9 救出
ピチョン…水滴が落ちる音で朦朧とした意識が戻る、ここでもうどの位こうしているのか…。
隣でぐったりと肩に凭れ掛かっている少年をよく似た面差しの少し年の離れた少年、兄弟だろうか濃い茶色の髪と濃い緑の瞳、肩に凭れた弟の髪を力のない手で撫でた。
地下の牢の様な岩を敷き詰めた冷えた場所、牢には弟と同じ位の少女2人が身体を寄せ合い怯えている。
牢の奥の隅には兄と同じ位の少年が蹲って顔を伏せている、髪は蒼い海を思わせる透明度のある髪色だった。
「トテス…必ず兄ちゃんが助けるからな」
「うん…」
助けるなんて出来ないけど弟を少しでも励ましたいその一心で嘘をつく、両親を事故で亡くしその事故で足を悪くした弟のトテスを養う為、朝から晩まで微々たる金額で働きなんとかその日その日を食いつなぎ、そして騙されてここにいる。
『弟も出来る仕事があるから、来るといい』
そう、その一言でほいほいと付いて行ってしまった。
「ごめんな…」
「ううん…」
何時間か置きに水とパンが出される、それを食べたら何もない不安津波の様に押し寄せてくる…。
牢の外でひらりと何かが一瞬舞う、それに顔を伏せていた海色の髪の少年が気づいたがまたすぐに顔を伏せた…。
「まずい…状況か…」
孤児院の建物の外側を鉱物で補強してた千眼の声が漏れる、周囲には誰もいない詠斗達は中の補修、補強を行っている、いっそ2階や3階も作ろうか等の話しも出ているようだった。
「…私だ…ミネ…不味い状況だ子供達の居場所が分かったが…」
『どこだ?全員無事か?』
「無事とは言い難い…ラインで送られてきた兄弟もいる…5人子供達が牢に捕らわれているが…」
『そうか、そこは転移で行けるか?』
「難しい…私の分体もこれ以上動くと合成獣に見つかる…至る所に気配がある…』
ミネ…2人の時はそう呼べと言われた大河に電話越しで名を呼ぶ、大河のスマホを握る手に力が籠るのが伝わる、迷っているのか考えているのか、奴隷を手札に《ブルラド商会》の一角を潰すその為にはまだそこに証拠の子供達の存在が必要だ、大河は千眼の為に迷っているのだ、ならば…。
「ミネ…私はいい…子供達を…」
『分かった、すまない。手を考える』
「いや…私に出来る事があれば言ってくれ…」
「ああ」
「牢に閉じ込められている奴隷らしき子供達が見つかった、状況は芳しくない。すぐにでも救出しなければ、院長の言っていたトラス、テトス兄弟もそこにいる」
電話を切り状況を素早く周囲に伝え、院長が兄弟が見つかったが牢に入れられている事に嘆き顔を伏せた。
「今すぐの救出ですね、転移は?」
「合成獣の気配が至る所にあるようだ、うまく動けないらしい」
「ねえ、大河さん。小さい物なら千眼さん運べる?」
晴海が大河の服の裾を引っ張る、まだまだ小さい身体、大河が目線を下げる。
「晴海くん、何か案があるのか?」
こくりと晴海が頷く、千眼と詠斗に此方へ戻ってくるように伝えた。
「戻りましたー沢山買い込んじゃいました。バルタルくんこれ使って下さい」
「わ、こんなに…ありがとうございます」
テント内で調理を続けていた、バルタル達にチーズや買い込んだ食材を率が渡す、チグリスは肉を食べながら合流した詠斗達の輪に加わった。
「ちょうど帰ってきたね、今からゲシュレンの所にいる子供達を救出するよ」
「あ、見付かったんですか?良かった」
大河、詠斗、率、綴、晴海、千眼、ジラ、カイネ、チグリスや院長がいる中、まず晴海が魔法付与の紙を生成し転移魔法を付与した物を小さく畳んで千眼に渡した。
「これなら運べる…」
蝶に札を渡し子供達のいる牢に転移させる、後は千眼が視て子供達をこのテントに運ぶだけとなる。
「おなかすいた」
「おうちかえりたい…」
少女たちのか細い声が遠退く意識の中耳に届く、身体に力が入らない、弟のトテスも目を閉じたまま先程から声にも反応しない。
「トテス…ゴメンな…」
「来た、みんな絶対に声を出すな…動くな」
海色の髪の少年の顔だけ上げて手短に指示を出して黙り込む、他の子供達は動く元気も無くじっとしていた。
ひらりと黒い蝶が1羽鉄格子の隙間から子供達の元の頭上で止まり札を落とすのと同時に景色が揺らぐその気配を感じ牢屋の中にゲシュレンの隣に控えていた鑑定不可の生物…合成獣が現れ子供達の転移を阻止しようと札を破壊しようとするが間一髪蝶が拳1つ分の結果を張り子供達の転移に成功、蝶は合成獣に叩き落とされ靴で踏み潰され黒い跡だけが地面に残った…。
「っ…」
「千眼さん!」
「問題ない…分体が1つ破壊されただけだ…」
千眼の髪が1本はらりと落ち、黒い炎が燃えて消えてしまった。
「大変だ、浄化を掛けて…」
「スープや飲み物、布団も用意してますよ!」
「女の子と小さい子は熱が…」
「薬は用意している」
転移されてきた子供達の状態は良くはない、詠斗が浄化を掛けバルタルがスープと飲み物を運びジラが薬を用意した。
子供達の状態を視る為鑑定にかける、トテス、トラス、2人の少女達の状態は衰弱、空腹、熱、栄養失調と出たが1人だけ海色の髪と宝石の様な碧い瞳の少年のステータスに引っ掛かりを感じた。
《マネイナ》国第15王子:衰弱 栄養失調 熱 と出る、何で王子が…と大河は思うがとにかく今は栄養を摂り休む事が先決、今は余計な問題を抱えるのもよくはない。
子供達はスープやミルクを飲み嬉しそうな顔をして、院長は兄弟達が無事だった事に安堵し涙を溢して抱き締めた。
「これで、こちらは片付いたな。次は領主か…」
「俺も行く、一応元傭兵だしな」
「僕も行きます」
「俺も、抗議したい!支援金をいきなり半分以下にして!」
「僕も行きます、この街に奴隷を扱う商人がいる事を知っているなら…」
大河、ジラ、綴、詠斗、率で領主屋敷に向かう事にする、聞けば半年前に前領主夫妻とその息子の現領主が馬車の事故に逢い夫妻は亡くなり、現領主も足を負傷し歩けなくなったとそれから月200,000ログあった支援金が70,000ログに減らされたとそれもキナ臭い。
どのみち孤児院の子供とトラス兄弟は《トタラナ》に連れていく、王子と少女達の身柄の件も確認したい、一同領主屋敷へと向かった。




