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未来への道標(4)

「どうして、犯人がオレだってわかったんだよ」


「神殿でハインツの日記帳を読み上げたじゃない。あの時に保管場所を知ってたから、おかしいと思ったのよ。ゲーム作りのために皆のことを観察してたんだって、後から気がついたわ。

それに……精霊王アイーシャを呼び戻したいと一番強く願っていたのは、クルトだもんね」



 だって好きだったんでしょ? とダメ押しで聞くと、クルトは渋々頷いた。



「アンジェラが元々いた世界の人間に、暗示をかけて作らせたんだ。アイーシャの生まれ変わりを探し出して、眠っている間だけ魂を転移させる魔法道具を。でも転生までさせるつもりはなかったんだ――」


「そこまでして精霊王に会いたかったなら、どうして封印を解こうとしないんだ」



 これまで黙っていたリヒト王子が、堪えきれなくなった様子で口を開いた。人間側にとっては自殺行為でしかないのだが、彼がそんな事を言った理由が私にはなんとなくわかる気がした。


 私がクルトに話しかけると、決まって一瞬なにかを期待するような表情を見せるが、すぐに寂しそうな顔に変わる。


 きっと、声を聴くだけでもアイーシャを思い出して切ない気持ちになるのだ。リヒトが再会させてあげたくなるのも仕方がない。



「バカ王子のお人よしは、ホントに救いようがないな。アイーシャが目覚めた時に襲われたのを覚えてないのか。……ったく、安っぽい同情なんていらねーんだよ」



 強がってはいるが、クルトの声はかすかにふるえている。目の端には、うっすらと涙がにじんでいた。


 しかし私たちがうろたえていると、手の甲でさっと顔を拭い、ニカッと笑って見せた。明るく、でもまだ少し弱々しい声で再び話し始める。



「実は、アンジェラの事も観察してたんだ。

一生懸命に仕事をしている姿も、仕事仲間や友だちと楽しく過ごしている姿も、みんな見てきたんだよ。

それで思ったんだ……人間として幸せに生きられるのなら、オレにはそれを壊す資格なんてないってさ」



 自分の寂しさに必死で耐えながら、大切な人の幸福を願い続けるなんて。なんてひたむきで純粋な想いなんだろう。



「クルトって優しい子なんだね。アイーシャさんも、きっと喜んでるよ」


「な~に別人みたいに言ってるんだよ。お前がアイーシャ本人だろーが。

……ったく、間抜けな発言のせいで、せっかくの感動シーンが台無しだぜ」



 さっき自分と重ね合わせるなと怒ってきたばかりなのに、随分とワガママである。


 でもクルトが笑顔になってくれたんだし、文句を言うのはやめにしよう。ふとリヒトの方を見ると、まるで子どもを見守る父親のように穏やかな表情をしている。


 狭い塔の一室は、お互いをいたわりあうような優しい空気に包まれていた。



◇◆



 それからしばらく他愛のない話で盛り上がり、帰る時間になるとクルトはもうすっかりいつもの調子を取り戻していた。


 召喚された時に出てきた魔法陣の前に立って、偉そうに私たちにアドバイスしてきた。

 


「ここはゲームのプログラムなんかじゃない、もう一つの現実世界なんだよ。これからはフラグだのシナリオだの気にせずに、自由に恋愛するんだな」


「お前が誤解を招くようなキャラにしてなかったら、俺はもっと早くにアンと仲良くなれてたんだぞ。少しは謝ったらどうだ」


「いいじゃないの、クルトのおかげで出会えたんだもん」



 文句を言う王子をたしなめて、私は笑った。



「今日はありがとう、また遊びにおいで!!」



 魔法陣に入って行ったクルトに向かってそう声をかけると、こちらを振り返って力一杯に手を振ってくれた。


 その笑顔は、これまで見た中で一番生き生きと輝いていた。



◇◆



 クルトの姿が完全に見えなくなった後で、私たちは終了時間が予定よりも大幅にオーバーしていることに気が付いた。


 業務終了後に相談窓口のメンバーが私の復帰祝いをしてくれることになっているが、このままでは完全に遅刻だ。



「カイルの奴、俺たちに声をかけずに自分だけ先に行きやがったな」



 一緒に出席してくれるリヒトも焦っているようで、控えの間にカイルがいないことに気が付くとすぐに私の手を取って走り出した。


 塔の階段を駆け下りると、リヒトは城外へは出ずに建物の奥を目指して突き進んでいった。



「会場って、いつもの酒場でしょ? 忘れ物でも取りに行くの?」


「晩餐室に変更になったんだ。今朝、カイルから連絡があったんだが……どうかしたのか、アン?」



 どうもこうもないだろう。いつの間に私はVIP扱いされるようになったんだ。


 晩餐室は侍女だった頃に一度だけ入ったことがあるが、あんな豪勢な部屋は王侯貴族や外国からの要人でもなければ使わせてもらえないはずだ。


 これは絶対に、何か裏がある。ただの職場の飲み会なわけがない。


 しかしあの部屋を普段使いしている王子は違和感を感じていないようで、「何か都合が悪いか?」としきりに不思議がっていた。

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