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もし応仁の乱が起きなかったら? 〜日本を世界最速の大航海時代へ導く〜  作者: tky
第4章:南蛮逆上陸 〜大西洋横断と「ルネサンス」の買収〜

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第63話:西からの来訪者 〜リスボン港の激震〜

イベリア半島の西端、ポルトガル王国の首都リスボン。


大西洋に面したこの巨大な港町は、未踏の海へ進出しようとする熱気と、野心に満ちた活気で溢れかえっていた。


彼らの最大の目標は、アフリカ大陸を南下し、莫大な富が眠るという「アジアの黄金郷」へ至る航路を発見することである。


だがその日、リスボン港の防衛を担う要塞の見張り兵は、自らの目を疑うような光景を目の当たりにした。


「おい……嘘だろう。なんだあの巨大な影は……?」


見張り兵が震える指で示したのは、彼らが日々探索を続けているカナリア諸島へと続く、南西の水平線だった。


先頭を進んでくるのは、交易に出ていた自国の小型商船「サンタ・マリア号」だ。


だが、見張り兵の視線は、その背後に広がる信じがたい光景に釘付けになっていた。


赤き日輪と二本の太い線が描かれた、見たこともない異国の旗を翻した無数の巨大船団が、自国の商船を案内役とするようにして、リスボンの沖合へと姿を現したのだ。


「お、おい!サンタ・マリア号の奴ら、何を連れてきやがったんだ……!」


けたたましい警鐘が鳴り響き、リスボン港は一瞬にして恐怖と混乱の坩堝るつぼと化した。


***


「……やはり、未開の地のやからじゃのう」


リスボン沖合で停船し、日本艦隊の旗艦に座乗する細川勝元は、冷ややかに言い放った。


日本艦隊は港内へ無断で進入することはせず、案内役を務めたサンタ・マリア号を労い、彼らが王宮へ「商談」の言伝ことづてを届けるために安全に港へ帰っていくのを沖合で見送っていた。


紳士的な商社としての礼儀である。


この場を勝元に任せ、少し後退している山名宗全の艦隊とも手旗信号で連携し、不測の事態に備えて完璧な陣形を保っている。


しかし、そのサンタ・マリア号からの言伝を受けたはずの王宮が返してきたのは、平和的な使者ではなかった。


テージョ川の河口から無数のポルトガル軍船が慌ただしく出撃し、沖合で待つ日本艦隊へ向かって一直線に陣形を広げてきたのだ。


「我らの船に積まれた莫大な富の匂いを嗅ぎつけ、武力で奪い取ろうという魂胆か。……野蛮なことよ」


彼らの眼下では、ポルトガル軍のガレー船や小型の武装船が、沖合の海上に横一列の迎撃陣形を敷き、徐々に距離を詰めてきている。


未知の艦隊への恐怖よりも、その積荷を奪うという強欲な野心を抑えきれなかったのだ。


「提督、いかがなされますか。迎え撃ちますか?」


航海長の景高が緊張した面持ちで尋ねる。


かつての勝元ならば、ここで容赦なく一斉射撃を命じ、海は赤く染まっていただろう。


だが、今の彼は武将であると同時に、室町商事という巨大な資本を背負った「冷徹な経営者」であった。


「無駄な血と火薬を使うな。それに、大したことはない豆鉄砲とはいえ、船に傷がつけば修繕費がかかり、京都の薫子殿から違約金を請求されるやもしれん」


勝元は極めて合理的な計算のもと、扇子を広げた。


「景高。向こうが先に撃ってくるまで待て。奴らの弾が海に落ちる位置を見て、最大射程を正確に測るのじゃ」


「ははっ!」


「その上で、大砲を一門だけ用意しろ。直撃させる必要はない。奴らの陣形の『真横の何もない海面』を狙って、彼我の腕の長さの違いを教えてやるのじゃ」


***


「撃て!あの巨大な木の箱に近づき、強行接舷して積荷を奪うのだ!」


ポルトガル側の指揮官が、勝利を確信して剣を振り下ろした。


だが、彼らが放った旧式の大砲の弾は、日本艦隊の分厚い装甲のはるか手前で海に落ち、虚しい水柱を上げるだけだった。


「な、なんだと!?まだ我らの砲が全く届かない距離だと!?」


指揮官が驚愕に目を見開いた、まさにその瞬間。


遥か前方に停泊する日本の旗艦の側面から、一筋の鋭い閃光が走った。


直後、指揮官が乗る先頭船から大きく離れた『横の海域』に、重い金属の塊が凄まじい衝撃と共に着弾し、天を衝くような巨大な水柱を激しく立ち上げたのである。


「ば、馬鹿なッ……!!わざと、外したというのか……!?」


指揮官は甲板にへたり込んだ。


自分たちの弾は全く届かない安全な距離から、自軍の真横をやすやすと撃ち抜く恐るべき射程距離と精度。


もしあの砲口が自分たちに向けられていれば、間違いなく粉砕されていた。


***


「よし、射程の差は骨の髄まで理解したじゃろう。ここからは商人の流儀じゃ!」


勝元が扇子を振り下ろす。


「全門、空砲を放て!」


景高の号令と共に、巨大なガレオン船の側面にずらりと並んだ砲門が一斉に開かれた。


目も眩むような閃光が海面を覆い尽くし、内臓を揺るがすような絶望的な轟音が、リスボン沖合の海と空を震動させた。


***


「……我々の被害はどうなっている!?」


指揮官は頭を抱えながら、パニックに陥る部下たちに向かって絶叫した。


だが、何度確認しても、自軍の船に弾が直撃した形跡はない。


「空砲です!先ほど横を抜けた一発以外、すべて弾が入っていません!」


報告を受けた指揮官は、顔面を蒼白にさせ、そして全てを悟った。


圧倒的な射程の差を見せつけた直後の、数百に及ぶ砲門の一斉発射。


あれが実弾であれば自分たちは一瞬で海の藻屑となっていた。


それをわざわざ火薬の音だけで済ませたということは、「いつでもお前たちを皆殺しにできるが、我々にその意図はない」という強烈な意思表示であった。


圧倒的な力がありながら無益な殺生を行わない彼らは、決して侵略者ではない。


だが同時に、絶対に手を出してはならない相手だ。


「……軍を引かせろ!道を開けろ!彼らは、我々が逆らって良い相手ではない……!」


リスボン沖合に展開していたポルトガル軍船は、戦意を完全に喪失し、震えながら左右に割れて道を空けた。


巨大な日本艦隊は、静まり返ったリスボン港の特等席へと、悠然と、そして圧倒的な威容をもって進み入っていく。


海という名の巨大な商道を制覇した室町商事が、ついにヨーロッパの心臓部へ、暴力ではなく「経済と合理性」という名の楔を打ち込んだ瞬間であった。


***


時は同じくして、はるか東の京都。


薫子は執務室の机に広げた一枚の図面を鋭い眼差しで睨みつけていた。

図面に描かれているのは、筒状の金属の断面と、奇妙な螺旋状の線である。


「どないしはりました、薫子。いつになく難しい顔つきでおすな」


将軍正室である日野富子が、黄金の扇子を優雅に揺らしながら声をかけた。


「富子様。……先の探検で持ち帰った『ジャガイモ』のおかげで、我が国の民は飢えを忘れ、人口と富は恐ろしい勢いで膨れ上がっておりまする」


薫子は図面を指先でトントンと叩いた。


「だが、富が膨れ上がれば、それを狙う外敵の脅威もまた大きくなりまする。……我が幕府の『暴力の質』を、さらに一段階引き上げる時が来たのでおじゃりまする」


「暴力の質、とな。今の鉄砲や大砲でも、すでに天下無双でおすやろ?」


「甘いのでおじゃりまする。今の筒は内側がツルツルゆえ、弾がまっすぐ飛ばず、遠くの標的には当たらぬ。そこで、この図面でおじゃりまする」


薫子は図面の螺旋状の線を指差した。


「堺の職人たちが扱う『水力旋盤』を改良し、鉄砲の筒の内側に『螺旋のライフリング』を掘りまする。弾が回転しながら飛び出すことで、遠くの敵でも寸分違わず撃ち抜くことができるようになるのでおじゃります」


富子は扇子を止め、薫子の言葉に込められた冷徹な殺傷力に息を呑んだ。


「さらに、いくさ場での火薬と弾の装填が遅すぎる。これも改良でおじゃる」


薫子は別の紙を取り出し、筒状に丸められた紙の束の絵を示した。


「あらかじめ、一発分の火薬と弾を『紙の筒(紙製薬莢)』に包んでおく。撃つ時は、この紙の端を噛みちぎり、中身を銃口から流し込むだけ。これで、今の三倍の速さで途切れなく弾幕を張れるようになるのでおじゃる」


「……螺旋の溝で確実に殺し、紙の筒で息もつかせぬ弾幕を張る。……相変わらず、そなたの考える商売いくさは血も涙もおまへんな」


富子は呆れたようにため息をついたが、その瞳には幕府の軍事力がさらなる高みへ至ることへの絶対的な安心感が宿っていた。


「富を築くのは商人の役目なれど、それを守るのは圧倒的で冷酷な暴力のみ。……世界を制するためには、歩みを止めるわけにはいかぬのでおじゃりまする」


未知の海を進む先遣隊の活躍を知る由もない京都で、薫子は次代の脅威を見据え、自らの手で着実に近代兵器の基盤を組み上げていたのである。

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― 新着の感想 ―
室町時代のイベリア半島はレコンキスタの最終局面ですからイスラムの追い出しに加担するのですか?
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