13話 進化
「ボス進化! 凄い! まだ強くなるの凄い!」
驚いた表情と喜びの表情、2つの顔を同時に見せるエリートゴブリンを傍目に俺は自分の身体を見た。
黒いつむじ風のようなものが俺を中心にして回り、それと全く同じ色に俺の全身が色づいている。
次第に身体の形が変わっていくが痛みは無く、それどころか胸の内から熱い何かが沸き上がってくる。
同時に強くなる事への高揚感と期待が高まってどうしようもなくわくわくする。
どうしよう、進化してこの場所で寝れないくらいでっかくなっちゃったら。
そうしたらこの巣でちまちま人間を食って殺すんじゃなくて、直に村を襲おうかな。
「――進化終わった! おお、カッコいい……。カッコいい?」
黒いつむじ風が消えると、エリートゴブリンが頭を傾けて何とも言えない表情を見せる。
まさかドラゴンゾンビとかグロテスク系のモンスターに進化してしまったのか?
『進化が完了しました。ベビードラゴンからミニドラゴンに進化しました。身体能力が強化されました。システムの都合上レベルは引き継がれず、新たにレベル1からスタートされます。次回進化可能レベル10。レベル15で強制進化。
スキル【ハードクローLV1】を取得。スキル使用方法:手に意識集中のみ。詠唱無し。貴方に神のご加護があらんことを』
いつもの様にタイミングよく流れるアナウンス。
レベルが引き継がれない理由はレベルの最大値が途方もない数字になってしまうとシステムに大きな不可が掛かるとかそんな感じなのかな?
よく分からないが、俺の身体能力が強化されたのは間違いない。
なにもしていないけど力が漲ってくる。
今の身体なら『槍術』を使わなくても単純な殴り合いでゴブリンキングに勝てるかもしれない、そう思えるほどだ。
嬉しい気持ちと今すぐにでも戦いたいという気持ち、そして……
「ミニドラゴンていう種族名か……。折角進化したのに、『本当に進化したのか?』って思われてもしょうがない名前が気に入らないな。それに見た目も……。これ明らかにさっきより小さくなってるんだけど」
溢れる不満。
モンスターにとってビジュアルなんてものは二の次だっていうのは分かってるけど、やっぱり男心として少しでもカッコいい姿になりたいというのは嫌でも沸いて出てしまう。
次のレベル10って結構遠いし……大きい、想像したとき1番最初に思い浮かぶ様な理想のドラゴンにはいつ成れるのやらだな。
「えっと……角ねじれてるのとかカッコいい。それにミニボス、可愛い?」
「フォローありがとな。はぁ。一応改めて鑑定だけしておくか」
『鑑定lv2――』
『スキル:鑑定のレベルが3に上がりました。鑑定LV3が発動されます』
-------------------------------------
種族:ミニドラゴン
名前:無し
レベル:1
進化回数:1
状態:良好、リジェネ、【暴力無効契約】
スキル:鑑定lv3、リジェネlv1、ファイアブレスlv1、拳闘術、槍術lv3、ゴブリントーク、掃除、裁縫、カリスマ、飛行lv1、複数自動洗浄、料理、火耐性【大】、ハードクローlv1
-------------------------------------
-------------------------------------
種族:エリートゴブリン
名前:無し
レベル:3
進化回数:1
状態:【暴力無効契約】
スキル:声警鐘、性欲筋力リンク、全種族対応種ゴブリン、 火耐性【小】
-------------------------------------
不意に鑑定lv2がlv3に上がると以前よりも詳細な情報が閲覧出来た。
相手のレベルや進化段階を知れるのはこれからの戦闘でかなり役に立ちそう。
これからどんどん仲間を増やして仕事を任せる事になると思うけど、そのモンスターに任せる仕事の判断材料としてやはり強さを示すレベルという情報は必要不可欠。
だからlv3でそれが閲覧出来るようになったのはかなり嬉しい。
lv10でそれが解放とかだったらちょっと困りものだったろうな。
それとあと気になったのは名前の欄。
エリートゴブリンはともかく俺の名前が無しなのはおかしくないか?
人間の時の名前があったはず……あれ? 俺、名前、なんていうのだっけ?
あれ? 駄目だ、思い出せない。
もやもやが気持ち悪い。苛々が募る。誰か、誰か知っていれば教えてくれ……。
『貴方の名前は【ネ】――。分かりませ――。お答え出来ません。……。貴方に神の御加護があらんことを』
無機質なアナウンスの言動が一瞬少しおかしくなったが、直ぐに元に戻ると消えてしまった。
何か言いかけていたけど……。もしかして【ネ】が俺の名前の頭文字なのか?
例えばそれが正解だとしてなんで『お答え出来ません』なんだ?
駄目だ。余計にフラストレーションが溜まる。
「ネ、ネ、ネ……」
「ネ? もしかしてボス、爪、ネイル結構気にするタイプ?俺も大事な武器になるから結構気にしてる。ボス進化して爪、ネイルも鋭くなったから気にするの分かる」
爪? ネイル? 2つの呼び方、か。2つの何か……。ネイル……。んあ!何か思い出せそうだけど思い出せない!ネイル、ネイル……。懐かしい響きがするんだけど……。これが俺の名前だったりするのか?
分からない。
けど、これが俺の名前だったら悪くない。
「そうだな……。俺の名前はネイル。今からそう名乗らせてもらうことにしよう」
『協議判断中……。名付けの権限取得。……。かしこまりました。貴方に【ネイル】という名前を授けます。次回進化の際、名付け親の影響を受けます。……貴方に神の御加護があらんことを』
よく分からないけど、正式に名前を付ける事が出来たらしい。
それに今ので名付け親は相手の進化に影響を与える事が出来るという事も分かってしまった。
スキルを継承出来るのか、それとも身体能力が受け継がれるのか、どういった形でそれが現れるのかはまだ分からないが、弱いモンスターであっても自分次第で強くしたりする事が出来る可能性があるというのは面白――
「あっ! 名前考えてたのか! たまーにゴブリンの中に呼びやすいように名前考える奴いて、それ頭いいって思ってた。でも前のボス、面倒臭いことするなって禁止にして……。ボス! 俺に名前付けて」
名前について思考を巡らせていると、都合よくエリートゴブリンが名前を付けて欲しいと懇願してくれた。
多分キングゴブリンが名前を付けさせなかったのは、自分を越える存在を生み出してしまう事が無いようにする為だったのだろうが、俺には【暴力無効契約】がある。
従者であるエリートゴブリンがもし俺よりも強くなってもそれはメリットでしかない。
となれば早速名前を付けたいけど……。あんまりいいのが思い浮かばないな。
「優しい、甘い、砂糖、ゴブリン、ゴブ、ゴブ砂糖、ゴブトウ……。ゴブト、うーん……」
「ゴブト!? それ俺の名前?」
「え、いや……。もしかしてゴブト気に入ったのか?」
凄く安直な名前の付け方だったが、エリートゴブリンは嬉しそうに目を輝かせる。
本人がこれでいいならもうこれでいいか。
「うん!」
「それじゃあお前は今日からゴブトだ! ゴブト、さっきは今日はもう休むっていったけど、進化したこの身体を試したい。少し外に行くぞ!」
「ゴブトはボス……ネイル様の命令を了解したっ!」
お読みいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけましたらブックマーク・評価を何卒宜しくお願い致します。




