ひとつお願い、聞いてくれない?
「! なんなりと!」
思いついた! という顔でレオさんがいうものだから、私も勢い込んで返事をする。
レオさんのお願いを聞くなんて滅多にないチャンスだもの、ここは全力で期待にこたえたい。
「クリスちゃん、デートしよう!」
急にきゅっと両手を握られて思わず見上げれば、レオさんの黒い瞳がキラキラと輝いている。
「クリスちゃんのことだからさ、テールズに戻ろうと思ってると思うんだけど」
さすがレオさん。調査は明日以後になるのなら、女将さんに無理を言って出てきた以上、テールズに戻らないと……とは思っていた。
「でも、少しお茶していくくらいは許されるでしょ? 長旅から帰って来たんだ、ちょっとだけでいいから付き合ってよ」
ちょっとだけ考えて、私は大きく頷いた。きっと、女将さんも許してくれるに違いない。
すると、レオさんはとてもとても嬉しそうに目尻を下げた。
「よし! やっとクリスちゃんを独り占めできた」
……やっぱり、レオさんの方が照れるようなことを平気で言っていると思う。
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「ええ!? 市井官の仕事も見に行ってるの?」
「はい、エールメ様がご紹介くださったんです。従兄弟が市井官だからって」
レオさんのご所望でカフェ・ド・ラッツェに足を運んだ私達。
美味しいケーキと紅茶を食しつつ、レオさんから聞かれるがままにこのところの身の回りの変化を話していたら、想定以上に驚かれてしまった。
「従兄弟が市井官って……ミスト様じゃないだろうし、オーレンさんか? リープさんか? ルスクか……まさか、コーティさんじゃないよね?」
「そのコーティ様です。とても丁寧に色々なことをご説明いただきました」
「マジか、それはヤバい」
ものすごく苦い顔をするから、思わず「なにか、まずいことでもあるでしょうか」と不安になって聞いたのだけれど、レオさんは「いや、こっちの話」とはぐらかす。
そんなふうに言われると、逆に気になるのに。
ああでも、そういえばルーフェスも「特殊な仕事らしいし、なんというか、担当者も曲者揃いだと聞くよ」ってとても心配していたから、そういうことかしら。
「えーと、どんな奴だった?」
「? コーティ様ですか?」
「そうそう」
お仕事ではなく、コーティ様に興味があるのね……ということは、『曲者揃いの職場環境』の方を心配してくれているのだろう。
確かに人間関係は重要だ。前世、レストランでバイトしていた時は、優しい先輩が多かったけれど、一人とてもアクの強い人がいて、その人とシフトが被る日は憂鬱だった。
「とても優しい方でしたよ。それに、民生官からあがってくる案件の予算や施策の草案を一手に引き受けていらっしゃるようで、とても頭がいい、頼れる方のようでした」
安心してもらおうと思って言ったのに、レオさんはますます苦い顔。