5.砂上
時が止まる。そんなことを初対面の人に話したらどんな顔をするだろうか。十中八九冷たい目を浴びることとなるだろう。僕にそんな趣味はないのでもちろん伏せておいた。
風が気持ちよく揺れる黒と赤の中間の空。僕は彼女と交互に仰ぐ。気まずい。お互い気まずい。
「……なんで私を助けたの?」
「何でだと思う?」
僕も真面目に答えられないんだ。せめて考える時間を下さい。
「さぁ……名声でも欲しかったのかな」
「おいおい……さすがに僕をそこまで低俗な目線で見ないでくれ。名声? んなもの手に入れてどうするってんだよ。ってかお前助けただけでそんな名声が手に入るものなのかな」
少し声を荒げる。
「冗談ですって。でも、私を助けるのに理由があるとも思わないから」
「そりゃ、僕の為だよ。自殺するならどこでもいいさ。あぁ屋上だっていいさ。でも自分で首つったり毒でも飲め。僕が迷惑するんだ。この屋上にも入れなくなるし、僕に変なうわさが流れ着いたらお前をあの世で恨むことになるからな」
……いやさっきよりたち悪くなってないかな? だが、彼女、鷲にはわりと高評価だったらしく、軽く笑う。
「そっか。自分の為か。そっかぁ……」
感慨深く彼女は独り言を呟いている。物静かそうに見えたのだが、意外にもそうではないのかな? いや独り言が多いだけで物静かそうな人なのかもしれない。
「助けてくれてありがとうね」
唐突の感謝な言葉に、僕は右手を見ながら「お、おう」と答えるしかできなかった。
「今気づいたんだが、お前死ぬ気あったのか?」
彼女は頭の上に?を掲げている。せっかくなので僕は彼女をさっきの場所に呼んだ。
「下、木が植わってる土だぞ。落ちても相当運がよくない限り、いや悪くない限り死ぬことはないと思うんだよなぁ」
彼女のほうを見る。口をあけて、ぽかんと突っ立ってる様は小春を思い出す。……天然種族なのかな。
「とんだ恥をかくところだったわね……」
「あのさ、ここでの飛び降りは失敗に終わったわけだろ。……死ぬ気なのか?」
「今度はさっきの質問とは違う意味ですかね」
彼女は考えているようで、全然考えていないような顔をする。
「どうでもよくなったかな」
一言発しただけだった。
「あと、お前って呼び方をやめてください」
「鷲がいいか、琴音がいいか」
「……下の名前も覚えてるんだね」
「珍しい苗字だからだからな、セットで覚えた」
「えっと……國定さん、でしたっけね」
その言葉を聴くと、なぜか無性にむず痒い。國定"さん"ですかい。
「できればさんは付けないで頂きたい」
「じゃあ國定君。なんで、この屋上に入れたかを聞きたいです」
「僕の長年の努力」
「……だから留年したのかな?」
「長年といっても半年だから。半年間粘って四桁のナンバーキーの一万通りを五回解き明かしたんだ」
「そのナンバーキー、教えてもらっていいですか?」
「なんで?」
一瞬不思議に思った。多分、飛び降りようなんては思っていないだろう。じゃあ、なぜここに来る意味が。
「その……言うなら『病気』を治す為、です。病気といっていいのかな? とにかくそういうものを消したいからです」
「うぅん、よくわからないが、誰にも言わないというなら教えてやるけど」
「本当ですか!?」
えさに食いついた魚のよう、というとちょっと語弊があるが、うれしそうな目は輝かしく光っていた。
「今日は遅いから、明日の昼またここ来いよ」
「わかりました!」
飛び跳ねるように立ち上がる。……何がそんなにうれしいのだろうか。
「國定君、じゃあね」
ドアの上から飛び降り僕は鷲と別れを告げあう。
「鷲もな、気をつけて」
……気づいたんだけど、何で仲良くなってるの。吊橋効果ってやつか? いやどちらかというと白馬の王子様効果なきもするけど……。
「どうでもいいや」
一人呟き屋上にさよならを告げる。




