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10話 仲間

 俺は飛ばされた女性を鑑定し終わると、ゴブリンキングが動き始める前にその女性を受け止め様と、疲労が溜まってきた翼を一生懸命に羽たつかせた。

 距離を詰めて、飛んできた女性の頭を咥えてキャッチした。

 しかし、女性の体を口だけで持ち上げているのには限界があるし、翼の疲労も溜まる一方。


 ――バキッ! ガギッ!


 俺はこのまま女性と一緒に水に落ちる訳にはいかないと思い、女性の頭骨を噛み砕き、口一杯に詰め込むと残りは水に落とした。

 骨と一緒に脳みそを咀嚼して、少しずつ飲み込む。

 

 旨い脳みそだが……今は味わっている余裕はない。

 俺はまだ形が大きめの骨を慌てて咀嚼していく……。


「ぎがあっ!!」


 ゴブリンキングが声を上げてようやく動き始めた。

 この女性がお気に入りだったのだろう、顔を真っ赤にして子供が駄々をこねるみたいに体をねじり、腕を振る。

 そして、ゴブリンキングは雑に水を掬って適当に投げ始めた。


 水の槍が次々に放たれ、俺の身体を掠ってゆく。

 狙いを定めたちゃんとした攻撃じゃない。

 これは悔しさからくるストレスを解消する為に適当に水を放っているだけ。

 奇跡的に正面から飛んでくる事はないが……それもいつまで――


 ――ビュッビュッ!!

 ――ごくっ。


『人間を捕食しました。スキル:【槍術lv3】を盗みました。使用方法:常時発動』


 ゴブリンキングの水の槍が今度は2発連続で、しかも俺の顔面向かって飛んでくる。

 そのタイミングでようやく口の中の物を飲み込み終わるとアナウンスが流れた。


 距離が近すぎて避けるのは至難。

 自信はないが槍を使うか?


 俺は尻尾でつかんでいた槍で水の槍を受けようとしたが、それをするには少し遅かった。

 水の槍はもう、目の前。

 これ、当た――


「ぎっぎぃいい!」


 水の槍が眉間に当たると思った瞬間、俺の身体はなにかに突き飛ばされた。

 俺はそのまま水に落ちると、体温が下がるのを感じて、慌てて陸に上がる。

 なにが起こったのか直ぐに理解しようと俺は陸からゴブリンキングのいる川を見る。

 すると、そこには必死に逃げ惑うエリートゴブリンとゴブリンキングが。


 もしかしてあのエリートゴブリン、俺を助けてくれたのか?

 思えばあのエリートゴブリンは様子がおかしかった。

 死んだ女性を大事そうに抱えたり、仲間に女性をとられる時もなんとも言えない表情をしていた。


 ゴブリンキングや死んでいったエリートゴブリンとは明らかに違う考えを持っている。

 女性と性的につながりたいというのは保有スキルを見る限りあるだろうが、奴隷として使役する事や性欲の捌け口にする事には反対なのかもしれない。

 そういった考えの違いから、ゴブリンキングに対して憤りを感じている。

 だから俺を助けた。女性を投げつけてくれたのはゴブリンキングに俺が対抗出来うる存在と踏んでの事だろう。


 エリートゴブリンという種族にしてはゴブリンキングよりも賢い立ち回り。

 それに自分の大事にしていた女性を殺されたのは死んだエリートゴブリンだが、乱暴な女性の扱いを広めたゴブリンキングが諸悪の根源、そうその賢さから理解しているのだろう、逃げ惑うエリートゴブリンの顔からは恐れ以上に憤怒が見て取れる。


 復讐。

 きっとこのエリートゴブリンはゴブリンキングに対して俺と近い感情を抱いているに違いない。

 だけど諸悪の根源はゴブリンキングじゃない。本当はお前が大事にしていたその女性を見捨てた人間なんだよ。


「があっ!!」


 俺は体に傷を作り、流血するエリートゴブリンとゴブリンキングの間に入り槍を構えた。

 

 こいつは殺させない。

 真実を教えて、初めての仲間にしてやる為に。

 その為にはゴブリンキング……お前を殺して俺の強さを認めさせてやる。


 ――ビュッビュッビュッ!!


 連続で放たれた3つの水の槍。

 俺はそれ冷静に見つめ、尻尾で槍を突き出す。


 通常この状況で3つの槍を落とす事は不可能。

 だけど、俺の突き出した槍は尋常でない速さで引き戻され、次の突きを可能にする。

 結果、余裕で水の槍3つを撃墜。すべて元の水へと戻り、川に戻っていった。


「ぎが!?」


 今ので決まったと思ったのだろう。

 ゴブリンキングは驚き、次の攻撃への動きをしない。

 俺はそんなゴブリンキングの隙を見逃さず、槍の届く範囲に移動して同じようにして槍を突き出した。


 突き出している俺さえ、その速さに目が追い付かず何本もの鉄の槍が突き出されているように見える。

 これが世に言う残像ってやつなのだろうか。


「ぎ、が……」


 ゴブリンキングはそれを出来る限り受け流そうと必死に腕を動かすが、それで捌ける攻撃の数は半分以下。

 俺の突きの数がゴブリンキングの対応出来る数を遙かに上回っているのだ。

 おそらくこのスキルを保有していた女性は槍の技術は相当だった。だが、攻撃力が低い所為でゴブリンキングの防御を突破出来ず、ごり押しで負けてしまった。


 だが俺は攻撃力には自信がある!


「――ぎがああああああああああああああああああ!!」

「があっ!!」


 中々致命傷が与えられず、皮を引き裂き切り傷を付けるだけの時間が少し続いていくと遂に俺の槍がゴブリンキングの右腕を貫いた。

 ゴブリンキングは痛みからか雄たけびを上げて、右腕を反対の腕で押さえる。

 俺はそんなゴブリンキングの左腕を今度は鉄の槍でいくつも穴を空け、両腕を使えない状態にしたやった。


 これでこいつはまともに攻撃出来ない。

 なによりもスキル:【投擲強化】を発揮出来ないというのは大き――


「ぎ、ぎぎいっ!!」


 その時、ゴブリンキングの背後でエリートゴブリンが声を上げた。

 そしてゴブリンキングの首を両手で握り、必死に力を籠める。

 めり込むエリートゴブリンの手、バタつきながらエリートゴブリンを振りほどこうとするゴブリンキング。

 バシャバシャと激しい音が響く中、俺はゴブリンキングの両脚を槍で貫いた。


 これでもう動き回る事は出来ないだろう。


「ぎ……」

「……」


 俺が協力したのが以外だったのか、エリートゴブリンはゴブリンキングの首を握りながら俺と一瞬視線を合わせてぺこっと頭を下げた。

 お礼のつもりなのだろうが……お礼をしたいのはこっちなんだよなあ。


「ぎ、が……。かぁああぁあぁぁ――」


 そうこうしているとゴブリンキングの口から泡が溢れ始め、遂にはピクリとも動かなくなった。

 強敵だったが、なんとか倒せたな。


『レベルが5に上がりました。貴方に神のご加護がありますように』


 これだけのモンスターを倒すと貰える経験値も多いんだろう。

 ふあ、それにしても本当に死ぬかと思ったな。


 でもこれで食料が簡単に手に入れられる様になった。

 これからは人間を心置きなく食べられ……でも、肝心な人間を襲うゴブリンを殺しちゃったんだよな。

 まあそれ用の仲間をこれから集めていけば――


「ぎぎぃ」

「が?」


 川の中から空を見上げて一息ついていると、一緒に戦っていたエリートゴブリンが俺の目の前で跪いて、女性の体を献上するかの様に掲げた。

 どうすればいいのか分からない俺は、取り敢えずその女性を口で受け取り、食い切ってみせた。


『人間を捕食しました。スキル:【洗浄】を盗みました。スキルが重複しました。スキルが統合されスキル:【自動洗浄】に変化しました。使用方法:対象を決め心中詠唱。スキル:【ゴブリントーク】を盗みました。使用方法:常時発動』


 自分の大事にしていた女性は流石に献上出来なかったのか、献上されたのは【槍術】を持っていた女性だった。

 それでも俺がゴブリンキングを倒したところを見て仲間になりたいと思ってくれたのだろう、忠誠心みたいなものを態度や雰囲気から感じる。


「俺、これであなたの仲間でいい?」


 これがゴブリントークの力なのか、エリートのゴブリンの言葉を人語で理解出来る。


「があっ!」


 だが俺の言葉は相変わらずドラゴンのまま。

 それでも何を言いたいのかエリートゴブリンは察したくれたのか、嬉しそうな表情を見せてくれるのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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