あの人もうバケモノだよ
「コーティさん、マジかよ。あの人もうバケモノだよ」
ため息交じりにルーフェスが言った瞬間。
「酷い言われようですね」
コーティさんが扉を開けて入って来た。……でもどうして、トレイ片手に入って来たのかしら。
私の視線に気づいたコーティ様が、扉をもっと広く開けると、後ろからこの宿屋の看板娘らしい可愛らしい女の子が大きなトレイを持って入ってくる。
部屋に備え付けの小ぶりなテーブルは、見るまに食事と飲み物でいっぱいになった。
「女性ひとりで持つのはなかなか辛い量でしたのでね、手伝ったまでです」
さすがにコーティ様はフェミニストだ。ですがコーティ様、これ、あきらかに私が頼んだものよりも量が多いのですが。
頬を染めた看板娘さんは、愛らしくお礼を言って去って行く。
完全に恋する乙女の瞳だったけれど、コーティ様に通じているのかは今ひとつ分からない。看板娘さん頑張って、と心の中でエールを送っておいた。
「色々と分かったことがありましたので、食事をとりながら話したほうがいいだろうと思いまして、私とクリスティアーヌ嬢のぶんも用意していただいたのですが、問題ないですか?」
「はい、もちろん。下の食堂では話せないことがあるのでしょう?」
「念のため、というところですが。ルーフェスくんは、もう食事はできそうですか?」
コーティ様が気づかわしげにそう尋ねてくれるけれど、ルーフェスはそっと視線を逸らす。
さっきから、コーティ様を直視できずにいるのは、やっぱり昨日の失態が恥ずかしいのかも知れない。
「申し訳ありません、ルーフェスはたった今、目が覚めたところで」
「姉さん! ……いいから」
助け船を出そうと思ったのに、結構な勢いで止められてしまった。
「もう大丈夫です、情けないところを見せて申し訳ありません」
昨日とは打って変わって、急に丁寧にルーフェスが言葉を紡ぐ。旅の疲れが随分抜けて、冷静になった証なのかもしれない。
「昨夜は……部屋まで運んでいただいたそうで、ご迷惑をおかけしました」
きっちりと頭を下げるルーフェス。コーティ様に「話したのですか?」という目で見られてしまったけれど、こればかりは許して欲しい。
「いいえ、レオナルドくんの身の危険もあると思っていたもので、クーレイに早く着くことばかりを優先して、道中は随分と無理をさせてしまいましたから」
こちらのほうが謝りたいくらいですよ、というコーティ様の言に、ルーフェスは信じられないと言いたげな顔をする。
ルーフェスったら、思っていることが顔に出すぎだと思う……。心配していたら、案の定。
「ただ、私もせっかく姫抱きするなら、クリスティアーヌ嬢のほうが良かったですね」
なんて、思いっきりコーティ様にからかわれていた。
「ひ、姫抱き!?」
屈辱なのか真っ赤になってルーフェスは怒っているけれど……言えない、米俵みたいに担がれていたなんて。
ルーフェスには素知らぬ顔を向けつつ、私にこっそり目で合図するコーティ様に、ひとつ苦笑いして、私は沈黙を貫いた。




