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9話 ゴブリンキングの遊び場

「ぎぎゃあああっ!」


 尻尾を掴んだエリートゴブリンの両手からポタポタと血が垂れる。

 そして、勢いこそ削がれたものの俺の尻尾の先はエリートゴブリンの腹に突き刺さっていた。


 力を強めてグリグリと動かすと、エリートゴブリンは悲鳴を上げつつも腕に力を込めてそれを止めようとする。

 だがそんな努力も虚しく尻尾は動く。


 力の差は歴然。

 大幅にレベルアップしたわけではないけどこの差が生まれるっていう事はレベルアップによる能力の上がり幅が大きいという事。

 そしてこんなにも上がり幅があるという事は、レベルアップはそんなに頻繁に行われるものではないという事が分かる。

 恐らく俺がこの短期間でレベルを上げれているのは人間を食べているから。

 人間を食べる事で得られる経験値は数値化されていないがモンスターを倒したりするよりも遥かに貰える経験値が多いのだろう。

 エリートゴブリンや他のゴブリン達は性欲の捌け口等として人間を利用しているが、そもそも捕食はしていない、或いはあまり食べないのどちらかだろう。


「ぎ、ぎぎっ!」


 エリートゴブリンは俺の尻尾が体を貫通してしまった事を把握すると、そこから抜け出そうとはせずに、ひたすら俺の尻尾を爪で引っ掻き始めた。


 痛い。痛いけど。耐えられない程じゃない。

 それに痛みや傷は【リジェネ】によって一瞬で消えるから実質ノーダメージ。


 対してエリートゴブリンは自分の足元に血溜まりを作り、段々と攻撃のスピードを落としていく。


 もう1匹のエリートゴブリンは死んだ女性を抱き抱えたまま。

 なら無理せず、こいつが完全に停止するまで俺は待つだけでいい。

 ただ、それはあそこいるあいつが俺をこのままにしてくれたらの話だが。


――ジャボジャボジャボ


 川の中を渡ってこちらに近寄ってくるゴブリンキング。

 女性の体をまさぐってげへげへと笑ういながら歩くその様は醜いの一言に尽き――


――ジャボ……ジャボ


「んっ! ……ああっ! はぁはぁはあ――んっ!」


 ゴブリンキングは女性の体をまさぐらなくなると代わりに女性の頭を鷲掴みにし、水に入れては出し入れては出し……顔を上げた瞬間の苦しそうな表情をまじまじと見て楽しみ始めた。


 生粋のサディスト。

 こんな事が性的喜びになっているというのが俺には信じられない。


「がっ!」


 あまりに酷い遊びに自分までついつい息を止めてしまっていた。

 俺は慌てて息を吸い、そのまま尻尾を払う。


 すると、もうまともに動く事が出来ず足の踏ん張りさえ利かなくなっていたエリートゴブリンがゴブリンキングのいる川までふっ飛んでいってしまった。


 ――バシャンッ!


 激しい水しぶきを上げたエリートゴブリン。

 その位置はゴブリンキングの目の前。


「――ぎが……」


 仲間が飛んできた事に驚いたのか、それとも遊んでいるところに水を差されて怒っているのか、ゴブリンキングは1度女性を手放してエリートゴブリンをじっと見つめると、今度はゆっくりとその頭に両手を乗せた。


「ぎがああああああああああっ!!」


――パンッ!


 ゴブリンキングの体は膨れたり縮んだりを繰り返しながらもその筋肉を肥大化させ、遂には肥大化し過ぎて関節を曲げられるのかと疑うレベルに達するとエリートゴブリンの頭を両手で挟み割った。

 骨が折れる音を両手が合わせられた音が揉み消し、パンッという音だけがその場には残る。


 浮き出る血管や呼吸のみだれはきっとスキルによるものだけではない。

 この川はゴブリンキングが女性と遊ぶ為の場所であり、施設。

 そこに無断で立ち入るものは容赦なく殺される。

 それがここのゴブリンの群れのルール、暗黙の了解だったのだろう。


 その証拠に残されたエリートゴブリンがより川から遠い場所に移動している。


「……ぎ?」


 ここにきてようやくゴブリンキングと目があった。

 ゴブリンキングからしたら、さっき槍で殺したはずのやつがなんでまだ生きているんだ、とかそういう疑問が浮かん出るんだろうな。


 こいつはエリートゴブリン以上に火が効かない。

 なら接近戦しかないが、あの腕で捕まれるのはまずい。

 そもそも水の中は体温が著しく低下して動きが鈍くなるからこのまま突っ込むわけには……。


「がぁ……」


 悩みながら辺りを見回すと、翼から抜いた鉄の槍が目に映った。


 槍はリーチがあるし、飛行と併用して使っていけばヒットアンドアウェイで あいつを倒しきれるかもしれないけど……槍なんて使った事ないよ。

 しかもこれ手で持てないし、掴むなら尻尾か?


 ――ビュンッ!


「がっ!」


 尻尾で鉄の槍に触れると、俺の顔の横をなにかが横切った。

 掠った事でヒリヒリする上に、なんだか冷たい。

 これは……水?


「ぎかかかかかかかか、かぁっ!」


 傷を負った部分を手で擦っていると、ゴブリンキングは大声で笑い、右手で水を掬った。

 もしかしてあいつが……


 ――ビュンッ!


 ゴブリンキングは槍を投げる時と同じ動きで掬った水を放った。

 水は飛び出すと細く長く先が尖った形に変化して向かってきた。

 やっぱりさっきの攻撃はゴブリンキングだったか。


 水が放られただけでこんな形になる事はない。

という事はゴブリンキングのスキル:【投擲強化】の影響を受けてるって事だろう。

 てっきり槍とか球とか石とかそういった固形のものだけが対象になると思ってたが、これだと手で持ち上げられる殆どのものが対象になるだろうな。


 想像以上に自由度の高いスキル……キングの名に恥じない良いスキルを持ってるってか?

 自慢がしたいなら別の奴にお願いしたいなっ――


 俺はゴブリンキングの放った水を避けると槍を尻尾で拾い上げてジャンプで飛び上がり、翼を羽たつかせて高度を上げた。


 ゴブリンキングは狙いが定まりやすくなったと思ったのか、嬉しそうに再び水を掬う。

 今度はゴブリンキングの動きもスキルも把握している。

 鉄の槍を撃ち込まれた時と同じ轍は絶対に踏まないっ!


 俺はゴブリンキングが再び水を放った直後に、翼をたたみ、頭を下に向けて滑降、そして地面が近くなったところで翼を広げて滑空を始めた。

 そのままスピードを維持して俺はゴブリンキングに鉄の槍を向けた。


 このまま急所を突き刺してやる!


「ぎがっ!」


 ゴブリンキングは俺の行動に面食らったのか、反撃や鉄の槍を掴むような動作をせず、ぎりぎりで攻撃を避けた。

 だが鉄の槍は肩の辺りを掠り、傷を作った。

 鉄の槍での攻撃は有効みたいだ。

 ならこっからはチクチク作戦でいく。


「がぁっ!」

「ぎぎい!」


 上体を反らして滑空の勢いを殺すと、ゴブリンキングの上空から出来るだけ素早く槍で突く。

 ゴブリンキングはそれを受け流して拳を突き出すが、俺もそれを避ける。

 多分鉄の槍を掴もうとするのは、滑空からの攻撃で傷を負った事が原因で出来ないのだろう。

 万が一その勢いを殺せなかった場合は、胴体や頭に槍が当たる可能性がある。それをゴブリンキングは恐れている。


 とはいえこっちはこっちで飛んでいられる時間が限られているし、これ以上の槍攻撃を繰り出す事も使えそうなスキルもない。


 一体どうしたもんかな――


「――きゃああっ!」


 その時何故かさっきまでゴブリンキングに遊ばれていた女性がどこからか飛ばされてきた。


 これにはゴブリンキングも驚いたようで動きを止める。


『【鑑定lv2】』


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種族:人間

状態:衰弱

スキル:槍術lv3、ゴブリントーク、洗浄

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 咄嗟に鑑定したが……この女性、使えるな。



お読みいただきありがとうございます。

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