう側を見ると、ブランさんも苦笑いしながら片目のエルフの顔を眺めている。
俺の視線に気が付くと、困ったような表情の笑顔でこちらを見返してきた。
どうやら彼女も同じ気持ちらしい。
町が近づくと城壁が見えてきた。
確か中世ヨーロッパでは、ある程度の大きさがある町だと周囲を壁で囲うものなんだっけ。
この世界でもそれは一緒みたいだった。
だけど立ち昇る黒煙が、そんな異世界ファンタジーな印象を最悪なものに変えている。
町に着いて入り口に向かうと、まだ逃げる避難民でごった返していた。
マロニーさんは馬車から飛び出す。
城門入り口で怒声をあげて人々を整列させている兵士に、こちらも負けじと大声で話しかけた。
「この町の状況は!?」
「誰だ貴様!?」
「マロニーという者だ! この町からの伝令兵に道行く途中で出くわした!」
「マロニー……だと!? 貴方が噂の……」
「挨拶は要らん、状況は!?」
「あ、は、はい! 東の方角より魔物の大群が突然……。関所も全て壊滅・突破され、東門まで防衛線が後退しております。門が破壊された際に備えて、町中に急造の防護柵を設置していますが……」
「チッ、そうなると町中を突っ切るのは、かえって時間が取られる可能性があるな。……城壁の上は通れるのか!?」
「はい!」
「東門は、あの煙が上がっている辺りだな!?」
「そうです貴方から見て左手の方向です!」
「よし、じゃあ上に登る階段へ案内してくれ!」
そこまで警備兵とやり取りの後、こちらへ顔を向けるマロニーさん。
俺たちへすぐに指示を出してきた。
「どちらが速いか分からん、ふた手に分かれよう! 君たちは町中を突っ切ってくれ、俺は上から向かう!」
「了解だ!」
マロニーさんの言葉に、打てば響くようにヴァーミリオンさんが応える。
そのままマロニーさんは警備兵と一緒に詰所の奥に消えて、俺たちが乗っていた馬車は門をくぐって町中へ入った。
ちなみに俺とブランさんは、ここで降ろされる事に。
呪符術をカクズンに盗られている今の俺では、戦力になりにくいから仕方ない。
状況次第では避難民と一緒に退避する手筈になっている。
だけど、たぶん今晩あたりに日本に戻る事になるだろうとマロニーさんに聞かされた。
こちらの世界に戻る時、魔物の集団暴走が解決してればこの町で、でなければ最初の町で合流する段取りになっている。
大丈夫だよな、マロニーさん….。
*****
東門で魔物を食い止めていた兵士と冒険者の疲労は限界を迎えようとしていた。
途中の関所は、最後まで己の使命を全うすると誓った者に後事を託し、彼らは町まで戻った。
やがてすぐに魔物が後を追うようにやって来る。
退避してくる兵士は居ない。
つまりはそういう事なのだろう。
町にたどり着いても城門が固く閉ざされていたが、彼らがその事に絶望した時間はわずかだ。
彼ら冒険者や兵士にも、町への愛着はある。
関所の兵士と同じく、命を賭して町を守ろうと意識を切り替えた。
町の兵士や残った冒険者も鬼ではない。
せめて少しでも助力になるならと、城壁の上から魔法や弓矢で援護も兼ねて攻撃するが、焼け石に水。
少しずつ矢は尽き魔力も枯渇し、武器を振るう腕は鈍くなる。
それでも奮戦する彼等だったが、倒れる者も増え始めた。
そんな状況に、ある者は絶望を感じ、ある者はやれる事はやったと諦観し始める。
やがて虚ろな目で迫りくる魔物を眺めるだけとなった彼らの耳に聞こえた叫び声。
「伏せろ!!」
反射的に彼らは地面に伏せた。
冒険者として仲間と連携を取るうちに身に付いた、後天的な本能のようなものだ。
彼らが伏せると同時に起こる、前方の爆発。
巻き上がる土煙。
伏せた彼らの上を通り抜ける爆風。
しかし上から爆心地に降り立った人影を彼らが見ることは無かった。
土煙の中から光る刃が射出される。
横方向に、まるで三日月が形作られるように。
その巨大な輝く銀色の三日月が通り過ぎると、魔物は薙ぎ倒され二つに切り裂かれる。
一瞬で、その一撃で、周囲の暴走する魔物は殲滅された。
冒険者たちは顔を上げる。
そして彼らは見た。
薄れゆく土煙の中に立つ人影を。
「あ、貴方は……!?」
思わず誰かが漏らした疑問。
それを聞き逃さず人影は彼らに振り向く。
右手に持つ緩く湾曲した細身の片刃剣を肩に担いで、その疑問に人影は答えた。
「俺の名はマロニー。通りすがりのダーティーエルフさ」
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