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もし応仁の乱が起きなかったら? 〜日本を世界最速の大航海時代へ導く〜  作者: tky
第2章:応仁の融和 〜政争の解きほぐしと「国旗」の制定〜

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第23話:北方の金塊と毛皮 〜関東の闘争心の転換〜

終わりの見えない戦だった。


関東の地は、もはや何年血を流し続けているのかすら定かではない泥沼の様相を呈していた。


「享徳の乱」と呼ばれるこの争乱の中心にいる古河公方・足利成氏は、陣幕の中で忌々しげに舌打ちをした。


宿敵である関東管領・上杉陣営との戦いは、互いに決定打を欠いたまま膠着状態に陥っている。


勝っても得られるものは焼け野原ばかり。


負ければ一族の滅亡。


関東の武者たちの闘争心は高く、勇猛果敢ではあるが、その命は無為に消費されていく一方だった。


「……また、米が足りぬか」


家臣からの報告に、成氏は重いため息をつく。


戦そのものよりも、兵を維持するための兵糧と銭の工面が、武将たちの心をゴリゴリと削り取っていく。


このままでは、関東の地は干からびて死ぬ。


誰もがそう思い始めていた矢先のことだった。


京都の室町幕府より、将軍正室・日野富子の名代として、一人の使者が成氏の陣を訪れた。


使者は武士ではなく、堺から派遣されたという身なりの良い商人であった。


「公方様。長きにわたるご戦労、ほんまにお疲れさんでございます」


「幕府の犬が何の用だ。我らを討伐しろと上杉にでも発破をかけに来たか?」


成氏は冷たい視線を送るが、商人は不敵な笑みを浮かべたまま、一通の豪奢な書状を差し出した。


「御台所様からの直書におます。関東の無益な血流しは、もはや国家の大損害や、と」


「……なんだと?」


成氏は奪い取るように書状を開き、その文面に目を走らせた。


そこには、幕府としての和睦の提案、いや、事実上の「命令」が記されていた。


しかし、成氏の目を釘付けにしたのは、和睦の条件として提示された信じ難い内容だった。


『東国北方コンソーシアム(組合)の設立』


『蝦夷地のさらに北、極寒の海に眠るラッコ・ビーバーなどの極上毛皮の独占権』


『佐渡の金山を足掛かりとした、北方ルートの開拓と利益の折半』


そして、その全てを統括する『北方開拓船団の提督』への就任要請。


「な、なんだこれは……」


成氏の手が震えた。


「関東のえげつない武者たちの命を、身内同士の殺し合いで消費するのはあまりにもアホらしおます。その類まれなる闘争心を、未知なる北方の海へ向けてはくれまへんやろか?」


商人が滑らかな上方言葉で解説を加える。


「南の海では、すでに大内や畠山といった大名はんたちが、幕府の出資ででっかい船を仕立て、香辛料という莫大な富を求めて動き出しておりまっせ」


「大内や畠山だと……!? あの小童どもが、幕府の後ろ盾で海へ出ているというのか!」


成氏の顔に、明確な焦りと嫉妬の色が浮かんだ。


「その通りでおます。このまま関東で泥遊びを続けておられれば、世界の富は西の大名はんたちに全部持っていかれてしまいますわ。御台所様は、公方様の武勇を高く評価してはります。極寒の荒波を越え、異民族と渡り合い、黄金と毛皮を力で毟り取ってくるには、関東の荒武者しかおらん、と」


成氏の脳裏に、全く新しい景色が広がった。


血泥にまみれた関東の平野ではない。


氷山が浮かぶ極寒の海。


見たこともない巨大な獣の毛皮。


そして、船底を埋め尽くすほどの黄金。


「……上杉の連中にも、同じ話が行っているのだな?」


「へえ。憎き上杉はんたちと手を取り合うのは腸が煮えくり返るかもしれまへん。せやけど、これは『商い』におます。共に組合の株主となって、北方の富を山分けする。どないでっしゃろ」


商人の背後には、ただ黙って控える目立たない女房の姿があったが、成氏が気にかけることはなかった。


成氏の胸の中で、長年くすぶっていた関東の泥沼への嫌悪感が、巨大な野望の炎へとすり替わっていくのを確かに感じていた。


「……よかろう」


成氏は書状を力強く握りしめた。


「上杉の阿呆どもに伝えてこい。北の海でどちらが多くの富を掠め取ってくるか、勝負だと!」


この日、関東を長年苦しめた享徳の乱は、暴力の矛先を海外の利権へと完全にすり替えられることによって、あっけなく終結へと向かった。


誰の血も流れることなく、ただ経済という圧倒的な理屈だけが、武将たちの心を支配したのである。

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