7.空情
「無限大という概念がもはや頭に追いつかねぇ!」
腐っても理系なのか、変なことで頭を悩ませてる掛川は僕の机に突っ伏す。微分積分の基本中の基本の冒頭部分でこんな頭を悩ませてたらいずれ出てくる文字式の嵐の中こいつは前へと進めるのか。停滞するのも精一杯なんじゃないかな。
「にしても、雨降り出したな」
僕はしなりながらそこにいる木を見ながら言う。鷲はさすがに雨じゃ屋上には行かないだろうし、何より今日は先に帰ってしまっていた。
「あぁ、明日いっぱい降るらしいな。町に女の子がいなくなっちゃうよ」
「今から町へ行って傘持ってない女の子に傘を渡しながら狩にでも行けば」
「それはもはやナンパですらないよ」
「僕にはすべて同じに見えるから関係ない」
何が違うんだよ本当に。
「で、鷲の件はどうなったよ」
「一日で進展する程度だったらお前がすでになにかしら情報でもつかんでるんじゃねぇの」
「まったくそのとおりとしか言いようがないっすね」
ため息を一つつく。いや、だから何で僕はこんなことで困ってるんだよ。
「はぁ、暇だな」
「家帰れ……悪い、お前には帰る家もないんだったな。ほら、弁当やるよ。これで少しでも腹膨らませろ」
「そんなひもじくねぇよ! マイホームはチャリで三十分かかるんだ! ってかこれごみじゃねぇかよ!」
「お前をいじると楽しい」
「ズバッというな……。ちなみに國定は家どこにあるの?」
「ここから歩いて十分とかからないかな」
古い駅の駅前にあるため、交通事情的には何不自由は無い。
「じゃあ」
「断る」
「國定君の家に行かなくていいですか」
裏をかきやがった。小学生の争いかよ。
「言ったな。来てみろ。後悔するなよ。後足をいためないようにな」
「え、何それ、家の中にトラップでもあるんすかね」
「家の敷地まで十分だが、そこから走って三時間かかる」
「家の敷地でフルマラソンしちゃってるよこの人!」
なんか、この子いい反応してくれるから面白い。
「で、家にいっていいっすかね」
「特に断る理由が見当たらないから別にいいけど」
「絶対断られると思ってたけど見当違いだった。おし、じゃあ早速いこうぜ」
「何で掛川が音頭を取ってるんだよ」
いたって普通の放課後の生活。家に誰か来るのは二月のあいつ以来かな。そう思いながら雨の中の帰路をたどる。たった十分だけど。
「ほう、普通だな」
「悪いな。お前の家の一割の面積しかなくて」
「なんで今度は俺が金持ちポジションに立ってるんだよ」
無駄口をたたきながら僕は家へと招き入れる。
「なんだ母さん帰ってきてたのか」
ちょうど玄関の前を通るお母さんと会う。
「ちわーっす」
掛川は軽く挨拶する。
「あら友達? なんだ以外に心配するほどのことじゃなかったのね」
「いや友達ではないな」
「え、マジで、親友とか言うポジション?」
「孫悟空で言うところの緊箍児かな」
「毎度思うんだけどさ、お前のたとえのセンスがピンポイント過ぎてあんまりぴんと来ない」
「それはぴんとこなお前が悪い。とりあえず部屋にでも行くか」
二階への十三段の階段を上る。掛川は以外にも、というか見た目に反して靴を揃えたり他人の家では礼儀をわきまえるのか、ただの几帳面なのか。
「うん、そんな普通の部屋だな。ってかシンプルだな」
「そうだな、確かに無駄なものが無いことはかなり自覚してる」
本棚にはただただ参考書の塊があるだけだし、パソコンはあるが、まぁ、ほとんど弄らない。
「ただ、そんなクールぶってても男の部屋には必ず見られてはイケナイまぶしい本があるはずだぜ」
「僕は一時期女子と一生絡むことがないと思ってた時期がある人だ。そんなん探しても出てこないがな」
「ってことは男同士の本……っ!?」
「……探してみればいいさ。ってか男の部屋には必ずあるといったが少なからずお前の部屋にはあるということだな。今度部屋に行ったらお前の性癖を世界中のいたるところに晒してお前を部屋に束縛させてやろう」
「なんで俺はそんなことされるほど恨みを買ってるんだよ!」
「楽しそうだし」
「ただの興味本位!?」
窓の外の雨は上がる気配がしない。




