ここから紡ぐ物語
「「アンジェラさん、リヒト王子、おめでとうございま~す!!」」
私たちが晩餐室の手前までたどり着くと、待ち構えていたエミールとハンナの相談室コンビから、祝福の言葉と紙吹雪のようなものを同時に浴びせかけられた。
肩に着いたそれをつまんでよく見ると、紙ではなく白い花びらだということがわかった。
結婚式でよくやるフラワーシャワーだな。……って、復帰パーティーでそんな事をするの、おかしくないか。
「ちょっと待ってくれ、どうして関係ない俺まで一緒に祝われてるんだ?」
さすがにリヒトも異変に気が付いたようで後ずさりしているが、時すでに遅し。私たちは晩餐室の中へと連行されていった。
部屋に一歩足を踏み入れた瞬間、私は自分の予感が当たったことを確信した。
奥に長いテーブルには、王子のお姉様とお城の重臣、騎士団といった豪華メンバーが顔を揃えていた。
それだけではなく、ダニエラや酒場のマスターなどの普段は王城で目にすることがない友人までいる。極めつけは、なぜか凄く嬉しそうにしている王様とお妃様の姿だ。
「もうっ、皆さんお待ちかねですよ。さあさあ席まで行った、行った」
ハンナが容赦なく背中を押して無理やり進ませてくる。
割れるような拍手で迎えられた私たちは、一番奥のお誕生日席に並んで座ることとなった。両陛下に挟まれる形になっており、非常に居心地が悪い。
リヒトは右隣でウキウキしている国王に激しく詰め寄った。
「どうして、親父たちまでいるんだよ。聞いてないぞ」
「だってリヒトに話しちゃったら、サプライズで企画した意味がなくなるじゃないか」
王様はそう言って、私たちの背後にある壁を指差した。
慌てて振り返って見ると、『婚約おめでとう!!』とデカデカと書かれた横断幕が目に飛び込んできた。
やたらと勢いのある手書き文字(多分王様作)を呆然と見つめる私たちを置き去りにして、宴会は幕を開けた。
◇◆
「アンジェラさんはいつか王子と結ばれると思っていましたよ」
そう言って、侍女のロッテが満面の笑みでワインを注いでくれる。
続いて料理が次々と運ばれてきた。どれもこれも、こちらの世界でお目にかかった事のない高級なものばかりだ。
王様とお妃様はグラスを片手に、早くも式の計画を立てている。
「善は急げと言うし、さっそく日取りを決ちゃおうか♪」
「ドレスや出席者も考えないといけないわね♡ そうだ! 城下町全体を練り歩くお披露目のパレードをしましょう!!」
マズい。このままでは、当事者不在でどんどん話が決まっていきそうだ。今声を上げないときっと手遅れになる。
「国王陛下、誠に申し訳ありません。ちょっと、リヒト王子と2人だけでお話をさせていただきたいのですが……」
「なんだい? ここでは都合が悪いのかな?」
席を外そうとしたが、阻止されてしまった。
もう、こうなりゃヤケだ。私は皆からの注目を浴びながらも、リヒトに向き直って自分の気持ちを正直にぶちまけた。
「結婚のことなんだけど、まだちゃんと覚悟ができてなくて……。もちろん、断る選択肢は100%ありえないよ。
でも、答えはもう少し待ってもらえないかな……?」
「「ちょっと待った!!!」」
リヒトとの会話は、後ろからの大声に妨害されてしまった。声の主が、私たちの間に割って入ってくる。
「今更、冗談はよしてください! 酒場のセリフだって誘導してたし、プロポーズ取り消しも拒否しましたよね!! あなた一体どう言うつもりなんですか」
「いい気になってんじゃないわよ、こ~の小娘が! 王子の愛を受け取らないなんて、許せない!! 七面鳥でぶっ叩いてやるわよ」
後ろで警護していたカイルはブーイングするわ、料理を運んできたニナさん(※リヒト王子ファンクラブ会長)は凄んでくるわで、もうカオス状態である。
肝心のリヒトは2人の陰に隠れて発言の機会を伺っていたが、ニナさんが素手で七面鳥を掴もうとすると慌てて止めに入った。
「料理を粗末にしてはいけないよ。それに、俺は暴力を振るう女性は好きじゃないな」
「キャー!! どうかお許しになって」
頬を赤らめて謎のテンションで去って行ったニナさんを見送ってから、リヒトは私を見つめてにっこりと微笑んだ。
「いいよ。俺も本当は、もう一度きちんとした形でプロポーズしたかったんだ。
心の準備ができたらすぐに教えて。その時までに最高のシチュエーションを考えておくから、楽しみにしててくれよな」
「リヒト様、こういう大切な話は白黒はっきりしておいた方がいいのでは……」
――バシッッ!!
なおも食い下がるカイルの頭が、ハリセンのような物で叩かれた。見上げると、王子のお姉様2人がニヤニヤこちらを眺めている。
「いいじゃんかよ、ここまで話がついてればOKをもらったも同然だもんな」
イザベラさんの手には、筒状に巻かれたナフキンが握られている。多分これでカイルをはたいたんだろう。
「物語はまだまだ続くんだから、無理にハッピーエンドを急ぐ必要もないじゃない。
それに、お楽しみはとっておくものよ。野暮なカ・イ・ル・ちゃん♪」
ユリアさんは後ろからカイルのほっぺたをつまんでビローンと伸ばした。全く、この2人に敵う者なんてこの国のどこを探してもいないだろう。
皆のペースに飲み込まれがちだったリヒトも、反撃を始めた。
「そんな事よりカイル、親父に変な事を吹き込んだだろ!」
「別に、僕はただありのままを陛下に報告しただけですよ……」
「ほ~らやっぱり! お前が黒幕だったんじゃないか!!」
王子に詰められても、カイルは全然悪びれる様子を見せない。だがリヒトの方も本気で怒っているわけではなく、なんだか楽しそうにも見えるのが微笑ましかった。
私たちの婚約……ではなくカップル成立記念パーティーは夜を徹して執り行われ、その間に笑いが途切れることはなかった。
私の物語は、まだまだ始まったばかり。精霊との交渉も窓口の仕事も課題は山積みだし、きっとこれからも大変な事がたくさん起きるのだろう。
それでもリヒトや心強い仲間たちが隣にいてくれるのならば、どんな困難だって乗り越えられると私は信じている。
これにて完結です。ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。
ブックマークや評価、感想などの温かい応援をいただき、とても嬉しかったです。
読んでくださったことを重ねて感謝いたします。




