1367 帰り道、夜の空に魔法少女
シャルさんのお店からの帰り。
私とナオは、帝都の夜の大通りを二人で並んで歩いた。
帝都は夜でも賑わしい。
大通りには、たくさんの人がいて平和だ。
「悔しい。ハッピーさんをユイに取られた」
「あはは」
「笑い事じゃない」
ナオは不機嫌だった。
理由は口にしている通りなのだろう。
「いやー、でもさー、真面目に言わせてもらうけど、取り合う相手じゃないってー。あいつ本気の変態だよー」
「ハッピーさんは良い人。クウはわかっていない」
「そかー」
と、これは私です。
ナオのモノマネではありません。
「まあでも、今回はあきらめてよ。ユイ、爆発寸前だったしさー」
私は苦笑しつつナオに言った。
「わかっている。というか、安心してもいい」
「なにを?」
「私はハッピーさんを気に入っているけど、ラブはない。一緒にハッピーしたかっただけ。ユイとは違う」
「ならいいけど。いや、え。あ、やっぱりそう思う?」
「思った」
「んー。どう思う?」
「個人の自由」
「それはそっかぁ。ともかく、なんか奢ろうか? 屋台巡りとかする?」
「遠慮しておく。唐揚げとラーメンで満足」
「それはそうか」
私も実のところ、お腹は空いていない。
むしろパンパンだ。
「ところでクウ、夜の帝都に闇の魔物の気配を多く感じるんだけど、これはゼノリナータ様の眷属ということでいいの?」
「そだよ。ゼノのところには今、高位の吸血鬼が何人も住んでるしね。あと最近だと雪女系のアンデッドも」
「その上に精霊もいて、帝都はすごいところだ」
「ナオこそすごいね。みんな気配は消しているのに、それでもわかるとは」
しかも遠隔で。
「私は敏感。クウのことも匂いでわかる」
そう言えばそうだった。
「ちなみに気配を消していない闇の力もあるけど」
「え。ほんとに?」
ナオに言われて、魔力感知を発動して、範囲を広げてみた。
すると本当にあった。
ただし見知った力ではあった。
「これも平気かなー。闇の魔法少女だねー」
「……闇の魔法少女?」
「ナオには言ったことなかったっけ? ゼノの契約者でね、アリスちゃんっていう6歳の女の子がいるんだけど、その子のことだよ。魔法少女として、アリスちゃんも夜な夜な悪党退治をしているの」
「小さな子に、なにをさせているのか」
「あはは」
それはそうなんだけどね。
これもまた成り行きで、気づいたらそうなっていたのだ。
アリスちゃん自身も大いに楽しんでいるようだし、ゼノがつきっきりだからトラブルも発生しないし。
「クウ、その子に会ってみたい」
「いいよー」
早速、夜空を飛んで行ってみることにした。
アリスちゃんは、いかにも魔法少女な黒いドレスに身を包んで、手には魔法のステッキを持ち、夜空に佇んでいた。
体躯こそ小さいけど、まだ6歳とは思えない堂々たる姿だ。
肩には黒猫ゼノがいる。
ゼノはさすがで、完全に気配を消していた。
「やっほー!」
近づいて声をかける。
「クウちゃんお姉ちゃん! こんばんは、なの!」
「こんばんはー。今夜も悪党退治?」
「なの! この下にいるアクトーがこれからワルサをしようとしているから、ワルサをしたところでオシオキなの!」
「なるほどー。あ、でね、今夜は私のお友達を連れてきたの」
私はナオに視線を移した。
「はじめまして、闇の魔法少女。私はカメの魔法少女、ナオ」
カメの魔法少女って、なんだそれは。
と私は思ったけど、アリスちゃんは素直にその挨拶を受け取った。
ナオはゼノにも挨拶する。
「せっかくだし、ボクたちと一緒に遊んでいく?」
「ぜひ」
ゼノに誘われてナオはうなずいた。
私は、ナオのように徹夜しても平気なほどの体力はないので、さすがに帰宅して寝ようと思ったのだけど……。
アリスちゃんに喜ばれてしまったので、参加することにした。
というわけで。
突発の捕物クエスト、開始だ。
「ちなみにいつもは、二人でどうやっているの?」
私はアリスちゃんにたずねた。
「ショーコをつかんだら、デーンとあらわれて、バーンとやっつけて、いい子ビームでカイシンなのー!」
「なるほど。魔法少女だね。でも今夜は、少しだけ作戦を変えてみようか? 魔法少女カメも一緒だしさ」
「どうするの?」
「……クウ、うちのアリスに変なことは教えないでよ? これでもアリスには英才教育をしているんだからさ」
なぜか黒猫のゼノが疑いの目を向けてくる。
「あのさ。身内でなら、私、どう考えても一番の常識枠だよね?」
心外なので抗議させていただいた。
「え」
「え」
なぜかナオとゼノにキョトンとされたけど、私は気にしない。
なぜならば。
すでに面白いアイデアがあるからだ。
ふふふ。
悪党どもめ、今宵の魔法少女は血に飢えておるぞ。
存分に恐怖してもらおう。




