26 《コウトル》の孤児院
「こっちです!」
《コウトル》に着いた一行はしゃぐカイネは年相応に見え、早足で皆を招く、町と村の中間のような場所道行く人々の顔はどことなく暗い。
カイネが案内した孤児院と言うよりも雑に木を組み合わせて作った小屋の様な軒先で、小さな子供が3人大泣きしているのを見たカイネが走って行った。
「フナ、アトイ、ポタラ!?どうしたの!?何があったの!?」
「うわあーん、カイネおにいちゃーん」
「タオン兄ちゃんがー」
「うわあーん」
カイネの姿を見つけた3人がカイネにすがり付く、詠斗達も直ぐ様状況を確認する、子供達の身なりはボロボロ、髪も汚れている、不衛生と一言で済ませない程酷い環境下に置かれているのが一目で分かる有り様だった。
「カイネ、ここはいつもこうなのか?」
「い、いえ、ここまででは…とにかく中へ、タオン…俺のすぐ下の子に何かあったようで、先生にも…」
「行こう」
カイネ、大河、詠斗、ジラが中へ入り急ぐ、綴、率、バルタルが子供達の手を引いて行く。
「先生!?タオン何か…」
「これは…」
奥の職員の部屋に入ると、ベッドに黄ばんだ包帯を巻かれ苦しむ子供と祈りを捧げる年配の女性がいた、血の匂い呻く声に大河は顔をしかめるが、ジラが状況確認に入る。
「これは…俺レグ呼んでくる!」
治癒魔法を使えるレグを呼びに畑へ戻る詠斗、フナ達に見せないように連れ出す率とバルタル、大河も動揺しているが平静をなんとか保って成り行きを見ている。
「何時こうなった」
「カイネ来ていたのね。昨日です、魔石とりの最中に岩が落ちて…」
「不味いな…」
「レグ連れてきた!」
「怪我をしているんだろう!すぐに…」
「千眼も来てくれたのか?」
「ああ…主が慌てて側にいた私の手も引いてここへ…」
レグがジラの傍らに並び、タオンの状態に言葉が止まるが回復魔法をすぐさまかけ始める、ジラの表情も固い、一緒に連れて来られた千眼は大河の傍らに立ち事の成り行きを見守る他無かった。
「おねーちゃん、タオにーにげんきでる?」
「ナーナダメだよ邪魔しちゃ」
千眼の髪を小さな少女が引っ張る、千眼が下を見ると指をおしゃぶりしている幼児が真っ直ぐ千眼を見ている、アトイがナーナを抱き上げても、彼女は真摯な眼差しで千眼から目を離さない、大丈夫、治るよの一言が欲しいのだろう、だが、誰が見てもタオンという少年の命は間もなく終わろうとしているのが分かる。
千華の魔王…千華なら諦めかっただろうか…この少女の眼差しに応えるべく、力を惜しまず少年を治したのだろうか…。
『何故治す?治しても彼等は直ぐに逝く…』
『それでも彼等は懸命に生きています、《アタラクシア》の意図…それとは別に私は私として彼等に添おうと思います。千眼…貴方もいつか貴方として魔王ではなく、彼等と寄り添おうと思う時が来ますよ』
『……』
『いつかきっと…』
千華…それが今なのか、千眼は先に少女から目を離しレグの隣に立つ。
「遅すぎた…」
「魔法に耐える体力がもう…それに魂も離れていこうと…千眼?」
「ならば…魂を内に戻す」
「おい!止せ」
「神の介入は無い…いける」
ジラの静止を振りタオンの心臓に手を充てる、岩に潰された半身は潰れ生きているのが不思議な位の状態、抜けようとした魂を千眼の力で押し戻す、上手く魂が戻ったのを確認しレグが治癒魔法を掛ける。
「ああータオン!」
「奇跡か…」
涙を流し跪く女性、感嘆するジラ、傷が癒え穏やかな寝息を立て始めたタオン、ほっと緊張の糸がほどけ胸を撫で下ろす詠斗達…だが千眼が床に崩れ込んだ。
『千眼さん!?』
最初に駆けつけたのはアトイの手からすり抜けたナーナだった、口元を押さえる千眼に手を差し伸べる。
「おねーちゃん、だいじょうぶ?」
「私に触れてはいけない…戻れ…」
気分が悪い、魔力を…使い過ぎたのかそれとも…理に反した結果か…でも心は軽いこの感情は悪くはない…これで…今を失ってもきっと…。
「まだ大丈夫です…貴方は間違っていない」
少女の声が変わる、それは懐かしいという感情を持たない千眼には分からない感情だが、かつて聞いていた声が少女の唇から聞こえた。
「千華…」
「千華の魔王か!」
千眼の言葉にチグリスの目が見開く、奇跡はもう少しだけ続く…。
「寄り添えるます…貴方も私も…」
「力を使うな…」
「構わないません…私はこのままで良い…あの場所で永久に存在すべきなのですから…」
少女の内の千華の魔王が首を横に振り、手から産まれた一輪の白い花を千眼に向ける、白い花は千眼の周囲の空気を吸い込み夜色へと変化した。
「待って!必ず迎えに行くから!千眼さんもナイルさんも貴方を待っている!諦めないで!必ず行く!」
「ああ、必ずどんな場所でも…」
「千眼さんやナイルさん達に取って大切な人なら、僕達にも大切な人です!…」
「時間は掛かるかもしれませんが、努力します。だから貴方も諦めないで下さい」
詠斗が駆け寄り、大河、率、綴が続く、千華の魔王は少し目を見開き、笑って詠斗に夜色に染まった花を差し出し詠斗はそれを受け取った。
「ありがとう…」
そう言って千華の魔王の気配は消え、ナーナがきょとんとした顔で首を傾げてタオンの様子を見て顔を綻ばせて千眼の首に抱き付いた。
「ありがとう!おねーちゃん!」
少しだけ驚いた顔をした千眼だったが、そのままにされておく、あのまま千華の魔王が来なければ内の魔力が暴走して周囲に何が起こるか分からなかった…。
「おつかれさま、千眼さん」
詠斗が微笑み手を差し出す、大河はその状況を見て一波乱起きるなと思った。
「千華の魔王が食い止めたか…」
「千眼魔王の魔力暴走寸前…」
「今回は踏みと止まりましたね…」
「手を考えないとなのです」
「危険…魔力…暴走…魔王…」
「ふむ…たがこちらも止まれん」
「では、これより5人目の召喚の儀を行う」
『意義なし』
《神の庭》にて千華の魔王が千眼魔王の為に無理な出現をしたのを見届け、神々が球体の《アタラクシア》囲む、5度目の儀式だが表情の見えない神々の声は硬い。
誠意と謝意…その気持ちを忘れずに挑む、残り今回を含め4回…半分まで来たがまだまだ治癒の終わりは見えない…。




