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もし応仁の乱が起きなかったら? 〜日本を世界最速の大航海時代へ導く〜  作者: tky
第2章:応仁の融和 〜政争の解きほぐしと「国旗」の制定〜

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第25話:日章二引両旗の誕生〜絶対的シンボルの創造〜

京都、室町第。


沈香のふくよかな香りが漂う一室に、静かな緊張感が満ちていた。


将軍・足利義政は、目の前の文机に広げられた最高級の越前和紙を見つめたまま、困惑とも歓喜ともつかない複雑な表情を浮かべていた。


政治の泥沼や血生臭い権力闘争を何よりも嫌い、ただ美しい庭石や茶器を愛でることにのみ安らぎを見出す彼にとって、妻である日野富子からの頼みは、あまりにも唐突で意外なものだったからだ。


「……して、余に旗の図案を描けと申すのか?」


義政は、どこか自信なさげに問い返す。


「ええ、そうでおすえ、上様」


富子は上座から、花がほころぶような、それでいて底知れぬ凄みを秘めた笑みを向ける。


「まもなく、大内や畠山たちの船団が、未知なる外海へ向けて出航いたします。そしてやがて、その莫大な富を守るためのまことの防衛軍が必要となりましょう」


富子は美しい扇子で口元を隠し、義政の目を真っ直ぐに見つめた。


「これから世界の大海原へ漕ぎ出す船団、そしてこの都を守護する軍。これらを一つに束ねる、まことの武家の棟梁たる『絶対的な印』が必要なのですえ」


「印、か……。しかし、そのような軍事の象徴など、余には不似合いではないか?」


義政がなおも躊躇すると、富子は声のトーンを一段階下げ、熱を帯びた声で囁いた。


「ただの旗ではおまへん。天下の誰よりも美を解する上様の、その比類なき御手によって描かれた旗でなければ、荒くれ者どもの士気は上がりませぬ」


富子の巧みな言葉が、義政の心の奥底にある「芸術家としてのプライド」を強烈にくすぐる。


「上様の創り出す美が、この日の本を一つにまとめ上げるのですえ」


「ふむ……」


義政の瞳に、次第に強い光が宿り始めた。


政治家としては無能の烙印を押され、逃げるように芸術の世界へ引きこもっていた彼にとって、「自身の美の才能が国家の象徴として必要とされている」という事実は、抗い難い悦びだった。


***


部屋の隅、御簾の影に隠れるような位置。


そこに、目立たぬようにただ無言で墨をすり続けている十代半ばの女房の姿がある。


幕府の実務トップである薫子だが、この場では完全なる小間使いに徹し、息を潜めていた。


彼女は、一定の律動で墨をすりながら、義政の迷いのない筆運びを横目で追い、内心で凄まじい絶叫を上げていた。


『うおおおおおっ!生・足利義政のガチの筆さばき!歴史の教科書で見たあのダメ将軍が、目の前で国旗をデザインしてるなんて尊すぎる!やばい、歴史オタクとして鼻血が出そう!』


表面上は感情を一切顔に出さず、ただ静かに墨を擦りながらも、薫子の脳内は狂喜乱舞していた。


『史実じゃ政治のドロドロから逃げて、銀閣寺造りに引きこもっちゃう現実逃避の最高峰。でも、こうやって「国家の最高芸術監督」ってポジションを与えれば、誰も不幸にならないどころか、後世に残る最強のクリエイターじゃないの!』


筆が走り、純白の和紙の上に、圧倒的な存在感を放つ模様が浮かび上がっていく。


「単なる足利の二引両では、諸国の大名どもや、見知らぬ異国の者たちには響かぬであろうな」


義政は独り言のように呟きながら、ゆっくりと、しかし確かな自信を持って筆を走らせる。


「なればこそ、日出ずる国の象徴たる源氏の白地に赤き日輪、そして我が足利の二引両を、至高の美をもって融合させてはどうか」


やがて、一枚の旗の図案が完成した。


純白の地に、鮮やかな真紅の日輪。


そしてその日輪を貫くように、力強く、それでいてどこか優美な二本の漆黒の線が描かれている。


「おお……!なんという力強さ、そして美しさでおすか!」


富子が心の底からの感嘆の声を上げ、義政の描いた図案を高く掲げた。


「上様、まことに素晴らしいお働きだす!これぞ天下を統べるにふさわしい、我らが幕府の御旗!早速、京の職人を総動員してこれを染め上げさせ、出航を待つ堺の湊へ届けさせましょう!」


「う、うむ……!余の描いた旗が、海を渡るというのだな。悪くない、悪くないぞ、富子!」


自身の才能が国家の最高権力者によって全肯定され、歴史的なシンボルとして採用されたことに、義政は子供のように目を輝かせて喜んだ。


薫子は静かに筆を置き、畳に深く額を擦り付けた。


『完璧だわ。義政様のご機嫌も取れて、船団の士気も爆上がり間違いなし。何より、あの旗の下で、日本の歴史が史実とは全く違う、輝かしい方向へ進み出すんだから!』


この日誕生した『日章二引両旗』は、後に日本という巨大な経済帝国が世界の海を支配する、絶対的なシンボルとなっていく。

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