6.平常
「ただいま」
端的に切って僕は玄関で靴を脱ぐ。
「学校はどうだったー」
「あんな不思議な空間だっけな、って思ったわ」
お母さん……ではない、が戸籍上は母親の美智子は僕に話しかけてくる。
「そ。で、新しいクラスで友達みたいなのはできたの?」
「みたいなのって。まぁ、あれが友達だと思えれば数人はな」
掛川の顔を思い出しながら答える。少女Aと少女Bはかすかに顔が出てくるが、少年Aは思い出そうと思っても顔が出てこなかった。
「勉強は大丈夫そうだし、後は隣人関係でがんばらなきゃ。そういえばあがってすぐにテストあったよね?」
「明々々後日。弥明後日って言った方が伝わりやすいかな」
確かお母さんは東京の人だ。
「四日後ね。がんばって学年一位でもめざしちゃいな!」
「姿勢だけはそちらを向けておくよ」
カバンの中身を机に出し、細々とした準備をし、お母さんとの会話を続けていた。
「そうだ、小春って覚えてるか?」
「覚えてるも何も、一番お見舞いに来てくれた子じゃない。やさしい子だったわね。それがどうしたの?」
「あいつが会長になってた。つっても学生会じゃなくて、1~3年で編成された新しい学生会のだけど。で、僕もそれの役員になった」
「へぇ。何の?」
「……そういえば、聞いてねぇや」
我ながら、あまりにも適当だった。感謝を形で返そうという意気込みがあっての即返答だったが、もう少し詳しく聞いてもよかった。
「阿呆かいな」
鼻で笑うようにお母さんはこちらを見る。
メールで聞くのもなんだしなぁ……。明日でいいか。そう思いながら僕は自室へと引く。
ベッドの上に屍の如く転がる。原因は、圧倒的夕方。あの鷲を、助けたことだろう。
「何だろうな、あいつ」
回想シーンの中の彼女は常に不思議を纏っていた。死にたいから飛び降りたはずなのだろうが、何で、明日また会いに来るのだろうか。『病気』といったが、何のことだろうか。考えるだけ不思議が増えていく。
「んなことより眠いわ」
正直に告げると僕は少しだけ寝ることにした。
明日は、日常であることを夢に見て。