1378 交流試合、中堅戦! メイヴィスVSトーノ
観客席にいた獣人少女イスカ・ポルテに目を向けて、私はにんまりした。
イスカはアンジェの試合を見て完全に放心していた。
イスカと共にいた一族の人たちも同様だ。
本当の目覚めた力というのを、これでわかってくれるといいけど。
私はイスカの成長を願いながらステージに視線を戻した。
こんにちは、クウちゃんさまです。
ただいまは武闘会の後半、帝国学生と王国学生の交流試合の真っ只中。
ステージではアンジェとエンゼの戦いがおわって、中堅としてメイヴィスさんとトーノさんが上ってきていた。
先鋒戦は、帝国側の勝利でおわった。
果たして今回はどうか。
メイヴィスさんとトーノさんは、どちらも技巧派。
パワーよりテクニックで戦うタイプだ。
ただ、スタイルは少し異なる。
メイヴィスさんは攻撃的。
自ら動いて相手を翻弄する。
トーノさんは防御的。
どちらかといえばカウンタータイプだ。
見た目でいうならば、メイヴィスさんはすらりとした清楚な美人で、攻撃的な性格にはとても見えない。
トーノさんは落ち着いた佇まいで、戦い方も見た目通りか。
「クウちゃん、どちらが勝つと思いますか?」
「んー。そうだねー」
セラに問われて、私は考えた。
「私の予想ではメイヴィスさんかなぁ」
「それは嬉しいですね! では、帝国側の勝利ですね!」
メイヴィスさんの攻撃は早くて鋭い。
しかもトリッキーだ。
いくらエリカが誇る王国の精鋭でも、待ちの姿勢では崩される気がする。
「でも、トーノさんだしねえ。やっぱり訂正して、勝敗についてはわからないということにさせてもらうよ」
「そうですかぁ。そうですよねえ」
なにしろトーノさんのフルネームは、トーノクウネル。
遠野空、寝る。
遠野、食う、寝る。
遠野空とは、前世の私のフルネームになる。
まあ、だからなんだというわけではないのですが……。
戦いに期待したい気持ちは、それなりにあったりするのです。
決してキタイではなく、ですが。
「ところでクウちゃん、最後にエンゼさんが使った技、あれは武技ですよね?」
「うん。そだねー」
「ジルドリアではすでに広がっているのですか?」
「そうだね。帝国よりは」
「そうですか。エンゼさんが使うとは思っていなくて、びっくりました」
「向こうは竜が多いからねー」
竜の里の人たちには、私の技術を惜しみなく伝えた。
その中で一番の人気は武技だった。
ローズ・レイピアのトップであるハースティオさんも武技が大好きで、魔法や生成より優先して練習している。
ローズ・レイピアで武技が使われるのは必然だろう。
ちなみに帝国では、肉体への魔力浸透すなわち身体強化に絞って訓練をしている。
なぜなら魔法の指輪では、武技の訓練は行えないからだ。
帝国では今のところ、私が直接指導したメイヴィスさんとブレンダさんに白騎士隊の一部が使えるだけだ。
つまり、うん。
白騎士隊の一部が習得済みなわけだから私が懸念する必要はない。
必要なら帝国でも広まっていくことだろう。
「わたくしも覚えねばですね! クウちゃん、今度教えて下さい!」
「うん。いいよ。明日にでも教えようか?」
明日は学校も休みだし。
ユイたちも帰って、私は自由になる。
「いいんですか?」
「セラなら簡単に習得できると思うよー」
「……武技って、そんなに簡単なものなんですか? わたくし、自分を天才肌だとはとても思えませんが」
「セラはもう魔法のイメージができているしね。基本は同じだから」
「今までの訓練の賜物なのですね」
「そそ」
話のまとまったところで、ちょうど試合が始まるようだ。
私たちは意識をステージに戻した。
「始め!」
レイリさんの声が響いた。
メイヴィスさん対トーノさんの始まりだ。
最初に動いのはメイヴィスさんだった。
以外にもメイヴィスさんは開始と同時に後方へと跳んだ。
トーノさんは追わず、その場で剣を正眼に構えた。
武装は先鋒戦と同じく二人とも片手剣一本だ。
さあ、共にどうするのか。
「待つ、ということは、受け切れるという自信なのですね。では、私から先にやらせてもらいましょう」
メイヴィスさんが涼やかな態度で言った。
トーノさんは、やはり動かない。
「武技、ミラージュ・エッジ」
メイヴィスさんが剣を空に掲げる。
同時に、掲げた剣のまわりに5本の半透明な刃が浮かび上がる。
おおおお!
会場が大きく沸いた。
まるで魔法のようなそれは、それでも武技。
片手剣の遠隔連続攻撃技だ。
距離を取って強敵と戦う時用にダンジョンで私が見せて教えたものだ。
まさか習得しているとは。
私も驚いた。
「さあ、防げるかしら」
メイヴィスさんが剣を振り下ろすのに合わせて、半透明な5本の刃が速度を一気に増して標的に襲いかかる。
トーノさんは動かない。
その場ですべて受け止めるつもりなのか。
「武技、サークル・パリィ!」
おおお!
またもや会場が湧いた。
トーノさんが襲いかかってくる刃を、回転させた剣ですべて弾いたからだ。
それもまた武技。
防御用の片手剣スキルだ。
「さすがです。さあ、次はそちらからどうぞ」
メイヴィスさんは落ち着いた様子だった。
「では、行かせていただきます」
トーノさんが剣を構え直す。
どうやら二人は、お互いの武技を放ち合うつもりのようだ。
「これを受けきれたら、さすがに褒めてあげます。牙竜一閃。私たちローズ・レイピアの奥義のひとつです。最高威力の直線攻撃です。死なないで下さい」
牙竜一閃……!
カッコいい名前だ。
そして、それが武技ならば私は知らない。
ハースティオさんのオリジナルスキルなのだろうか。
トーノさんが独特な突きの構えに変化した。
前世の知識的には、ガトツ! とか叫びそうな雰囲気がある。
「武技――。牙竜――」
十分な溜めを作って、トーノさんは刃を突き出す。
「一閃!」
放たれた突きと共に、凄まじい衝撃波が伸びた。
標的はメイヴィスさんだ。
メイヴィスさんはその攻撃を――。
ひらりとかわした。
衝撃波はステージ周囲に張られた結界に直撃して――。
結界を湖面のように揺らせて――。
霧散した。
さすが、ヒオリさんたちが渾身の力で作った結界装置。
見事に防いでくれた。
「ふふ。申し訳ないのですが、受ける、とは言っていませんよ? それだけタメがあれば回避は簡単です」
「なるほど。それはそうですね。失礼しました。それでも見事な回避でした」
「ありがとうございます」
「では、次はまたそちらですか? 武技勝負なら、まだまだ私はいけますよ」
「もちろん私もです。もう1ラウンド、ぜひやりましょう」
二人が不敵に微笑み合う。
その時だった。
ピピー!
と、レイリさんの口から高々に笛の音が響いた。
「制限時間三分です。決着つかず! 中堅戦は引き分けとします!」
レイリさんが宣言する。
なんと。
私を含めて、全員が愕然としたことだろう。
交流試合の制限時間は三分なのだった。
あまりに緊迫した状況の中、あっという間に過ぎてしまっていた。
「もう時間ですか。思ったよりも早いですね」
メイヴィスさんが剣を下ろした。
「本当です」
トーノさんも剣を下ろして、二人は握手を交わした。
会場には拍手が響いた。
私たちも拍手をした。
二人の武技は、本当に見事なものだった。




